第22話 列車旅に出よう

 時は流れて七の月を迎えると、ようやく雨期を抜けたが、今度は立て続けに台風が接近しているようで、なかなか旅に出られない状況に変わりはなかった。

 フェメールが毎日天候操作の呪術を使っているが、上手くいかずに腹いせに犬姉にジャンピングパンチを撃ち込む日々が続いていた。

「はぁ、暇だな……」

 私は窓の外を見ながら、たまたま近くにいたツユクサとスコーンにビーチボールを投げつけた。

「あっ、思いついた!!」

 スコーンがブーツを履いて、ビーチボールに乗った。

 そのままツユクサに裏拳を浴びせたが、弾かれて反動でスコーンが私の胸元にめり込んだ。

「いて……折れた」

 私は苦笑した。

「折れたの、どこが折れたの!?」

 スコーンが無線でビスコッティとシルフィを呼び、スコーンが私をベッドに横にした。

「師匠、どうしました?」

 飛び込んできたビスコッティとシルフィが、私を診てくれた。

「うん、マリーにエチゼンスラッシャーが刺さっちゃって!?」

「……」

 ビスコッティが、スコーンにゲンコツを落とした。

「また、嘘吐いて。あばらが三本折れています」

 詳細魔法で調べていたビスコッティが、小さく息を吐いた。

 シルフィがビスコッティが書いた指示書通りに回復魔法を使い、痛みが急速に引いた。

 犬姉とリナが廊下で攻撃魔法の撃ち合いをはじめ、爆音が響き渡って時々天井からパラパラと落ちてきた。

「ああ、逃げちゃった!!」

 大量のアマガエルが宿中に広がり、ツユクサがナーガとマルシルと一緒に、アマガエルの回収をはじめた。

 ビスコッティがスコーンに説教をはじめ、スコーンがふくれっ面になっていった。

 そのうちスコーンがブーツを脱いで右手に填めた。

「ロケットブーツ!!」

 スコーンが放ったブーツが、ビスコッティのこめかみを掠めた。

「あれ、狙いが甘かったかな」

「ムキー!!」

 ビスコッティがロングブーツを脱いで、スコーンの頭を狙ったが、手が滑ったようで防弾ガラスをぶち抜き、外にいたらしい狙撃手の悲鳴が聞こえた。

「あれ?」

 ビスコッティが窓の外を覗き、無数の弾丸が飛んできて、窓際のベッドに寝ていた私とスコーンにバシバシ命中しはじめた。

「いてぇ……」

 スコーンの顔つきが変わり、窓際に立てかけてあった私のアサルトライフルを手にして、ビスコッティに向かって乱射しはじめた。

「師匠、そっちじゃありません」

 マントで全身をくるんで防御していたビスコッティが、窓の外に向かって中指をおっ立ててから、スコーンのアサルトライフルを奪い、フルオートで射撃して、慌てて飛び込んできたアメリアが防弾ガラスの修復に取りかかった。

 シルフィが回復魔法で私を癒やし、私は激痛に耐えかねてちょっとだけ暴れた。

 防弾ガラスが完全に塞がり、無線で犬姉からクリアという声が聞こえてきた。

「イテテ……あれ、動いちゃだめなの?」

「ダメですよ……じゃなかった。ダメだよ、動いたら死んじゃうよ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「そっか、でもカエル食べたいな。どっかにないかな」

 私はポケットに入っていたアマガエルと睨めっこした。

「カエル料理なら持ってくるよ。待ってて!!」

 スコーンが出ていき、ビスコッティがなぜか私にビシバシして、部屋から出ていった。「あの、大丈夫ですか?」

 シルフィが心配そうに聞いてきた。

「うん、平気。医師の許可が出るまで、一眠りするよ」

 私は軽く目を閉じ、仮眠に入った。


 スコーンに揺り起こされ、私が目を開けると、テーブルの上にカエルの酒蒸しが置いてあった。

「食べて!!」

 スコーンがお皿を私に手渡した。

「ありがと、いただきます」

 私は手でカエルを食べはじめた。

「あ、これも……」

 スコーンがお酒を取り出して、隣にいたビスコッティに飲ませた。

「はい、師匠。問題ありません」

 ビスコッティが魔法をかけて、小さく報告した。

 ベッド際にぶら下がった点滴のパックを見つめ、私は苦笑した。

 スコーンが私の口にボクシングブーツを被せ、中からデススラッシャが出てきて、私の口に落ちた。

 それをバリバリ囓りながら、私は身を起こした。

「……いて」

 私は再びベッドに横になり、ぼけぇ~っとした。

「血圧が上で九十八までしか上がりません。下は四十六です」

 血圧計を操作していたビスコッティが、やや緊張した声でいった。

「まあ、様子見かな。動かない方がいいかな」

 スコーンがビスコッティにジャンパンチをぶち込み、何事もなかったかのように、ビスコッティが血圧計を片付け、体温計を私の脇下に挟み、デススラッシャのささみ乗せごまだれソースをスコーンの顔面にヒットさせた。

 スコーンがそれを食べはじめ、最後にゴマソースだらけの顔を白衣の袖で拭った。

「不味いよこれ。サラダじゃなくて、ジャンパンチングだよ!!」

 スコーンが笑った。

「……ジャンパンチングって、なに?」

 ビスコッティが真顔で、医療書を読み始めた。

「そもそも、パンチングってなに?」

 ビスコッティが医療書をしまい、なんか書物を読み始めた。

「これはいいや。またくるよ!!」

 スコーンが部屋から出ていた。

 部屋のテレビを見ると、特大級の台風が六個も並んで接近してきてる事を報じていた。

「うわ、最悪だな……」

 私はため息を吐いた。

「ビスコッティ……より、パステルとラパトがいいな。風速測るから手伝って!!」

「はい、分かりました。風速?」

 パステルとラパトが不思議そうな顔をしながら、スコーンは部屋から出ていった。

「師匠、気をつけて下さい」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 ツユクサがアマガエルを集め終え、エナジードリンクをドバドバ飲んだ。

 ビスコッティがテレビの通販番組を見て、背負うほどの大きさの無線機で、なにか注文していた。

「あの、さっきのオモチャを……」

 ビスコッティがコソコソ話しはじめた。

「あの、今日のフライトの予定は?」

 部屋に入ってきたチーフパーサーの女性が、私に聞いてきた。

「オールキャンセル。というか、しばらくフライトの予定はないから、王家専用機の使い勝手をみていて。ダメなら改造していいから」

 私が笑みを浮かべると、CAの一団は部屋から出ていった。

「さて、どうしようかな。海兵隊でもおちょくろうかな……」

 私は無線を使い、マイク1に連絡を取った。

「ねぇ、この天候の中でチヌーク飛ばせる?」

『任せろ、三十分でそっちにいく。目的地はどこだ?』

「コルポジ駅。ここからだと、三十分は移動しないといけないから」

『分かった』

「ビスコッティ、スコーンたちを呼び戻して。雨で腐ってしょうがないから、鉄道旅をしよう」

私は笑みを浮かべた。

「はい、そうですね」

 ビスコッティが無線を取り、スコーンと連絡を取り始めた。

「ですから、風力十二ってヤバいです。帰ってきて下さい。『鳥になれたらいいな……』って、なにボケてるんですか!!」

 ビスコッティが無線を胸ポケットに押し込み、大股歩きで酒瓶を取り部屋を出ていった。

 ずぶ濡れでボコボコのスコーンと、げっそりして死にそうなパステルとラパトが帰ってきて、タオルで頭を拭いた。

「なにやってるんですか、もう……。マリーが鉄道旅をしたいといっていますが、どうですか?」

 ビスコッティが苦笑した。

「いく!!」

 スコーンが笑った。

「鉄道ですか。初めてです」

 デススラッシャの刺身を食べながら、ラパトが笑みを浮かべた。

「はい、行きます!!」

 パステルが笑顔になった。

「よし、みんなもいい?」

 特に異論は出ないどころか、みんな旅の準備を始めた。

「南北に繋ぐ路線は工事中だけど、東西に結ぶ路線は全通してるから東か西ならいけるよ。どっちがいい? ちなみに、東に行くと『青竜洞』があるし、西なら『バハムートの家』があるよ。パステルとラパト、どっちをマッピングしたい? なにせ、マップがなくて私も困っていたんだよね」

 私は苦笑した。

「はい!! 西です!!!」

 パステルが笑った。

「私は東がいいのに……」

 ラパトがぼやいた。

「じゃあ、みんな東でいい?」

 私は問いかけたが、みんな旅の準備中で誰も答えなかった。

「……寂しいな」

 私は鞄の中からバーボンのポケット瓶を取りだし、一口煽った。

 みんなの準備が出来上がり、私たちは一息吐いた。

 その頃になって、無線ががなった。

『マイク2、これじゃ不可能だ。なんだ、風力十四って。いかれてやがる!!』

「マイク2了解。無理しないでね」

 私は苦笑した。

 準備が整ったところでみんなで階下に下り、暴風が吹き荒れる外に出て、駐まっていたバスに飛び乗った。

 無料バスは風に煽られながらも、町の中にある駅に向かっていった。

 バスを降りると、私は素早く切符を取りだし、団体窓口に向かっていった。

「早く!!」

 私が声を掛けると、みんなダッシュでやってきて、そのまま団体窓口を通り抜け、跨線橋を渡って、ホームに停車中の西行きの列車に飛び込んだ。

 車内はマカボニー調で統一され、手すりや壁がすり減って、使い込まれた感じがまたいい雰囲気を放っていた。

「この車両は貸し切りだから、好きに部屋を使って」

 私は切符を配りながら、笑みを浮かべた。

 車掌がやってきて切符を確認すると、嵐で待避中である事を告げ、次の車両に向かっていった。

「貸し切りなの? ブーツビーチボールサッカーやっていいの!?」

 スコーンが笑った。

「ダメ、着いたらやって」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、青竜胴ですよね。ブルードラゴンって、極悪だと聞いていますが……」

 マルシルが恐る恐る聞いてきた。

「大丈夫、私の知り合いみたいなものだから」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、ブルードラゴンと知り合いって……」

 ツユクサが目を丸くした。

「これでも、旅人生活長いから、色々知り合いは出来るよ。さて、いつ出発できるかねぇ」

 私は苦笑したのだった。

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