ゾンビジネスホテルは何でも持ち出し可能ってマジ!?

ちびまるフォイ

Q. もしゾンビになったら? A. アメニティ

『子供の誕生日に仕事入れるってどういうこと!?』


「しょうがないだろ、大きな案件なんだから」


『もういい!!』


出張先でのはじめての電話は妻からの罵倒だった。

きっと妻には家庭をかえりみない夫だとでも思われているのだろう。


「……ちょっと高めのお土産でも買っていこうかな」


家族のことを第一に考えているからこそ仕事を頑張っている。

愛情を形で表現しようと思った。


そうなると出張で自由に使えるお金は少なく、切り詰めた生活が必要になる。


「どこかいい宿泊先はないかな……おっ?」


ネットで見つけたビジネスホテルにチェックイン。

部屋に入ると、移動の疲れもあってかそのまま寝てしまった。


翌日、壁越しに聞こえてくるうめき声で目が覚める。


「う゛~~う゛~~」


「……なんだ朝っぱらから」


文句のひとつでも言ってやろうかと部屋を出ると、

ルームサービスのかごを押しながら廊下を行き来するゾンビと鉢合わせした。


「うあぁぁ!? ぞ、ゾンビ!?」


慌てて部屋に戻って鍵をかける。

フロントに電話すると涼しい顔で答えられた。


『はい、このホテルはゾンビホテルとなっております。

 格安で食事付き、最高級のおもてなしこそしますが

 お客様の生命の保証はできかねます』


「そういうことはチェックインのときに言えよ!!」


『おや? そういう説明はいいから部屋に通せと、

 話をさえぎったのはお客様だったような……?』


「だとしても伝えるべきだろ! このゾンビなんとかしてくれ!」


『いえ、私どもも命が惜しいです。どうぞフロントまでチェックアウトしに来てください』


「生きてたどり着いたらぶん殴ってやる!!」


内線電話を切ってからどうしようかと悩んだ。

窓はちょっとしか開かないため、ホテルを突っ切るしか無い。


部屋にあるといえばアメニティくらいなものだ。


「ああ、神よ! 俺に妻と子供にもう一度会える幸運を授けてください!!」


これまでのあらゆる悪事を懺悔して神にいのった。

ぐずぐずしていては大きな商談にも遅れてしまう。


かつて短距離スプリンターとして活躍し、

今では印刷機の営業販売をしている自分の足を信じて猛ダッシュした。


何度も噛まれそうになりながら、階段を駆け下りてついに1Fのフロントへと到着した。

フロントに立つ従業員を視界に捉えるなり、拳を振りかぶって突撃した。


「チェックアウトさせろこのやろーー!!」


けれど、ゾンビ対策でフロントマンの周囲には強化ガラスがあった。

こぶしをガラスに跳ね返されてしまいしばらく悶絶した。


「お客様、チェックアウトでよろしいですか?」


「よろしいに決まってるだろこのバカが! 二度とくるか!!」


「見たところ手ぶらのようですが、本当によろしいのですか?」


「……え? ビジネスバッグはちゃんと持ってきているぞ」


「ではなくアメニティです。このホテルではゾンビ化したお客様の手荷物は

 すべてホテルのアメニティとして自由に持ち帰りできるんです。

 

 何も持ち出さなかったのはお客様が初めてですよ」


「えっ?」


ゾンビを切り抜けるのに精一杯で遺品を持ち出すなんて考えもしなかった。

宿泊客がそのままゾンビ化していれば財布もきっと持っているに違いない。

それを集めれば子供のおもちゃが何個変えるのか。


思わずゾンビホテルに引き返そうかとも思ったが、

すでに商談の時間はせまっていてこのままでは遅刻する。


けれど臨時収入はほしい。


命と金への欲求の板挟みになったときある秘策が思いついた。

チェックアウトはせずにキープして、そのまま商談へと向かった。


商談先の相手は会社の社長で、自分が何度人生をやり直しても届かない生涯年収の持ち主だった。


「……ということでですね、非常に秘匿性の高いものを紹介したいと思っています」


「うむ」


「会社や外では誰が聞いているかわかりません。どこかのビジネスホテルで商談しましょう」


「わかった」


大金持ちをゾンビホテルに誘導することに成功。

すでに顔からニヤニヤが止まらない。


この金持ちがゾンビ化すれば、財産をアメニティとして持ち出せる。

家族が自分を見る目も変わるに違いない。


ゾンビホテルに到着すると、システムを聞かれるのはまずいで車で待たせた。


「社長はここでお待ちください。私がささっとチェックインしてきます」


「うむ。待たせるなよ」


急いでゾンビホテルのフロンに向かった。


「お客様、おかえりなさいませ」


「俺のチェックインは継続しているよな?」


「ええ、まだお客様は宿泊者のひとりです」


「アメニティの持ち出ししてもいいんだよな?」

「そういうシステムですから」


よし、と改めてガッツポーズをとった。

あとは社長をゾンビ化させるだけだ。


「それじゃ1名追加で宿泊させてくれ」


するとフロントマンは難しそうな顔をした。


「お客様、申し訳ございません。実はすでにどの部屋もいっぱいでして」


「はぁぁ!? それじゃゾンビ化させられないじゃないか!!」


「ゾンビのお客様は死なないので、部屋がうまるばかりなんですよ」


「ふざけやがって! 俺が来たときには部屋空いてただろ!

 宿泊したバカはどこのどいつだ!!」


「あ、お客様なにを!?」

「宿泊名簿をよこせ! 俺が追い出してやる!」


ガラスを隔ててフロントマンと名簿の取り合いになった。

それをさえぎるようにケータイがブブブと着信して揺れた。


画面を見ると妻からのメッセージだった。



『サプライズで子供と一緒にあなたの出張先に来ました!

 やっぱりお誕生日は家族とお祝いしなくちゃね』



添付されている画像には楽しそうな妻と子供が映り、

その背景には見覚えのあるホテルの一室が見えた。


思わずケータイを落としてしまった。



「あらたに宿泊した客ってまさか……」



俺は妻と子供がアメニティになる前にゾンビホテルの中へ突っ込んでいった。

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