第2話、入学2

◆◇◆4月1日 晴れ

 入学式が終わり、教室に案内された。席は名前順、僕は名札の貼られた席――――窓際の一列目へ腰を下ろす。

 半分ほど開かれた窓から花のかおりが鼻先をくすぐる。

「……」

 良い場所だ。そう思い瞠目する。

「やあ君、可愛いね。どこ住み? ってかL○NEやってる?」

「いきなり出会い厨に遭遇するとは驚いた」

 後ろの席の男から声が掛けられる。この席位置が誰もが夢見る桃源郷から糞の詰まった肥溜めに早変わりした瞬間だった。

「あ、自己紹介して無かったね。うへへ。俺、君軸春鬼。ハルくんって呼べ」

「命令形で仲を深めるとは恐れ入った。おかげで僕と君の心の距離が十メートルほど離れたよ」

 けれど挨拶したならば挨拶を返すのが礼儀。僕は振り返り、男……君軸さんを視界に入れた。

「はじめまして。僕は秋津雲雀、性別は男だよ」

「は……?」

 僕が冷たく告げると君軸が固まる。僕の性別に驚いたのだろう。客観的に見て僕の身体は華奢だ、女の子と間違えられたことも多い。

「(これで少しは静かに――)」

「TS、枠だと……!?」

「おうマジか」

 ならなかった。なんだコイツ、無敵か?などという下らないことを思っていると教室の扉が開かれた。

「おーし、全員いるな」

 現れたのはスーツの女性。着慣れていないのか若干襟の部分が左右非対称になっている。彼女が出たことでクラスが若干ざわつく。

「わあ……美人さん」

「先生かな……いくつだろ」

 僕は先生の顔を視界に入れる。少しだけ、変な気持ちになった。

「……!?」

「どした雲雀? そんな可愛い顔して」

「呼び捨てか、いいね。二度とするなよ」

 なんだ、あれは。僕は動揺を隠す。あの先生が読めない。

「あー、私は明日から君らの担任になるもんで」

 ――何も、分からない。あの人の感情が読めない。

 黒板からカッカッ、と小気味よい音が響く。

「冬空花子、25歳独身。んなわけでよろしくゥ」

 冬空先生はそう言ってチョークを指で弾いた。

「今日は教科書とか渡したら即解散になる」

 黒板下チョーク収納を開き、空中にあるチョークを掴んでいれる。

 使用した右手を軽く弾いて粉を落とした。

「じゃ、そういうわけでー。あーんー……じゃあ、出席番号五番 秋津、手伝え」

「はい」

 指定され、僕は席を立った。

「……久しぶりだな、元気してたか」

 冬空先生が僕にそう声を掛ける。だがおかしい、僕は冬空先生と初対面のはずだ。

「……? すみません、人違いでは、ありませんか?」

 僕がそう言うと冬空先生はキョトンと目を丸くした。しかしややあって。

「え……? あ、そう、だったな……うん、すまん。人違いだったみたいだ」

 と、だけ返した。

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