エピソード解説⑤/前編 やってみたかったこと詰め合わせ

【五作目】

 機巧探偵クロガネの事件簿4 ~都市伝説と怪盗と~


〈五月雨〉

 最新作である『4』の解説になります。

 オリジナル版『1』を除けば、シリーズ中最大のボリュームとなっていますね。流石に長いので、前編・後編と二つに分けました。


〈莉緒〉

 それは文字数的な意味でも歯応えがありそうだ。


〈五月雨〉

 初めに『4』を執筆するに至った経緯を解説します。

 『機巧探偵』シリーズを続けている内に、ふと「ウチの作品を下敷きにしたクトゥルフ神話TRPGをやりたいな」と思ったのが始まりです。


〈莉緒〉

 クトゥルフ神話TRPGとは、『宇宙的恐怖コズミックホラー』というジャンルの小説を基盤にしたテーブルトーク・ロール・プレイング・ゲームよ。

 紙とペンとサイコロで各プレイヤーはキャラクターの役職やステータスを設定し、ゲームキーパー(ゲームマスター)が考案したシナリオに沿って探索や戦闘を繰り広げるわ。

 『ドラクエ』や『FF』など世に出ているコンピューターRPGの前身にして原型といえばイメージしやすいかな?


〈五月雨〉

 そしてクトゥルフ神話とは、コズミックホラー小説に登場する架空の神話です。

 遥か古代に外宇宙から地球にやって来た神話生物が引き起こす怪事件を、人間たちが正気を削られながらもあらゆる手を尽くして戦い挑んで解決するといった内容ですね。

 基本的に神話生物は神にも等しい強大な存在なので、大抵の人間は一瞬で殺されるか狂気に呑まれて廃人化するケースが多いです。もしくはそれ以上に悲惨な末路を辿る事もあります。

 絶望と狂気が渦巻く闇の中で一筋の希望の光を見出し、矮小な人間が強大な存在に挑み抗う――というのが、クトゥルフ神話TRPGの定番テーマとなっています。


〈莉緒〉

 クトゥルフ神話の面白い所が、史実にあった出来事に神話生物やオカルト現象などの設定を絡めたり、作者やゲームキーパーの数だけオリジナルの世界観を作れたりと自由度が高い事よね。


〈五月雨〉

 単なるオカルトだけでなく、『宇宙的恐怖コズミックホラー』ということで、SFとも相性というか親和性が良いんですよね。しん――


〈莉緒〉

 神話だけに?


〈五月雨〉

 ……コホン。

 実は『機巧探偵』の設定には、クトゥルフ神話的要素が根幹にあります。

 これまで解説したもので一例を挙げると、


・オーパーツ同然なクロガネの疑似心臓と、それを開発した莉緒の異常な知識と技術力


・〈サイバーマーメイド〉を最初に開発したのは何者なのか?


・オリジナル版『1』で登場した〈デルタゼロ/ドールメーカー〉の本体


・本土のみならず、世界各国より十年先の技術力を有する鋼和市の存在


 ……などがクトゥルフ神話に多少なりとも絡んでいるネタですね

 『4』以降の設定も入れれば、まだまだありますが。


〈莉緒〉

 それらの具体的な解説は?


〈五月雨〉

 いずれ本編で明かされた後に解説します。

 現時点でネタバレはしません。


〈莉緒〉

 ふむ、楽しみにしておこう。

 それで話を戻すけど、『4』に至る経緯って?


〈五月雨〉

 まず『機巧探偵』の世界観でTRPGを作る場合、本編主人公であるクロガネや美優を初めとした作中のキャラクターはNPCならばともかく、基本的にプレイヤー側は使用できません。


〈莉緒〉

 まぁ、うっかり殺しちゃ駄目なキャラだしねw


〈五月雨〉

 そこでクロガネ探偵事務所とはまた別の、もう一つの探偵事務所を作り、プレイヤーはそこに所属する「名もなき探偵」を探索者として動かして貰おうと考えました。


〈莉緒〉

 なるほど。〈探偵〉という役職はシナリオの導入においても動かし易いし、他の探偵が所属する程の規模であれば、〈残機〉も期待できるわけだ。


〈五月雨〉

 まぁ、そうですねw

 他にも物語本編では、クロガネ探偵事務所とは対になる〈ライバル探偵〉も出せるというメリットがありました。

 そうした経緯で誕生したライバル探偵が、『白野銀子』とその助手『藤原優利』であり、彼らが所属・経営するのが『白野探偵社』となります。


 そして『機巧探偵版クトゥルフ神話TRPG(仮)』では、探索者は白野探偵社に所属する探偵として鋼和市で発生する怪事件に挑むという内容です。


 また、未定ではありますが、この白野銀子と藤原優利を主役にした『機巧探偵外伝』を書きたいなと考えています。


〈莉緒〉

 ライバル探偵は探偵ものではお約束よね。

 お約束といえば〈怪盗〉も。


〈五月雨〉

 『4』では新たにライバル探偵と怪盗が登場します。

 同時に主要な登場人物が多いため、群像劇のような内容です。

 これはやはりTRPGを先にイメージしてしまった結果ですね、大変ボリュームのあるものに仕上がりました。


〈莉緒〉

 それじゃあ、『4』の解説に行ってみようっ。



【プロローグ】


〈莉緒〉

 思わせぶりに都市伝説と怪盗を強調するモノローグから始まるわね。


〈五月雨〉

 まぁ、どちらも今作では重要な存在ですから。

 サブタイトルにもなってますし。


〈莉緒〉

 『4』はシリーズでも珍しい、前半と後半でストーリーが違うんだっけ?


〈五月雨〉

 その通りです。

 前半がドッペルゲンガーの都市伝説を絡めたストーカー事件に、クロガネ探偵事務所と白野探偵社がそれぞれの依頼人を通して関わっていく内容です。

 後半は怪盗を捕まえるために探偵たちが共同戦線を張るその裏で、クトゥルフ神話の怪物たちが迫り来る内容になっています。


〈莉緒〉

 雰囲気がガラリと変わるなぁ。


〈五月雨〉

 『3』の戦車型以上に強くてインパクトのある敵を考えたら、「もう神話生物でも出すしかねぇ!」ってノリでしたからねw

 『4』はこれまでとは全く異なる展開のため、意見や評価が二分するかと思います。

 キャッチコピーの通り、『4』が様々な意味で分岐点となる内容ですね。


〈莉緒〉

 その分岐点を見極めるためにも、解説はしっかりやっていこう。

 それじゃ、次。


【第1章】予告状と白銀の探偵


〈五月雨〉

 序盤は怪盗が怪盗らしく予告状を出し、ライバル探偵である『白野探偵社』の面々を早々に登場させました。

 怪盗もライバル探偵も今回の主役でもあるため、最初に出しておきたかったのです。


〈莉緒〉

 まぁ、後から急に出てきても困るしね。

 その銀子が既にクロガネと知り合いだったことを匂わせて場面が切り替わります。


〈五月雨〉

 クロガネサイドから一転してライバル探偵である銀子サイドですね。

 白野銀子は、クロガネこと黒沢鉄哉と対になるようなイメージで作ったキャラクターです。


 ざっくり比較してみると――


 名前:黒鉄クロガネ白銀シロガネ

 性別:男性⇔女性

 年収:少ない⇔多い

 評判:低い⇔高い

 規模:小さい⇔大きい

 残機:なし⇔10人ほど


 両者の共通点は年齢だけですね。

 クロガネと銀子の年齢は共に21歳です。


〈莉緒〉

 おい待て、〈残機〉ってw


〈五月雨〉

 またの名を社員総数ですね。流石に全員は紹介できませんが、白野探偵社はおよそ十人規模で運営されています。探偵社としては大規模です。


〈莉緒〉

 社長らしくキビキビと部下に指示を出す銀子。出来るキャリアウーマン然としてカッコイイわね。しかも指示が的確で有能。


〈五月雨〉

 クロガネが「自分とは違うタイプの探偵」と言っていた通り、銀子は有能なオーナータイプとして描写しています。業務の様子もクロガネと対比できるものを意識してますね。


〈莉緒〉

 そして、銀子の助手である藤原優利の登場。


〈五月雨〉

 優利もクロガネの助手である美優と対になるイメージですね。

 名前は『安藤美優』の名字と名前から一字ずつ取って『藤原優利』と名付けました。

 銀子からは名前を音読みで『ユーリ』とあだ名で呼ばれています。

 これも助手の美優が上司である主人公を『クロガネ』とあだ名で呼ぶ事の対になっていますね。助手をあだ名で呼ぶ銀子、と。


〈莉緒〉

 そしてその優利がドMなんだけどw


〈五月雨〉

 名家の出身である銀子は優利との付き合いが長く、共に気心知れた親しい仲です。家柄ゆえに、周囲からの期待など背負った銀子を支える優利は、時に道化を演じて彼女のストレス発散の捌け口になったりします。


〈莉緒〉

 つまり、あの変態ドMムーブは演技であると?


〈五月雨〉

 いいえ、ガチです。


〈莉緒〉

 ガチでドMなの!?


〈五月雨〉

 最初は演技だったのでしょうが、銀子がぶつけてくる素の感情が次第に病み付きになったという設定ですね。勿論、ドMであるのは銀子の前だけですよw


〈莉緒〉

 お、おう。それ聞いてちょっと安心した。

 ドMの変態になるのは銀子限定で、それも全て彼女のためというわけね。


〈五月雨〉

 ある意味では理想の従者ですね、優利は。

 当然、優利のそんな気遣いや気配りは銀子も知っていますが、素直に感謝を伝える事はしません。

 白野銀子は『機巧探偵』に出て来る女性キャラでは唯一のツンデレ属性を持っています。


〈莉緒〉

 ふむ、ツンデレな銀子。

 不思議と新鮮に感じるのは、これまでのヒロインが積極的なタイプだから?


〈五月雨〉

 きっとそうですw

 では次。



【幕間1】


〈五月雨〉

 クロガネをスカウトしている銀子の回想シーンですね。

 時間軸は『2』のVRゲーム事件が解決した直後の話であり、クロガネが銀子と知り合いだった経緯が早速明かされています。


〈莉緒〉

 結局断られてしまって、銀子はそれ以来クロガネのことを敵視というかライバル視するのよね。

 でも、あの金額で拒否するクロガネが少し意外だったな。


〈五月雨〉

 リメイク版『1』のプロローグでも語られていましたが、クロガネは獅子堂光彦以外の他人に雇われる気がなく、独立して自営する事を選びました。

 また、元暗殺者としての因縁が第三者に及んでしまう事も危惧していたのでしょう。銀子が持ち込んだ買収金額は確かに魅力的でしたが、それ以上に彼女とその周囲を危険に晒してしまう事を恐れてスカウトを蹴ったわけです。


〈莉緒〉

 本当にお人好しな主人公だなぁ。

 だけど銀子は逆恨みしてライバル視すると?w


〈五月雨〉

 クロガネ側の事情や心情が解らないのですから仕方ありませんてw



【第2章】都市伝説とストーカー


〈五月雨〉

 クロガネ探偵事務所と白野探偵社のそれぞれに背中合わせの依頼が舞い込みます。やがて黒と白の探偵は同じ場所に合流するに至る導入部分ですね。


〈莉緒〉

 この章はどちらかといえば白野探偵社メインで進んでいるわね。


〈五月雨〉

 今回初登場のレギュラー勢ですからね。

 なるべく出番や見せ場を作りました。


〈莉緒〉

 クロガネや美優とはまた違った捜査方法なのは確かに面白いわ。


〈五月雨〉

 大抵の依頼は美優の検索能力やハッキングですぐに解決してしまいますからね。クロガネは現地調査に赴いて美優が得た情報の裏付けと、依頼人と対面での対応といった感じでしょうか。

 【第1章】を読めば解る通り、白野探偵社に所属する探偵は全員普通の人間なので、刑事ドラマのように足で稼ぐ捜査をしています。

 優利のみ特殊能力持ちですが、単独行動ならばともかく銀子と組んで行動している時は使えません。


〈莉緒〉

 調査にも潜入にも便利な変身能力ね。銀子は知らないの?


〈五月雨〉

 はい。能力は勿論、彼がゼロナンバーである事も知りません。

「解らない事が多いけど、信頼に足る助手」と銀子は見ており、それで充分だと考えています。


〈莉緒〉

 多くを訊かず、ただ信じる。素敵な関係ね。


〈五月雨〉

 クロガネと美優の関係とはまた違った魅力があるコンビだと思います。



【幕間2】


〈五月雨〉

 銀子たちと鉢合わせたクロガネが、誰よりも早く今回の依頼に疑問を持ったシーンですね。流石主人公、勘が鋭い。


〈莉緒〉

 それよりクロガネが厳重にロックしているフォルダーの中身って何なの?

 私、気になりますっ。(目キラキラ)


〈五月雨〉

 ……目を輝かせて今回一番興味を持ったところがそこですか。

 大方の予想通り、エッチな画像や動画じゃないですかね、多分。


〈莉緒〉

 多分って、確定じゃないの?


〈五月雨〉

 当初は、過去に真奈にオススメされたアニメの録画データが保存してあったという設定でした。それを第三者に見られないようにロックしてあったと。


〈莉緒〉

 んん? 別に見られて困るものでもないんじゃないの、それ?


〈五月雨〉

 真奈と共通する話題を持っておこうと彼女が勧めるままに観たのですが、本人もびっくりするぐらいハマってしまい、全話保存するだけでは飽き足らず、他のアニメ作品も自分から録画保存してしまったという設定でした。


〈莉緒〉

 主人公オタク説ww

 そういえば、『3』で美優が某スクールアイドルもののアニメに例えて舞台の大きさを説明した時、クロガネがすぐに元ネタを察したのってそれの伏線だったりする?


〈五月雨〉

 流石にそこまで考えていませんでしたよw

 とはいえ、大量のアニメ作品を保存云々は当初のプロットにあった隠れ設定ですし、クロガネも健全な若い男性なので本当にエロデータがあったのかもしれません。フォルダーの内容は皆さんのご想像にお任せしますw


〈莉緒〉

 その秘密に漬け込んでクロガネを脅す美優よw


〈五月雨〉

 強かに成長しましたw

 先程銀子と優利が垣間見せた素敵な関係とのギャップがヒドイですw


〈莉緒〉

 温度差が激しくて風邪ひくわぁ……。

 次いこ次。



【第3章】ストーカーとドッペルゲンガー


〈五月雨〉

 一連のストーカー事件に急展開ですね。本物か偽物かはさておき、陰で都市伝説である筈のドッペルゲンガーの存在が見え隠れしています。


〈莉緒〉

 作中ではハロウィンシーズン真っ只中だからか、怪しい都市伝説もすんなり入り込めている気がするわ。


〈五月雨〉

 一方でクロガネは、銀子たちのストーカー対策依頼と自分たちが請け負った人捜しの依頼が繋がっている事を察します。

 そして中途半端な時期に、美優のクラスに転校生として現れた優利に対して疑いの目を向けていますね。


〈莉緒〉

 この時点でクロガネと美優は既に優利が銀子の助手であることも知っていたのよね? 優利はクロガネ探偵事務所の探りを入れるために転校して来たと二人は見ていたのかな?


〈五月雨〉

 この時点ではその通りです。クロガネは美優に対する直接的な危険は無いと見て、様子見のためにあえて優利を泳がせていますね。

 『2』の序盤で親しい相手でも仕事内容は守秘義務だと美優に言い聞かせたシーンがありましたから、美優の口から情報が漏れることも無いでしょう。


〈莉緒〉

 怪盗コスを買って貰ってご満悦なナディア。


〈五月雨〉

 何だかんだでナディアには甘いクロガネです。


〈莉緒〉

 赤い日傘の女。

 舞台裏の解説回だから言ってしまうけど、これニャルラトホテプよね?


〈五月雨〉

 その通りです。クトゥルフ神話において、あらゆる事件に関与している黒幕ですね。本当に迷惑な存在です。


〈莉緒〉

 そんな迷惑な存在の手引きによって、一触即発な状況になったまさにその時。


〈五月雨〉

 クロガネが銀子たちと合流します。


〈莉緒〉

 主人公がチャリで来た。


〈五月雨〉

 クロガネ探偵事務所は経営難ですので、自動車なんて高価な移動手段はありません。主に徒歩やバス・電車などの公共交通機関、そして自転車を使いますね。


〈莉緒〉

 エコだなぁ。



【幕間3】


〈五月雨〉

 時間を少し遡ってクロガネ探偵事務所内のやり取りですね。


〈莉緒〉

 電脳空間で美優のハッキングが通用しない存在が現れるわけだけど、これもやっぱり?


〈五月雨〉

 はい、ニャルラトホテプの介入です。

 本当にコイツはどこにでも現れますね。


〈莉緒〉

 フットワーク軽過ぎて世界すら跨ぐとか嘘だろ……。


〈五月雨〉

 とりあえず、美優が解る範囲で銀子の依頼人に危機が迫っている事を知ったクロガネは現場に急行します。


〈莉緒〉

 チャリでな。



【第4章】ドッペルゲンガーと邂逅


〈五月雨〉

 ドッペルゲンガー事件の真相が明らかになる回です。


〈莉緒〉

 結局怖いのは、都市伝説じゃなくて人間だったというオチよね。


〈五月雨〉

 実はこのドッペルゲンガー事件は元ネタがありまして、作者が子供の頃に観た某心霊バラエティ番組内の再現ドラマの内容をほぼそのまま採用しています。


〈莉緒〉

 へぇ、そんなのあったんだ。


〈五月雨〉

 勿論、フィクションですけどね。

 ただ、整形外科医が恋人の身代わりとしてドッペルゲンガーを作る話は当時の私にとってトラウマでした。オバケなどではなく、人間の業を見たようでとても怖かったです。


〈莉緒〉

 心霊的な恐怖ではなく、人間の残酷さから生じる恐怖ね。


〈五月雨〉

 そして今回、長い時を経て、この外道な整形外科医と悪女を成敗する話を書けたのは楽しかったですw

 身代わりの女性も無事に守れましたしね。


〈莉緒〉

 それは良かったw

 ところでクロガネは、全ての元凶である結婚詐欺師の女が被害者たちに報復される事を解っていながら止めなかったわね。


〈五月雨〉

 既に依頼は達成しましたし、被害者たちの報復が物理的か法的かは彼らの自己責任と判断に一任させました。

 どんな罰を受けるにせよ、元凶である結婚詐欺師と整形外科医は自業自得であり因果応報です。

 冷酷に映るでしょうが、クロガネ自身は当然の結果だと考えています。

 『1』の獅子堂玲雄の結末をもう一度見たような感じですね。


〈莉緒〉

 そして善良な銀子は、そんな事お構いなしにクロガネを責めると。


〈五月雨〉

 クロガネは銀子の言い分も理解した上で持論を説いています。

 既にこの時点でクロガネが受けた依頼は達成され、銀子の依頼人も危険に晒される事はなくなりました。彼女を間接的に殺害しようとした元凶の身を案じる義理も必要もないのだと。


〈莉緒〉

 ぐうの音も出ない正論ね。

 それでも銀子は納得してないけど。


〈五月雨〉

 探偵として守るべき存在は依頼人であり、依頼人を苦しめる存在を守る義理はありません。過去に暗殺者として命の取捨選択をしてきたクロガネの言葉は重く、確固たる信念が含まれています。

 クロガネの放った言葉の意味を正しく理解できるのは、ドッペルゲンガー事件の被害者である松村彩子本人と、同じゼロナンバーである藤原優利だけでしょうね。


〈莉緒〉

 銀子は温室育ちのお嬢様で、普通の人間だからか。


〈五月雨〉

 銀子は普通であることが重要なキャラクターです。

 今後も彼女の存在が際立つ話があるかもしれませんね。


〈莉緒〉

 そしてクロガネの前で私の姿に化けるドッペルゲンガー、もといニャルラトホテプ。


〈五月雨〉

 かの邪神からしてみれば、「新しい玩具みーつけた♪」みたいなノリなのでしょうw


〈莉緒〉

 嫌なノリだなw

 後日、怪盗絡みの事件でクロガネと再会できたのは偶然だとはいえ、本当に迷惑過ぎるw


〈五月雨〉

 それはさておき、次でドッペルゲンガー事件は閉幕です。



【幕間4】


〈五月雨〉

 さて、ドッペルゲンガー事件の首謀者だった整形外科医と結婚詐欺師の女が成敗される話ですね。


〈莉緒〉

 ここで登場した第三のドッペルゲンガーは藤原優利ね。

 変身能力を使って松村彩子のカルテと、主犯格の片割れである整形外科医・出目治の自宅から今回のドッペルゲンガー事件の証拠を入手しているわ。


〈五月雨〉

 二回目のキャラクター紹介でも語りますが、優利=〈インディアゼロ/イリュージョン〉はゼロナンバーでも珍しい穏健派です。


〈莉緒〉

 んん? というと?


〈五月雨〉

 クロガネや新倉、ナディアなど物理的に標的を抹殺するゼロナンバーを過激派とします。

 一方で、優利はその変身能力で標的の懐に潜入して有力な証拠を集め、法的裁きによる社会的抹殺を行います。


〈莉緒〉

 ああ、なるほど。穏健派ってそういう意味か。


〈五月雨〉

 優利の変身能力は暗殺にも向いています。

 実はクロガネ以上に暗殺者に適したキャラクターですね。

 総合的な戦闘力はクロガネの方が僅かに上だったため、優利は暗殺者ではなくスパイとして起用された経緯があります。怪盗〈幻影紳士〉もその一環で演じている顔の一つですね。


〈莉緒〉

 へぇ~。そのスパイに特化したスキルで、ドッペルゲンガー事件の有力な証拠を集めたわけね。


〈五月雨〉

 怪盗でもあり、義賊でもあり、探偵助手でもあり、学生でもあり、時には暗殺者にもなりえる。

 〈インディアゼロ/イリュージョン〉は無数の顔を使い分け演じ分ける変幻自在なトリックスターです。

 その一端が解るのが、この【幕間4】で登場した第三のドッペルゲンガーとなります。



【第5章】下見とデート


〈五月雨〉

 さて、前半のドッペルゲンガー事件を終えて折り返し地点にやって来ました。


〈莉緒〉

 怪盗が現れる美術館にクロガネと真奈が下見に訪れる話ね。

 クロガネは終始仕事のつもりだけど、真奈はデート気分で来てるわね。不謹慎な。


〈五月雨〉

 本人も後で反省していますからw

 ここで怪盗が狙う宝石【宵闇の貴婦人】の登場です。

 多面体の黒い宝石という時点で、クトゥルフ神話に詳しい方はその正体にお気付きになられたかと思いますw


〈莉緒〉

 台座にも意味深な五芒星の結界があったし、作品タグの『クトゥルフ神話』でもう冒涜的で悲惨な未来が訪れるのは目に見えているわね。


〈五月雨〉

 こんな美術館には行きたくありませんw

 さて下見を終えた後、銀子が再登場します。


〈莉緒〉

 どちらが早く怪盗を捕まえるか勝負と意気込んでいるけど、クロガネは大人の対応で流すわね。空回りしている銀子が何とも不憫可愛いw


〈五月雨〉

 その後、ヒロインズ三人による修羅場が。

 真奈が怒るのはかなり珍しいです。


〈莉緒〉

 『3.5』で親御さんに発破かけられたせいか、結婚とか婚期とか意識している節があるわねw

 アラサー女子にとっては必死にもなるわ。


〈五月雨〉

 一方で、夕飯のメニューを考えているクロガネ。

 修羅場の渦中にして中心に居るものだから現実逃避をしたくなるのも無理はありません。


〈莉緒〉

 ヒロインズとの温度差がまたも激しいな、おいw


〈五月雨〉

 そしてクロガネの天然ボケにヒロインズが総ツッコミをして【第5章】は終わります。



【幕間5】


〈莉緒〉

 一方、白野探偵社側のやり取り。

 【第5章】といい、そこはかとなくラブコメ臭がするわね。


〈五月雨〉

 賑やかなクロガネサイドとは打って変わって、銀子サイドはどこかしっとりとしてますね。


〈莉緒〉

 怪盗確保に向けて気合いを入れるけど、どこか空回り気味な銀子。

 そんな銀子を気遣い寄り添う優利。

 ……良い雰囲気ね。


〈五月雨〉

 しっとりとした雰囲気の他に、ドッペルゲンガー事件の証拠が匿名で白野探偵社にもたらされたとあります。

 まぁ、優利の仕業ですが。


〈莉緒〉

 銀子の評判のためにと一肌脱いだ優利。

 本当に銀子優先で動いているわね、こいつは。


〈五月雨〉

 第三のドッペルゲンガーも怪盗行為も全て、銀子のためですからね。

 全ての真相を知った時、銀子は何を思うのでしょうか。


 ……さて。

 ここで前半部分である〈都市伝説編〉は終了となります。


〈莉緒〉

 次の【第6章】以降は〈怪盗編〉ね。

 それじゃあ、後編の解説コーナーでまた会いましょう。またね。

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