エピソード解説⑤/後編 やってみたかったこと詰め合わせ

〈五月雨〉

 はい、【機巧探偵クロガネの事件簿4 ~都市伝説と怪盗と~】解説のコーナー後編です。

 後編はクトゥルフ神話が絡んだ〈怪盗編〉ということで、前編の〈都市伝説編〉とはガラリと作風というか雰囲気が変わります。

 それでは、解説に行ってみましょう。



【第6章】探偵VS怪盗①


〈五月雨〉

 冒頭の怪盗視点のモノローグは当然、銀子やクロガネ達と共に美術館に訪れた優利のものです。冷静かつ客観的に周囲の分析を行っていますね。

 マインドセットで手袋を嵌める行為も探偵として仕事をするにあたって自然なものですし、誰も怪しいとは思いません。


〈莉緒〉

 探偵業の傍ら怪盗行為を行う。江戸川乱歩の『怪人二十面相』を彷彿とさせるわね。


〈五月雨〉

 実際に優利が演じる怪盗〈幻影紳士〉は『怪人二十面相』をモチーフにしています。名前の方は『金田一少年の事件簿』に登場する『怪盗紳士』を参考にしています。


〈莉緒〉

 さて、優利=怪盗であることを前提で読んでみれば解る通り、【宵闇の貴婦人】がある展示室の下見の提案も、館長にガラスケースを開けるよう促すのも全て優利の発言によるものね。


〈五月雨〉

 さり気なく自然に周囲を誘導する辺りは流石怪盗というべきですね。


〈莉緒〉

 でも盗むに至るまでの撹乱方法が割とアナログなのね。爆竹とか照明の遠隔操作とか。一応SFな世界観なのに。


〈五月雨〉

 これは美優の存在が大きいですね。デジタルな方法で盗もうとすれば、美優がすぐに察知して対応してきますから、あえてアナログな方法を採用しました。何気に美優の弱点がはっきりした回でもあります。


〈莉緒〉

 なるほどね。

 展示室はネット環境の無いスタンドアローンで美優の力は届かないし、停電になれば監視カメラも動かない。爆竹で一同の意識を逸らした隙に真後ろにある展示室に忍び込み、館長の顔に化ければオートマタも攻撃してこない。ガラスケースの表面に光学迷彩仕様のマジックフィルムを貼り付けてあたかも【貴婦人】が盗まれたと錯覚させ、言葉巧みに館長にケースを開けて貰うや横から【貴婦人】をかっさらう――一連の動きを整理してみると、結構大胆だな。


〈五月雨〉

 大胆不敵な犯行も怪盗らしいと私は考えています。



【幕間6】


〈五月雨〉

 怪盗としての本性を現した優利のモノローグですね。【宵闇の貴婦人】を盗んだ直後の彼の心情です。

 盗みの手順もざっくりとですが、おさらいしてます。


〈莉緒〉

 具体的な手順については、次の【第7章】でクロガネと美優が推理というか披露するわね。


〈五月雨〉

 念入りに犯行計画を練っていたようでいて、一部は運任せ。

 そこは単独犯ゆえの限界なのでしょう。


〈莉緒〉

 怪盗キッドやルパン三世のように鮮やかにとは行かない辺りが、またリアルだなw


〈五月雨〉

 それは狙って描写しました。

 銀子以外の警備がクロガネ探偵事務所の二人でなければ、成功率は格段に跳ね上がっていた事でしょう。

 さて、そんな厄介なクロガネと美優を前に、怪盗はどうやって脱出するのか……まぁ、割と簡単に出て行ってしまうのですがw


〈莉緒〉

 本当になw



【第7章】呪いと忍び寄る影


〈五月雨〉

 館長の顔と声でオートマタをクロガネ達にけしかけた隙に脱出。

 本当にあっさりと出て行きましたよ、この怪盗w


〈莉緒〉

 それから一分足らずでクロガネがオートマタ全機を単独で撃破するって、流石主人公だ……。


〈五月雨〉

 展示室に閉じ込められている間、怪盗の犯行手順の整理と変身能力の分析を行います。


〈莉緒〉

 冷静だなぁ。

 まぁ、他にすること無いから当然の帰結かもしれないけど。


〈五月雨〉

 何やかんやあってホールに出れたと思ったら、【宵闇の貴婦人】の持ち主である宝石商のリチャードから「すぐに取り戻さないと死人が出る」と不穏な事を言われます。


〈莉緒〉

 【宵闇の貴婦人】の正体、そして美術館に迫り来る一台のトラック、その運転手は異形の怪物……クトゥルフ神話が始まったw


〈五月雨〉

 クロガネ達にとっては全然笑い事ではありません。



【幕間7】


〈五月雨〉

 一方、怪盗は【宵闇の貴婦人】を盗むよう依頼してきたナイ神父が居る寂れた教会に向かいます。


〈莉緒〉

 荒れ果てた堂内、飛び散った血痕、明らかにヤバイ場所よね。


〈五月雨〉

 しかも待ち構えていた相手はニャルラトホテプの化身で、生きて帰れる保証が皆無です。

 現に報酬(偽札)が詰まったケースには対人地雷が仕掛けられていましたし、用済みとなった怪盗を殺す気満々でした。

 地雷を回避されたら、今度は教会に住んでいた親子をグール化させて襲わせるという鬼畜ぶり。怪盗のSAN値(正気度)がゴリゴリと音を立てて削られている事でしょう。


〈莉緒〉

 ところで、ニャルラトホテプが【宵闇の貴婦人】を盗むよう怪盗に依頼してきた経緯って何なの?


〈五月雨〉

 それについては【幕間14】にて莉緒に化けたニャルラトホテプの口から明かされますので、割愛させてください。


〈莉緒〉

 先が長いなぁ。


〈五月雨〉

 結局のところ、かの邪神の愉悦のために怪盗は巻き込まれたものだと思ってください。本当にロクでもない理由なので。


〈莉緒〉

 ですよねw

 それじゃあ、次。



【第8章】架空の恐怖と反転する現実


〈五月雨〉

 リチャードが【宵闇の貴婦人】を手に入れた経緯が語られます。同時に親友を殺した存在に復讐するため様々な準備や行動をしてきた事も明かされます。


〈莉緒〉

 その行動の一つが、美術館に展示した【貴婦人】を餌に復讐する相手を誘き出そうとしていたとか……本当に迷惑な話だw

 この宝石商、大丈夫? SAN値削られ過ぎて狂人の発想してない?


〈五月雨〉

 狂人に近い精神状態だとは思いますが、まだ常人の範疇です。多分。

 実際、怪物や怪物を信奉する邪教集団に対抗する武器も近くに展示してありましたし、緊急時の対策も抜かりないです。


〈莉緒〉

 美術的価値のある展示品を武器にする時点で常人の発想じゃないよね。

 展示品の全てがリチャードの私物ってわけでもないんだし。


〈五月雨〉

 さて、リチャードの口から出たキーワードから、美優が神話生物――HPLの存在に勘付きます。直後にクトゥルフ神話ではお馴染みの半魚人――『深きものども』が現れて血生臭い戦闘が始まります。


〈莉緒〉

 『4』作中では結局明かされなかったけど、そのHPLって何の略称なの?


〈五月雨〉

 『ハワード・フィリップス・ラブクラフト』のイニシャルです。

 ラブクラフトは『宇宙的恐怖コズミックホラー』というジャンルを初めて立ち上げた偉大な作家で、彼の小説に感銘を受けたファンや小説仲間たちが、こぞって彼のアイディアを下地にした作品や二次創作の数々を世に送り出しました。

 やがてそれが、『クトゥルフ神話体系』と呼ばれるものになって今に至ります。


〈莉緒〉

 二次創作もなんだ。


〈五月雨〉

 ラブクラフトは今でいう同好会や同人サークルのように同じ趣味人が集まって評価・創作する環境を好んでいたようです。

 自身のアイディアを他者が使用する事を快く許可した結果、ラブクラフト以外の作者によって様々な神話生物や物語が数多く生まれました。そこがクトゥルフ神話の数ある魅力の一つですね。


〈莉緒〉

 へぇ~。それじゃあ、『機巧探偵』の作中に出ていたHPLは?


〈五月雨〉

 『クトゥルフ神話』や『神話生物』という単語が存在しない世界観なので、その代用としてラブクラフトのイニシャルであるHPLを採用しました。勿論、ラブクラフト本人も実在しないという設定です。

 そして『機巧探偵』におけるHPLの正式名称については、実は今も考えていませんw


〈莉緒〉

 おいw


〈五月雨〉

 良いアイディアが浮かんだら『5』以降で出してみようかと思いますw

 ちなみに、クトゥルフ神話は存在しないにも拘わらず、【第9章】でクロガネと美優のやり取りを見るに「SAN値を削るTRPGの類」は存在しているようですね。


〈莉緒〉

 どんな内容のTRPGなんだか。


〈五月雨〉

 さて、『深きものども』との戦闘について解説に戻ります。

 まともに戦えているのはクロガネと美優ぐらいですね。『機巧探偵』では定番になった多勢に無勢な乱戦です。


〈莉緒〉

 相手が人外の怪物とはいえ、美優が戦闘に参加するのは初めてね。しかも中々強いw


〈五月雨〉

 ハッキングでの情報収集などで忘れがちですが、彼女はガイノイドです。普通の人間よりも頑丈で強いのは当然ですね。


〈莉緒〉

 妖刀・村正で大立ち回りのクロガネ。


〈五月雨〉

 対怪物用として、これほど頼りになる刀も無いでしょう。『3』で新倉とチャンバラした経験もここで活きてます。

 ちなみに清水が使用した槍も、実は村正の作品です。


〈莉緒〉

 刀鍛冶って刀だけじゃなく、槍や薙刀も作ったりするからね。

 何とか乗り切って美優からHPLの説明。


〈五月雨〉

 ゼロナンバーの一部は過去にHPLと戦った経験があります。クロガネが異形の怪物を前にしても動じなかったのはそのためです。

 もっとも、彼の場合『1』で〈サイクロプス〉というトラウマ級のBOW(生物兵器)と戦った経験があるので、今更半魚人程度で取り乱す事はありません。


〈莉緒〉

 と思っていたら、最悪の邪神が現れる……と。



【幕間8】


〈五月雨〉

 一方その頃、怪盗はというと。


〈莉緒〉

 ナイ神父がけしかけたグール三体を単独で撃破しているわね。本当にこいつも強いw


〈五月雨〉

 何とか返り討ちにして安心したら、グールの死体が元の人間の姿に戻るという精神的追い討ち。またも怪盗のSAN値がゴリゴリ削られます。


〈莉緒〉

 本当に悪趣味よね、この仕打ちには怪盗じゃなくとも怒り狂うわっ。


〈五月雨〉

 ナイ神父に取り付けた発信機の信号を追って、怪盗は再び美術館に向かいます。

 というより、ナイ神父の事ですから発信機の存在に気付いていたと思いますね。


〈莉緒〉

 あえて取り外さずに、怪盗が来るのを期待していたと?

 本当にムカつくなぁ、あの外道。


〈五月雨〉

 きっと怪盗も同じ気持ちでしょう。彼もナイ神父が発信機の存在に気付いていながら外していない事を察していたと思います。


〈莉緒〉

 兎にも角にも、次の【第9章】で主要キャラが再び一堂に会するわけね。



【第9章】探偵と這い寄る混沌


〈五月雨〉

 ナイ神父――ニャルラトホテプの化身がついにクロガネ達の前に現れます。そして意味深に、莉緒とは何やら関係があるような発言をしますね。


〈莉緒〉

 疑似心臓やゼロナンバーの内情まで知っているのは、当然クロガネにとっても看過できない事態よね。

 とはいえ、美優や銀子の前で生け捕り、もしくは抹殺を即実行に移すのは流石としか言いようがないわ。


〈五月雨〉

 目の前の得体の知れない存在を野放しにすれば、獅子堂家だけでなく美優にも危害が及ぶと判断したのでしょう。相変わらずブレない男です。


〈莉緒〉

 再起不能な重傷を負わせたにも拘らず、すぐに再生して何事もなく立ち上がるナイ神父。無残に殺される館長。友の仇を前に慟哭するリチャード。静かに怒り狂うクロガネ。


〈五月雨〉

 そのクロガネによってナイ神父は今度こそ消滅します。

 首を刎ねられ、心臓を貫かれ、切り離された頭部に電磁パルスを喰らえば、どんな怪物でもひとたまりもありません。


〈莉緒〉

 ただし、千の化身を持つ這い寄る混沌には通用しなかったけど。

 この後また別の化身が現れるし。


〈五月雨〉

 いや、実は一概にそうでも無いんですよ。

 クロガネが放った電磁パルスによって、ナイ神父という存在は完全に撃破されました。以降『機巧探偵』の作中においてナイ神父が現れる事は永遠にありません。


〈莉緒〉

 というと、クロガネの電磁パルス――『破械の左手』は神格特攻があると? 確かにこの時のチャージ速度がいつもより早い違和感があったけど……。


〈五月雨〉

 実は解っているのに解らないフリ、ありがとうございます。

 おさらいですが、『破械の左手』のエネルギーはクロガネの疑似心臓から賄っています。疑似心臓は特殊なナノマシンを無尽蔵に生成する『核』でもあります。

 そしてその疑似心臓を造ったのは莉緒であり、莉緒に疑似心臓の知識と技術を提供したのは……。


〈莉緒〉

 ……まぁ、そういうことだよね。


〈五月雨〉

 目には目を。歯には歯を。

 ハンムラビ法典は偉大ですね。


〈莉緒〉

 それなw


〈五月雨〉

 ナイ神父撃破後、満を持して怪盗が戻ってきました。

 某刑事ドラマでの名台詞「何じゃこりゃぁッ!?」でブレイクした松田優作の顔に化けての登場です(※21)。


〈莉緒〉

 いや、「何じゃこりゃぁッ!?」を言わせたかったがために松田優作の顔を出したんでしょw


 ※21「何じゃこりゃぁッ!?」

 1972年(昭和47年)から1986年(昭和61年)に掛けて放送された刑事ドラマ『太陽にほえろ!』で、松田優作が演じたジーパン刑事が殉職する際に放った世紀の名台詞。しかも一連の殉職シーンの台詞は全てアドリブであり、松田優作の演技力が如何に凄まじいものであったのかが窺える。


〈五月雨〉

 情報の交換と共有を果たした後、怪盗と銀子のやり取り。

 既にこの時点で優利が拘束されて放置された下りは嘘で、怪盗=優利本人だと察した読者の方は多いと思います。


〈莉緒〉

 メタ視点の考察はともかく、作中の銀子は怪盗の正体が優利だとは思ってもいません。流石にクロガネと美優はこの時点で薄々勘付いていたと思うけど。清水とリチャードは知らん。


〈五月雨〉

 そして突然の停電。そして現れるニャルラトホテプの化身、『無貌の神』の登場です。


〈莉緒〉

 人間の手足が蜘蛛のように無数に生え出た巨体に、大きな口のみが存在する怪物。

 作中で語られていたけど、この『無貌の神』のモチーフは勿論『カオナシ』(※22)よ。


 ※22『カオナシ』

 宮崎駿監督のジブリ作品『千と千尋の神隠し』に登場したキャラクター。全身が真っ黒な影で名前の通り顔が無く、不気味な仮面を着けている。多種多様な神や妖怪が登場する『千と千尋の神隠し』の中でも一際異形の存在であるが、その正体は不明。監督曰く「誰の心にも存在するもの」とのこと。「欲望の象徴」など、様々な考察や意見もある。

 ちなみに作者は、カオナシの正体は『無貌の神』=ニャルラトホテプに近い存在と見ているため、今回の『4』でカオナシモチーフの『無貌の神』が登場した。


〈五月雨〉

 クトゥルフ神話でも最悪な存在を前に茶番を展開するクロガネ達。


〈莉緒〉

 肝が据わっているというか、随分と余裕よねw


〈五月雨〉

 余裕なんてありませんよ。

 茶番をしたのはいくつか理由がありまして、


①クロガネ自身は勿論のこと、周囲が発狂しないように道化を演じる。


②援軍が到着するまでの時間稼ぎ。


 ……という目的がありました。


〈莉緒〉

 時間稼ぎにしろ、茶番に乗るニャルラトホテプも大概よね。


〈五月雨〉

 クトゥルフの神格の中で唯一対話が出来て、人間との接触や交流が深い存在ですからね。

 クロガネ達が何か企んでいる事を察していながら茶番に付き合ったのは、人間程度に負けない自信があったからでしょう。


〈莉緒〉

 完全に慢心じゃないの、それ。

 結局、ゼロナンバー達からフルボッコにされてるし。


〈五月雨〉

 ここで邪神が美優と銀子を盾にしなかったのは、当初の目的を優先したためです。

 そもそも美優と銀子を捕獲した理由は、後で説明される通り人間社会を内側から崩壊させるための礎、もしくは生贄にするためでした。

 美優と銀子は経済界や政界にも繋がりのある獅子堂家の令嬢なので、ニャルラトホテプ自身か『深きものども』と交配させて彼女たちに怪物の眷属を産んで貰い、人間社会を裏から操り混乱させる目的で二人を捕まえたのです。そんな重要な存在を弾除けの盾にするのはマズいと考えた故の行動であって、邪神に僅かでも良心があると期待するのは完全に間違っています。


〈莉緒〉

 本当にロクでもなかった!(憤怒)


〈五月雨〉

 さて、フルボッコにされた『無貌の神』は消滅したと見せかけ、今度は『顔のないスフィンクス』に化けると美優と銀子を攫って去っていきます。


〈莉緒〉

 悪者に攫われるとか完全に扱いがヒロインね。ヒロインだけど。



【幕間9】


〈五月雨〉

 攫われた美優と銀子の救出に向かう車内でのやり取りです。


〈莉緒〉

 ちゃっかり怪盗まで便乗しているわね。

 ていうか、出嶋(デルタゼロ)は怪盗の正体を知っていて同行させたんでしょ?


〈五月雨〉

 その通りです。知っていて初対面なフリをしていますね、本当に白々しくて腹黒い奴です。

 ちなみに新倉とナディアも怪盗の正体が同僚の〈インディアゼロ/イリュージョン〉であるとは思ってもいません。インディアゼロは潜入工作特化のゼロナンバー、つまりはスパイなので彼の素性を知る者は同じゼロナンバー内でも極一部です。


〈莉緒〉

 薄々勘付いている筈のクロガネは、流石に過労で仮眠を取るわね。


〈五月雨〉

 怪盗も疲れている筈ですが、連戦が続いていたクロガネの方が疲労の色も濃いですね。無理もありません。


〈莉緒〉

 銀子が分家筋とはいえ、獅子堂家のお嬢様だった事がここで明かされるわね。ナディアは知らなかったけど、他の面子は知っていたのでしょう?


〈五月雨〉

 それは勿論、雇い主の家系ですからね。新倉はともかく、デルタゼロの端末なら過去に数回は銀子の護衛任務などに就いていたかもしれません。

 作中でも触れましたが、仮に美優を莉緒の実の娘として見た場合、美優と銀子は従姉妹違いという関係になります。



【第10章】二人のお嬢様と逃走劇


〈莉緒〉

 その従姉妹違いでお嬢様な二人が、怪物たちが拠点にしているクルーズ船に拉致られると。


〈五月雨〉

 美術館から場所を移し、クライマックスは船上での戦闘とか胸が熱くなりますね。『スピード2』(※23)を参考にした甲斐がありました。


〈莉緒〉

 本当にアクション映画が好きなんだなぁ。


 ※23『スピード2』

 キアヌ・リーヴス主演の大ヒットアクション映画『スピード』の続編……なのだが、前作主人公だったキアヌが降板し、ストーリーも「バスから船に置き換えただけの駄作」という批判から本国アメリカではラジー賞最低続編賞を受賞した。

 『スピード2』の舞台となる豪華客船では、〈宝石商〉が〈高額のダイヤモンド〉を持ち寄ったジュエリー・コンベンションが開催されるなど、所々で『4』と共通するネタが散見している。


〈莉緒〉

 アクションといえば、美優が今作でかなり活躍するわね。


〈五月雨〉

「いつまでも安楽椅子探偵とは言わせない」とばかりに体を張りますね。相手が人間でなければ物理的な戦闘もこなせるように美優の設定を少し変更しました。

 そしてまさかの再登場を果たしたドッペルゲンガー事件の首謀者、出目治が『深きものども』化し、探偵たちに復讐しようとします。


〈莉緒〉

 その出目に巴投げ。


〈五月雨〉

 半魚人からライフルを奪って銀子と共に脱出を図る。


〈莉緒〉

 遅れてクロガネ達が駆け付ける。


〈五月雨〉

 この展開に作者が燃えないわけがないっ。


〈莉緒〉

 あんたかよw



【幕間10】


〈五月雨〉

 時間は少し遡り、クロガネ、新倉、怪盗の三人が空挺団ばりに空から船に向かってダイブするシーンです。

 この【幕間10】は『メタルギアソリッド3』の序盤で、主人公のネイキッド・スネークが遥か上空の輸送機から高高度降下低高度HALO開傘で敵地に潜入するシーンを参考にしてます。


〈莉緒〉

 パラシュートなしとか正気の沙汰じゃない。

 代わって機械仕掛けの傘、プロペランブレラ(仮)で滑空するとか本当に無茶な降下シーンよね。


〈五月雨〉

 プロペランブレラ(仮)は『新機動戦記ガンダムW』の第三話「ガンダム5機確認」より、連合軍病院に拘束された主人公ヒイロを救出したデュオが、施設から脱出する際に使用した杖状のローター(?)が元ネタとなっています。


〈莉緒〉

 元ネタの説明が細か過ぎて注釈挟む隙がねぇよっ。

 ともかく、そのプロペランブレラ(仮)は展開するとヘリコプターのローターのように回転して揚力を発生させる飛行アイテムみたいな認識でOK?


〈五月雨〉

 OK。

 そして降下直前で、ナディアからどこかで聞いたことのある激励。これも『メタルギアソリッド3』のネタです。

 ちなみに『メタルギア』の紹介については、既に『1』の解説でありますので割愛します。


〈莉緒〉

 確かな決意と覚悟を胸に、主人公は降下して次に続くと。



【第11章】籠城と合流


〈莉緒〉

「大型のクルーズ船なら船内にショッピングモールくらいあるじゃろ?」という作者の偏見で籠城戦をする回ね。


〈五月雨〉

 ゾンビ映画などでは定番のネタですが、実際に迫り来るのはゾンビではなく半魚人ですがね。


〈莉緒〉

 本当に『4』では作者がやりたかったことの詰め合わせね。

 急展開に次ぐ急展開で密度が濃いわ。


〈五月雨〉

 そりゃあ銀子も「どうしてこうなった?」と頭を抱えるわけですよw


〈莉緒〉

 客室に閉じ込められた時からだけど、徐々に美優と銀子は仲良くなっていくわ。吊り橋効果とまでは言わないけど、共に死地を駆け抜けているからかしらね。


〈五月雨〉

 力を合わせないと確実に死にますからね。そりゃ仲良くもなります。


〈莉緒〉

 ここで美優の義体について触れられるわね。まさか外皮の損傷まで再生するとは、流石デルタゼロの作品ね。〈ドールメーカー〉の名は伊達じゃない。


〈五月雨〉

 これでもまだ発展途上ですね。またデルタゼロが新型義体を開発すれば、そちらに換装する事でしょう。


〈莉緒〉

 ……それって換装する度にクロガネの借金が減らないどころか、むしろ増えるって事よね?


〈五月雨〉

 その通りです。

 そして獅子堂絡みの厄介な依頼が、より一層舞い込んでくるとw


〈莉緒〉

 本当にゲスイわね、デルタゼロは。

 クロガネをゼロナンバーに引き摺り戻す気満々じゃない。


〈五月雨〉

 そういう奴なんですw

 さて、火炎瓶作成やら雑談やらを経てついに籠城戦にシフトします。


〈莉緒〉

 人質である筈なのに容赦なく銃を撃ちまくる半魚人。

 果たしてこいつらに人質の概念や交渉の余地はあるのか……。


〈五月雨〉

 乱射しているのはきっと威嚇です。

 威嚇と称して撃つのをやめませんw


〈莉緒〉

 そしてようやく救出部隊の合流。

 二人のクロガネが登場。


〈五月雨〉

 一方、美優の巴投げで沈黙した筈の出目治に、異変が起きます。



【幕間11】


〈五月雨〉

 所変わって美術館に残された清水とリチャードのやり取りです。


〈莉緒〉

 不安そうなリチャードとは対照的に、清水は落ち着き払っているわね。

 それだけクロガネとの付き合いも長いし、信頼して……いや、これ信頼してるの?w


〈五月雨〉

 大量の始末書や報告書など、クロガネ絡みで余計な仕事が増えるのは確実で辟易してますが、少なくとも信用はしてるでしょうよw


〈莉緒〉

 いつか清水の胃にでっかい風穴が開くわね。南無……。



【第12章】二人のクロガネと脱出劇


〈五月雨〉

 怪盗がクロガネに変身してニャルラトホテプを撹乱する作戦でしたが、あまり意味が無かったですねw


〈莉緒〉

 肝心の邪神自ら出て戦おうとしなかったからね。

 『4』のラスボスは『ダゴン』だったし。


〈五月雨〉

 半魚人――『深きものども』の親玉ですね。

 クトゥルフ神話では『父なるダゴン』と称され、『クトゥルフ』の従者であり、『深きものども』の統率者です。他に『母なるハイドラ』と称される伴侶が居ますね。


〈莉緒〉

 ……作中では出目治が核となり、大量の『深きものども』と融合して『ダゴン』になったわけだけど、もし出目の恋人だった青葉信子が生存していたら彼女も『ハイドラ』になっていたりする?


〈五月雨〉

 一つの案としてはありましたが、信子が生存してしまうと出目のクロガネ達に対する恨みや復讐心が強く描写できないため『信子=ハイドラ』案は没にしました。

 それにレプリカとはいえ、『ダゴン』化の触媒となった【トラペゾヘドロン】が一つしかありませんし、どの道『ハイドラ』は出ません。


〈莉緒〉

 あれレプリカだったんだ?


〈五月雨〉

 本来の【トラペゾヘドロン】はニャルラトホテプの召喚器で地球の技術で造られたものではありません。『機巧探偵』では地球の技術・素材で造られた【トラペゾヘドロン】は全て模造品……レプリカと称しています。

 『4』のように『ダゴン』化の触媒という本家と異なる用途として扱われたのはレプリカだからこそ、敵のパワーアップアイテムとして都合の良い存在だからです。

 そして急拵えの機能を付け足したレプリカ故に、船と一体化して機動力を失ってしまった不完全体の『ダゴン』が生まれたという設定です。


〈莉緒〉

 あれで不完全体なんだ?


〈五月雨〉

 クロガネ達は船上という『ダゴン』の体の上で戦っていたので苦戦を強いられましたが、ただのデカい的ですよアレ。

 軍や自衛隊などを動員して遠距離からミサイルや魚雷を何発も撃ち込めば簡単に倒せます。ゴジラ怪獣と比べれば雑魚同然です。


〈莉緒〉

 確かに言われてみれば、直前にクロガネがレプリカを破壊したとはいえ、イージス艦のハープーン二発で沈んだもんね。

 ん? それじゃあレプリカを破壊せずに脱出しても良かったってこと?


〈五月雨〉

 その場合、邪神がレプリカを回収してまた別の騒ぎを起こします。


〈莉緒〉

 よし、クロガネの判断は正しかった。


〈五月雨〉

 さて、一部【第13章】の解説が出てしまいましたが、この【第12章】は『ダゴン』と対峙するクロガネと怪盗の後ろ姿でラストを飾ります。


〈莉緒〉

 怪盗が優利の顔に化けたのってそれがデフォルトだから?


〈五月雨〉

 その通りです。

 本気を出して戦う際は、最も慣れ親しんだ顔と声がしっくり来るのでしょう。こればかりは本人の感覚的なものなので、余計なツッコミは無しでお願いしますw



【幕間12】


〈莉緒〉

 時系列的には【第9章】と【幕間9】の間に入る話よね。


〈五月雨〉

 次章の対『ダゴン』戦で、切り札となる銀弾とリボルバーを入手していた経緯が必要となったため、急遽ここで入れました。

 【幕間11】と【幕間12】で内容の時系列が逆転してしまったのは、構成上のミスです。本当に申し訳ありません。


〈莉緒〉

 何だってそんなミスを?


〈五月雨〉

 今回の『4』は前半の〈都市伝説編〉を一挙投稿した後、後半の〈怪盗編〉はエピソードが一つ完成する毎に順次投稿する手段を取っていました。

 今作はシリーズ最大のボリュームとなったため、既に投稿した前半から間隔を空けない事と、製作モチベーションを維持する事を目的として後半部分は小出しにしていたのですが、それが裏目に出てしまった故に起きたミスです。


〈莉緒〉

 ネット小説なんだから、後からでも修正が効くじゃない。


〈五月雨〉

 そうなると本編の大幅な改稿や、物語の流れが変な方向に変わってしまう可能性、何より作者自身のモチベーション低下に繋がりかねないとして修正は最小限に留めた結果、今の形に落ち着きました。


〈莉緒〉

 ここでちゃんと『ダゴン』を倒す手段を事前に示せたわけだから、『ダゴン』戦本番で「いきなり対抗出来る武器が登場!」的なご都合主義にはならなかったとは思うけど、少なからず後付け感はあるわね。


〈五月雨〉

 ですね。

「プロットやストーリー構成をしっかり確認する」という良い教訓になりました。


〈莉緒〉

 作者もちゃんと反省したところで、次に行こう。



【第13章】夜明けと繋ぐ手


〈五月雨〉

 今作最大にして目玉となる戦闘シーン、『ダゴン』戦ですね。

 ここではアクションに関する細かい解説が多いと思います。


〈莉緒〉

 まぁ、アクション映画ばりにアクションの連続だったしね。

 それでは早速、〈サイバーマーメイド・日乃本ナナ〉がイージス艦にハッキングしてクロガネ達が居るクルーズ船にミサイルを発射。


〈五月雨〉

 ハリウッド映画ではお馴染み、緊迫感や臨場感を煽る演出です。


〈莉緒〉

 本当に好きだなぁ。

 『1』では逃げ場のない袋小路に追い詰められ、『2』はVR空間から脱出するための時間稼ぎ、『3』では戦車型の自爆カウントダウンと、これで何度目よ?


〈五月雨〉

 まだ四度目ですw

 いよいよ大詰めなので、ここで登場人物のほぼ全員に見せ場を作りました。

 弾込め係の銀子を除けば、全員銃をぶっ放しています。


〈莉緒〉

 本来は剣士である新倉もグレネード撃ってるもんね。


〈五月雨〉

 個人的に新倉の行動はもっと良いものに出来たんじゃないかと後悔しています。当初の予定では新倉にはもう少し見せ場がありました。


〈莉緒〉

 ほう?


〈五月雨〉

 当初は新倉も参戦して、触手を斬り刻みまくってクロガネと怪盗の活路を拓くシーンがありました。

 ですがそれをやると結構楽に『ダゴン』を倒せてしまう上に、冒頭で強調した探偵と怪盗の即席コンビの間に新倉が割って入ってしまうのは正直違和感でしかなかったんですよね。


〈莉緒〉

 この【第13章】のメインアタッカー兼主役はクロガネと怪盗だからね。


〈五月雨〉

 散々悩んだ末、「新倉がグレネードを撃って怪盗を助ける」というシーンに落ち着きました。その直後、二人にはハリウッド風の軽いやり取りを入れています。


〈莉緒〉

『(グレネード撃って)無事か?』

「……今の、ギリギリだよ」

『礼には及ばんよ』

「…………」


 ――ってやつね。確かにハリウッド映画でありそうなシーンねw


〈五月雨〉

 他にも出目を引き摺り出す際、船首部分を切り離す役に新倉を起用していましたが、先程語った通りその後はそのままクロガネ達と共闘する流れになってしまうとして、ナディアにその役を譲りました。


〈莉緒〉

 船体がボロボロだった上に対物ライフルを使ったとはいえ、上空からの狙撃で船首部分を切り離すとか、逆にナディアの実力が際立ったからそれはそれで英断だったんじゃないの?


〈五月雨〉

 新倉は『3』で大活躍していましたから、そう言った意味でもバランスは取れていたと思います。


〈莉緒〉

 バラバラに破壊されるリボルバーと義手。


〈五月雨〉

 切り札がまとめて二つも破壊されて更にピンチが加速する演出です。

 ここからの逆転劇はカタルシスがあると思います。


〈莉緒〉

 その逆転劇を作ったクロガネの特殊能力『生存の引き金』。

 『4』作中では初使用ね。


〈五月雨〉

 銃は壊れても銀弾は健在だったので、「銀弾を発射する方法」と「【トラペゾヘドロン】に命中させる精度」という高難度の条件二つをクリアする奥の手がクロガネにはありました。満を持して能力発動です。


〈莉緒〉

 スタイリッシュなコイントスならぬブレッドトスからの銀弾発射三連発。

 確かにクロガネの射撃技術と『生存の引き金』が無ければ『ダゴン』は倒せなかったわね。


〈五月雨〉

「問題解決が出来る唯一の存在」、それが『主人公』の定義であり重要な役割だと考えます。


〈莉緒〉

 出目治が死の間際に見た恋人の幻影。


〈五月雨〉

 死に逝く罪人に対する唯一の救済。

 逆恨みとはいえ憎悪と怨恨の感情を抱いたまま、人間で在ることを捨てたまま、狂気に囚われたまま生涯を終えるのは余りにも報われません。

 例え犯罪者で共犯者であったとしても、例え夢幻だったとしても、彼が心から愛した者の姿を目にしたのは救いだった筈です。


 ちなみに、信子の幻影は出目にしか見えていません。


〈莉緒〉

 ある意味でこの救済措置は、あの腐れド外道なニャルラトホテプに対する仕返しとも取れるわね。


〈五月雨〉

 この出目の救済措置は、爆発する船から脱出したクロガネと美優が互いの手を掴む場面との対比にもなっています。


 片や、現実に存在しない亡き恋人の幻影の手は温かい。

 片や、現実に存在している機械人形の手は冷たい。

 死に逝く者と生きる者。

 人と機械のパートナー。

 両者を等しく朝日が照らして闇を払い、それぞれの結末を祝福する。


 ――『夜明けと繋ぐ手』、それが【第13章】のサブタイトルです。


〈莉緒〉

 へぇ、深い。


〈五月雨〉

 作者である私も、ここまで綺麗にまとまるとは思ってなかったです。


〈莉緒〉

 いや、そこは思ってくれよ。

 ……さて、解説を続けよう。

 クロガネ危機一髪……黒ひげ危機一髪みたいだなw


〈五月雨〉

 ぶふっwww

 シリーズ恒例というかお約束というか、クロガネは毎回ギリギリのところで生還を果たしています。

 無双して余裕たっぷりに帰ってくるようなチート主人公ではありませんし、一般人より遥かに強いと言っても規格外な存在でもありません。


〈莉緒〉

 大きな怪我も基本しないよね。

 入院にまで至った『1』は例外だけど。


〈五月雨〉

 決して無傷とは言いませんが、きっと戦い方が上手いのでしょう。

 ウチの主人公は技巧派ですから。


〈莉緒〉

 一方で、懐に致命傷が入る事は結構あるよねw


〈五月雨〉

 借金が減らないわけですw

 今回は、義手も壊してしまいましたからね。


〈莉緒〉

 暁の水平線に勝利を刻む。


〈五月雨〉

 『艦隊これくしょん』(※24)で有名なフレーズですね。

 今作は本当にネタが多いです。


〈莉緒〉

 全部作者の趣味でしょうにw


 ※24『艦隊これくしょん』

 通称艦これ。艦娘と呼ばれる美女・美少女に擬人化した第二次世界大戦の軍艦たちを指揮し、『深海棲艦』と呼ばれる存在と戦って世界を救うという艦隊育成型シミュレーションブラウザゲーム。


〈莉緒〉

 そういえば、怪盗の犯行実行日はハロウィン当日だったわね。


〈五月雨〉

 それに合わせて『4』は2021年の10月中に完成させて投稿しようとしましたが、間に合いませんでした。


〈莉緒〉

 ドンマイ。

 実際にリアルの時事イベントに合わせるのは難しいでしょう。


〈五月雨〉

 いや私の場合、10月上旬にぎっくり腰、下旬に左手中指骨折をやらかしてしまって、療養のために執筆を一時中断していたんですよね。


〈莉緒〉

 うわぁ、何やってんの……。(呆れ)


〈五月雨〉

 不可抗力ですって。

 結局、10月中には間に合わず、予定よりも完成が延びに延びてしまいましたが、年内(2021年)に『4』全話を無事に投稿できて良かったです。


〈莉緒〉

 お疲れ様。

 だけど『4』の解説はもう少し続くわよ。


〈五月雨〉

 『4』のエピソードは残すところあと四つですね。

 早速次に行きましょう。



【幕間13】


〈莉緒〉

 銀子視点による脱出後の話ね。


〈五月雨〉

 銀子の主観で話が進むので、この後クロガネや美優がどうなったのか具体的な描写はありません。順当に考えて、二人は治療と修理のために搬送されたと見るのが妥当ですね。また真奈が心配して涙目になるシーンが目に浮かびます。


〈莉緒〉

 それはちょっと見てみたいw いや本当にあざといな、あの第二ヒロイン。

 さて、銀子は実父である獅子堂晃司と再会し、今回の事件は「怪盗〈幻影紳士〉に便乗したテロリストによる犯行にする」という情報操作を目の当たりにするわね。


〈五月雨〉

 獅子堂家の圧力とゼロナンバーの裏工作があったのでしょうね。

 その後は普通の父親らしく銀子のことを心配しています。


〈莉緒〉

 過保護な父親から逃げるように屋敷を出る銀子。

 ところで私の母親は既に亡くなっているけど、銀子の母親は?


〈五月雨〉

 その辺はあまり考えていませんでしたが、銀子の母親……晃司の妻はご存命で別宅に居るでしょうね。

 その理由としては、獅子堂家の屋敷は職場でもあるため、当然ながらゼロナンバーを含め危険人物の出入りもしてますし、裏の仕事や情報など自分の妻には知られたくないものが結構あります。

 今回は銀子の安否と情報確認のため、彼女を屋敷に緊急連行したのだと思ってください。あまりに急な話のため、母親も屋敷には居なかったと。


〈莉緒〉

 なるほど。

 ……その、夫婦仲が悪いわけじゃないのね?


〈五月雨〉

 家の跡継ぎのためだけに子供を何人も作っているだけの関係ではないのは確かです。


〈莉緒〉

 ほっ。

 さて、帰宅中に優利の存在を思い出す銀子。


〈五月雨〉

 急ぎ会社に戻ってみると、ちゃんと優利は居ますね。

 怪盗として今回の事件で負った傷に絆創膏を貼ってますが、服の下には湿布や包帯などがある事でしょう。彼も重傷こそ負ってはいませんが、怪我はしていますから。


〈莉緒〉

 本当に銀子は相方が怪盗である事に気付かないな。


〈五月雨〉

 ……本当は気付いた上で気付かないフリをしている可能性もあります。

 今回の事件で、怪盗は銀子のことを優利と同じ「銀子さん」と名前で呼んでいた上に、彼女を助け守るためにHPLと戦いました。

 その姿を間近で見て銀子は何か思うところがあったかもしれません。


 何よりも、彼女はツンデレです。


〈莉緒〉

 その一言で妙に納得したわw ツンデレでは仕方ないね。

 立場上、優利=怪盗と認識した上で素直に感謝の気持ちを伝える筈もないだろうし。


〈五月雨〉

 そして恐ろしい体験をして不安になり、怯える銀子に寄り添う優利。

 クロガネ達よりもラブコメってる感じがしますねw

 この二人の関係は実に良い……。


〈莉緒〉

 その直後、ツンデレな銀子ゆえに雑な扱いをされる優利。

 ツンデレじゃ仕方ない上に、優利は銀子限定でドMだからご褒美よね。


〈五月雨〉

 ……この二人の関係は果たして良いものなのか、自信が少し揺らぎます。


〈莉緒〉

 揺らぐな、ちゃんと固定しとけ。



【第14章】探偵VS怪盗②


〈五月雨〉

 ここではクロガネが優利を呼び出し、答え合わせをする後日談となっています。

 ちなみにこの時点で互いの連絡先は知らないため、クロガネは白野探偵社に直接連絡して優利を呼び出しました。

 最初に応対したのがモブ社員だったので、銀子との面倒なやり取りは回避できたという事にしていますw


〈莉緒〉

 美優を経由して学校の教室内で彼女の口頭から用件を伝えたりはしなかったの?


〈五月雨〉

 映画館に呼び出す日時が平日なので、美優だけでなく周囲のクラスメイトにも怪訝に思われないようにするための電話連絡です。


〈莉緒〉

 なるほどね。

 映画は何を観るかと思ったら、まさかの『ジョン・ウィック』。


〈五月雨〉

 万一にも優利を撃つ状況になった時のために、周囲に銃声を悟られないよう銃撃戦のシーンがある『ジョン・ウィック』を選びました。

 これは後で登場するニャルラトホテプが「クロガネとジョン・ウィックは似ている」という台詞を言わせたかったが故のチョイスです。


〈莉緒〉

 似てるも何も、クロガネの元ネタでしょうに。

 さて、クロガネが優利=怪盗に思い至った経緯の説明と優利の正体。


〈五月雨〉

 『1』の終盤にあった出嶋とのやり取りを彷彿させますね。優利は今回黒幕ではありませんでしたが、自身の素性と過去を明かします。

 「素顔を忘れた怪盗」は、彼のイメージ元である江戸川乱歩の『怪人二十面相』が元ネタです。他者に化けて成り済ましている内に自身の素顔を忘れてしまうというのは面白いと思い、優利の設定に落とし込みました。


 同時に、今作の『4』でニャルラトホテプを出すきっかけにもなりました。


〈莉緒〉

 んん? というと?


〈五月雨〉

 藤原優利のイメージ元は『怪人二十面相』の他に、無貌の神こと『ニャルラトホテプ』があったからです。かの邪神も自由自在に姿を変えることが出来ますからね。

 その変身能力の下位互換が優利の変身能力設定に繋がったというわけです。


 似たような理由で〈デルタゼロ/ドールメーカー〉もニャルラトホテプが元ネタとなっています。


〈莉緒〉

 ……ニャルラトホテプが『千の化身』の異名と能力を持つように、デルタゼロも出嶋を始めとする端末義体が沢山あるからか。


〈五月雨〉

 その通りです。まして、デルタゼロの本体はアレですからね。

 クロガネの疑似心臓といい、『機巧探偵』は初期段階で既にクトゥルフ神話が絡んでいます。


〈莉緒〉

 さて、話を進める内に『4』前半にあったドッペルゲンガー事件の『赤い日傘の女』について触れるわね。当然ながら、その正体は優利ではない第三者である事が判明するわ。


〈五月雨〉

 今回の事件でHPLに深く関与してしまった対策として、お互いに連絡先を交換して優利は退場します。


〈莉緒〉

 そして振り返れば、ヤツが居る。

 もうやだこの這い寄る混沌……。



【幕間14】


〈五月雨〉

 そんな這い寄る混沌と映画鑑賞。


〈莉緒〉

 嫌だな、そんなシチュエーション。

 逃げられないとはいえ、その場に留まるクロガネの胆力がヤバイ。


〈五月雨〉

 敵わないと理解しながらも、何とか情報を引き出そうとする姿勢は流石ですね。


〈莉緒〉

 邪神の口から今回の真相が語られるわね。

 話の内容もだけど、私の姿でクロガネに語る時点で本当に悪趣味が過ぎる。


〈五月雨〉

 そんな邪神を殴り倒して頭に全弾ぶち込むクロガネ。

 本当に躊躇も容赦も慈悲もありません……が、莉緒をその手に掛けたと錯覚し、錯乱します。


〈莉緒〉

 何事も無かったかのように復活する邪神。

 何気にナイ神父を撃破できたのは『破械の左手』を使ったからだと解るシーンね。

 『無貌の神』は撃破される寸前で『顔のないスフィンクス』に変身したし。


〈五月雨〉

 チャージに時間が掛かるからこそ、ノータイムで殴り飛ばしてから銃撃したのでしょう。あるいは『破械の左手』に邪神特攻がある事を知らないのかもしれません。


〈莉緒〉

 そして絶望するクロガネに衝撃的事実を告げる邪神。

 私との関係、『機巧探偵』の世界観にある根っこを全ての元凶が語る……って、この邪神は作者なんじゃないの?


〈五月雨〉

 ちょっw

 身も蓋も無さ過ぎるメタ発言ですね。しかもこれがまた否定しづらい……!


〈莉緒〉

 まぁ冗談はさておき、真相を知って茫然自失のまま邪神と映画を観るクロガネ。

 これSAN(正気度)的な意味で大丈夫?


〈五月雨〉

 全然大丈夫じゃないですが、邪神の口から語られたのは物的証拠のない自己申告のようなものと割り切って何とか正気は保っていますw

 それでもあまりに衝撃的な話の内容に茫然として憔悴してますね。隣に邪神が居るのに先程あった筈の警戒心がほぼ無くなっていますし。


〈莉緒〉

 やべぇw

 でも映画の内容について訊かれて素直に答えている辺り、本当にヤバイ精神状態だと解る。


〈五月雨〉

 ここで『ジョン・ウィック』がクロガネの元ネタとなった理由が解るシーンですね。いくらSAN値を減少しようが、美優を守る事に関しては不屈の精神を貫いています。

 ある意味、邪神がクロガネに発破を掛けて奮起させたとも取れる場面ですが、遊び相手のやる気が無くなったら詰まらない程度にしか考えていないのでしょう。


〈莉緒〉

 本当に迷惑な話だ。

 そして、殺る気になったクロガネにオリジナル笑顔を見せる邪神。


〈五月雨〉

 他の追随を許さぬ旺盛なサービス精神により、流石のクロガネも気絶します。


〈莉緒〉

 ムチャシヤガッテ……。



【エピローグ】


〈五月雨〉

 長かった『4』解説もこれで最後です。

 最初に述べた通り、「TRPGを意識した群像劇」が『4』の基本構成なので【エピローグ】はこれまでに登場した主要人物の視点から描かれた特殊なものとなっています。


〈莉緒〉

 最初に銀子。彼女は普通の人間なので、怪異の魔の手から逃れ日常に戻れた事を誰よりも喜んでいるわね。

 だけど新たな依頼内容が非日常的なものである事に気付き、一気にテンションがガタ落ちすると。


〈五月雨〉

 銀子率いる白野探偵社がTRPG版『機巧探偵』のメイン探索者となる予定なので、どうあがいても冒涜的な気配と香りが漂う事件からは逃れられません。


〈莉緒〉

 不憫……。


 次は優利ね。

 映画館でクロガネと別れた後、デルタゼロから受け取った暗号から別任務が発生するわ。早速どこにでもいる普通のサラリーマンに変身・変装して現地に向かうわね。


〈五月雨〉

 場所は【BAR~grace~】。『2』で初登場して以来、ちょいちょいシリーズに出てくる喫茶店兼酒場ですね。

 ここで宝石商のリチャード・アルバが再登場です。


〈莉緒〉

 彼をスポンサーとして契約を結ぼうとしているのは『3.5』の【クロガネ編】で登場した彼の義父ね。

 話は何とか丸く収まって交渉成立したわけだけど、同人誌の定期購読がじわじわ来るw


〈五月雨〉

 クトゥルフ資料を偽装するため咄嗟に思い付いたネタです。

 ファンタジー系のアニメか漫画を題材にした同人誌に、『クリーチャー設定資料集①』と書かれたタイトルは、我ながら上手い隠れ蓑にしたものだと自画自賛していますw


〈莉緒〉

 クロガネの義父でもある大学教授、優利、デルタゼロの三人が反サイバーマーメイド団体【パラベラム】のメンバーだと明かされる急展開。


〈五月雨〉

 続編『5』以降ではついに彼らが動き出す予定ですね。

 リーダー格であるクロガネの義父の名前も明らかになります。


〈莉緒〉

 優利が探偵助手で怪盗でゼロナンバーで【パラベラム】……しかも学校内での美優の護衛まで担当って大変じゃない? いつか過労死するわよ。


〈五月雨〉

 怪盗は引退ですね。流石に銀子と共に動く以上、怪盗行為は困難を極めますし、いずれ彼女にも正体がバレてしまいますから。

 それに優利のキャラクター紹介にもありましたが、怪盗活動はゼロナンバーの任務を隠れ蓑にした【パラベラム】の活動でした。

 なので「しばらくは怪盗=〈インディアゼロ/イリュージョン〉としての任務は控える」と、雇い主である獅子堂家のご当主に嘘の申請をするでしょうね。

 今後は銀子と美優の護衛に専念しつつ、その裏で【パラベラム】の本格的な活動を行っていくことでしょう。


〈莉緒〉

 依頼主(ニャルラトホテプ)の奸計とはいえ、『4』の怪盗行為は「銀子の評判を上げること」も兼ねていたわね。今後の怪盗としての活動を継続して正体がバレてしまう可能性がある以上は妥当な判断かな。


 では次、クロガネ視点ね。


〈五月雨〉

 ニャルラトホテプのオリジナル笑顔を見て気絶した後の話ですw

 今更ながらヤベェ奴に喧嘩を売ってしまった事に後悔した後、美優と通信による打ち合わせを行います。


〈莉緒〉

 今後の予定、年末年始に獅子堂の屋敷に帰省する旨を伝えるわね。

 でもそれは建前で、本音はニャルラトホテプと関与していた私の事を調べると。


〈五月雨〉

 クロガネにとっても、かつて愛した女性が邪神とロクでもない事に関わっていたなど嘘であってほしいと願う一心なのでしょうね。

 獅子堂家の帰省は続編の導入に繋がるネタであると同時に、そんな儚い希望的観測をも粉砕する真実であるのですが。


〈莉緒〉

 鬼かw

 でもそうでもないと次回作に続かないわよね。だとしてもひでぇw


〈五月雨〉

 そりゃあクロガネも「ふざけるな」と言いたくなりますw


〈莉緒〉

 最後に、クロガネと美優の主役二人で『4』を締めるわね。

 この『4』で一応の一区切りということで、『1』ラストを彷彿とさせる構図になっているわ。


〈五月雨〉

 ここで隠れ設定その一。

 最後にあった銀子からの緊急依頼は、TRPG版『機巧探偵』シナリオにおいてクロガネ探偵事務所がNPCとして介入する導入部分となっています。


〈莉緒〉

 へぇ~……いや待て、NPCといっても強過ぎない?


〈五月雨〉

 当然です。

 そのため、メインとなる探索者たちの救済措置という名の脇役として扱われますし、肝心な場面では探索者の判断と行動によって物語が進んでいきます。


〈莉緒〉

 まぁ、本編主人公ズが出てきたらパワーバランスどころか、シナリオブレイクするもんね。妥当な配役かな。


〈五月雨〉

 隠れ設定その二。

 エピローグに登場しなかったキャラクターについて。


〈莉緒〉

 それだっ。

 真奈に至っては毎回エピローグには出ていたのに何で『4』には出なかったの? 

 あと清水も……いや、清水は割とどうでも良いか。


〈五月雨〉

 真奈と清水はそれぞれ仕事で通常勤務です……ということにしてください。


〈莉緒〉

 つまり、忘れていたと?w


〈五月雨〉

 まぁ、半分は忘れていましたねw

 ただ、今回の【エピローグ】に登場したキャラクターは、「クルーズ船から脱出し、なおかつ『4』の主要キャラのみ」でまとめました。

 例外なのはデルタゼロとリチャードでしょうが、デルタゼロは【パラベラム】の古参メンバーでもあるが故に今後も重要な存在ですし、リチャードは『4』最大の被害者でもありますからその後の話は入れたかったのです。


〈莉緒〉

 ナディアと新倉は?


〈五月雨〉

 新倉は現役のゼロナンバーであり、デルタゼロのような暗躍もしないため獅子堂の屋敷で通常勤務中です。主に屋敷の警護やご当主の護衛、暇があればトレーニングをしている事でしょう。


 ナディアも獅子堂の屋敷に居ます。

 本来、彼女は謹慎の身でクロガネ探偵事務所に居候中でしたが、今回美優と銀子が攫われたという緊急事態につき、謹慎解除の指令を受けて現場に向かいました。

 その件で今後の扱いというか身の振り方をご当主と話し合っている最中という隠れ設定のため、エピローグに登場していません。


〈莉緒〉

 それはつまり、今後はナディアの出番が少なくなるってこと?


〈五月雨〉

 いいえ、これまで通りクロガネ探偵事務所に居付きますw

 こればかりは流石にネタバレとなりますが、今回の『4』の件で美優の護衛を増員する運びとなり、引き続きナディアをクロガネの元に預ける事となります。

 これまでと違いがあるとすれば、生活費という名の多額の迷惑料がクロガネの口座に振り込まれ、謹慎解除された事で堂々と銃を持ち歩いている事くらいです。


〈莉緒〉

 それクロガネの胃に風穴が開く案件じゃないのw


〈五月雨〉

 上手いこと言いましたね。実際にクロガネはナディアが無闇に発砲しないか気が気でありませんw 何たって彼女はヤンデレ気質ですし、これにはクロガネも作者も頭を抱えます。


〈莉緒〉

 あんたもかいw


〈五月雨〉

 続編である『5』で最初にクロガネ探偵事務所の描写に入る際は、ナディアの謹慎解除についても触れておきますね。


〈莉緒〉

 あらすじは大事。


 さて、『4』の解説もこれで終わりかしら?


〈五月雨〉

 そうですね、長かったですw

 いや、長くも短く感じて頂けたら嬉しいですね。

 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

 以上で【機巧探偵クロガネの事件簿4 ~都市伝説と怪盗と~】の解説を終了します。

 お疲れ様でした。


〈莉緒〉

 お疲れ様でした~。

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