頭おかしい異常者どものラブコメ

足将軍

第1話、入学1

◆◇◆

 ――――異常者とは悪である。

 平和な現代、平和な日本、そんな場所でさえ一定数の〝例外〟は存在する。

 ――――異常者とは悪である。

 殺人鬼、犯罪者、精神異常者、サイコパスに異常性癖、昨日は親友が今日の彼女を寝取ったり、罪のない何処かの誰かを顔の見えない場所から殺す恥知らずの畜生、少女が嬲られる姿に喘ぐ高校生――――総じて異常者。

 ――――異常者とは悪である。

 異常者であることを隠し生きる者もいれば、異常者であることを隠さずにあるがままに生きる悪もいる。

 ――――異常者とは悪である。

 異常者は何処まで行っても異常者であり、ゆえにそれは必然的に居場所を失うべきである。

◆◇◆

 ――――世界は色に満ちている。

 幼い頃から、そんなことばかり思っていた。

「秋津は……よし、先生と組むか!」

 先生はその時、不快と少しの熱量を纏っていた。

 ――――世界は色に満ちている。

 少し遠くで色が見える。不安不快の絵の具を水中で数度掻き混ぜたような……そんな色だ。

「あの子が噂の?」

「そうそう……親が人殺しで逮捕されて……」

 ――――世界は色に満ちている。

 でも、一つだけ足りない色がある。それをずっと、ずっと探している。

『新入生代表、次席立花拳墜さん』

 15歳春、その色はまだ見つかっていなかった。


 春。開いた扉から桜が見えた。少しの湿り気と優しい風が頬を撫でる。

「次席……? 主席じゃないの?」

「ああ……なんか主席は色々あって辞退したらしいんだよ」

 僕の耳に微かな話声が聞こえる。その瞬間、脳裏にポツリと色が浮かぶ。

「(微かな不安……)」

 僕は意識を壇上へと向ける。小さな女の子が壇上に立つ。しかしマイクに背が届かないのか他の先生が慌てて台を用意してる。

「かわいいな……マスコットにしか見えない」

「あの子が次席?」

 生徒の声が広がる。だが次の瞬間、響いたのは少女の咳払いだった。

『――――コホン』

「(熱量を覆う不安……)」

 意図的な咳ばらいがスピーカーを通して広がる。生徒の話声が止んだ。

「(……? 今、こっちを見た……? この近くに同じ中学の友達でもいるのかな……?)」

 声の主である少女――新入生代表立花拳墜は一瞥するとすぐに文を読み始めた。特に当たり障りのも無い新入生代表としての言葉。生徒の大半が聞き流す。

「(自信と微かな熱量、その内側に不安……うん……? 不安が強くなってる……?)」

 僕は声と表情から色を見た。身体に緊張が少しずつ流れる。

 体育館全体に流れる微かなカノンは機械質の音であるゆえ、何の色も持たない。

『以上、新入生代表……立花拳墜メリケンサック

 体育館がざわりとする。立花さんはプルプルと震えている。

『……え……? あ……拳墜と書いてメリケンサック……!? え……あ、失礼しました……拳墜メリケンサックさん、ありがとうございま……あ、いや、違う……い、以上、新入生代表挨拶でした』

 進行の生徒が戸惑っていた。誰も想像できないであろうキラキラネームは体育館の至るところで呟かれていた。

「メリケンサック……?」

「どういうことだってばよ……」

「メリケンサックしたのか……? 俺以外の奴と……」

 立花さんは自分の席で小さくなりプルプルしていた。

『続きまして――――』

 その後、弱放心状態の生徒らの前で入学式が進んだ。

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