第21話 帰宅

 しばらく水平飛行を続けた飛行機だったが、窓の外を黒い影が通り抜け、いきなり急旋回した。

 正面のスクリーンには、MiG23のシックス・ア・トエルブについて、しつこく追い回している光景が映し出されれていた。

「……鈍ったな」

 私は小さく笑みを浮かべた。

 機内ではワゴンサービスがはじまり、豪華とはいえないが、ウナギのスープをメインにしたコース料理が配膳されはじめた。

 正面のスクリーンに映し出されたMiG23になにかが命中し、激しく白煙を吹き始めた。

「……なにしてんの」

 私は苦笑した。

 飛行機の中は穏やかな時間が流れ、時々ゴン!!とか軽い音が聞こえていたが……まあ、問題なかった。

『お客様へ。間もなく機体左側を変な飛行機が通り過ぎます。ご注意下さい』

 機内アナウンスが流れ、派手な塗装が施され。青いランプと間の抜けたサイレンを慣らし。ミサイル満載の変なF-35Cが重そうに飛んでいった。

「……なんだ、あれ?」

 スコーンがポカンとした。

「……師匠、進行方向に緑の変な塊が見えます。どうも、このまま突っ込みそうですが」

 ビスコッティがお茶を飲んだ。

「あれはゴーストです。しかも、かなり凶悪な!!」

 シルフィの声が聞こえ、呪文を唱え始めた。

 飛行機の周りを飛んでいたトムキャットが、一斉に前方に横一列に並び、一斉にミサイルを発射した。

 緑の塊でミサイルが炸裂すると、緑の塊がさらに巨大になった。

 変なF-35が追い越していき、もう一機と並んで、さっきとは比べものにならない、大量のミサイルを緑の塊にぶち込むと、緑の塊は弾けて飛んで、そこら中を飛び回りはじめた。

「……あーあ」

 私は頭を抱えた。

 十機のトムキャットが散開して飛び散った破片を追いかけいき、一気に大空戦になった。

 変なF-35Cが機銃弾をばら撒き、トムキャットが戦闘空域から離れるように、こちらの機体をそっと押して進路を変えた。

 右側の窓でド派手な爆発が起こり、頭に円盤を乗せた飛行機が燃えが上がったかと思ったら、真っ白な湯気のようなものに包まれ、あっさり消火して何事もなかったかのように上昇していった。

 続いて変なF-35Cが撃墜され、そのまま落下していった。

「まあ、あっちは任せておこう。ってか、任せるしかないな」

 私は苦笑して、衛星電話で文字情報を送った。

「これで一時的な飛行禁止エリアはできた。あんなもんに巻き込まれたら、シャレにならん」

「お客様、お酒をお持ちしました」

 CAさんがにこやかに、グラスに注がれたシャンパンをテーブルの上に置いた。

「ありがとう」

 私はお酒を飲み、ポケットに入れておいた食用トノサマガエルを生で囓った。

「うん、この苦さがいいんだよね」

 飛行機が急旋回し、窓の外の闇に目を向けると、イカ釣り漁船の明かりが眼下に見えた。

「あれ、低すぎない?」

 私は念のため、救命胴衣を身につけた。

「お客様、救命胴衣は私たちの指示に従って下さい」

 チーフアテンダントのお姉さんが、にこやかな闇を浮かべた。

 私は素直に従って、救命胴衣を畳んで椅子の下に戻した。

「お飲み物をお持ちします」

 チーフアテンダントのお姉さんが、ワゴンサービスを行っていたCAのお姉さんから強引にワゴンを奪い、『とっておき』と書かれたボトルを持ってきて、ワイングラスに注いでサーブし、小さなボトルと共にテーブルに置いた。

 しばらく置いてワインが開いた頃、私はゆっくりグラスを傾けた。

 スコーンがやってきて、ニッと笑みを浮かべて、ボトルを持って自分の席に戻っていった。

 私は正面のスクリーンをみて、飛行機が緩やかに上昇しているのが分かった。

「はぁ、落ち着いたかな」

 私はグラスを傾け、ポケットからツユクサの髪の毛の束を取り出し口に入れた。

「うん、美味しいね」

 こうして、私たちは熱圏を優雅に飛んでいった……おい、どこまで上がってやがる。


 私たちを乗せた飛行機は明け方近くなって、コンファラ空港に向けて降下していた。

 雲の層に入ると、大粒のヒョウが機体を叩きはじめた。

 隕石のような巨大なヒョウが前面に当たり、カメラの視点がずれたが、勝手に元に戻った。

 なにごともなかったかのように降下を続ける飛行機の前面に、着陸誘導灯が見えてきた。 ヒョウが降りしきるなか、飛行機は滑走路にタッチダウンした。

 一瞬だけスラストリバーサーが作動して、ブレーキの振動が機体を揺さぶった。

 しばらく走って高速滑走路にはいると、ランウェイエンドに待機していたF-111がスクラムを組んで優雅に離陸していった。

 飛行機はターミナルビルのスポット23に向かっていき、マーシャラーの誘導で止まった。

 しばらくして、機体前部の扉がが開き、私は立ち上がった瞬間によろけて、全部スクリーンに顔面をめり込ませた。

「なに、新しい遊び?」

 スコーンがわざとジャンプしてさらに穴が広がった。

「師匠、なにやってるんですか!!」

 駆け寄ってきたビスコッティが、盛大に転けてスコーンに体当たりして、スクリーンがメチャメチャに割れた。

「いってぇな、誰だこんな所に段差作ったのは……まあ、いいや。行こう」

 私は、頭部が完全にスクリーンにめり込んでいるスコーンのブーツをひっぱたら、脱げてビスコッティの顔面にモロに命中した。

「あっ、ゴメン。もう片一方……」

 私はスコーンのブーツを引っこ抜き、背後に投げたらツユクサに顔面にめり込んだ。

「いけね、ブーツじゃなかった。これ、どうしようかな」

 私が考えているとパネルが落ちて、派手に粉砕された。

「あっ、いい考えがあります」

 ビスコッティがスコーンを崩壊したスクリーンから無理やり引っこ抜き、私にトスしてきた。

 思わず回し蹴りではたき落とし、私はマルシルに向けてスコーンを蹴り飛ばした。

 マルシルが杖でスコーンを打ち返し、頭がビスコッティの鳩尾に深くめり込んだ。

「ぐぼぉ……」

 ビスコッティが片膝を突いて吐血し、気絶したスコーンを私はリフティングした。

 スコーンを犬姉に向けて蹴り飛ばし、私はビスコッティに回復魔法を掛けると、浮遊の魔法で体を浮かせ、スラッシャーをお腹の腕に乗せると、それをキキに向けてセンターリングを上げた。

 スラッシャーが回転をはじめたが、リミッターを装着してあるので、緩やかに優雅に回るだけだった。

 ビスコッティがキキに命中し、キキはお腹のスラッシャだけ回収して、ビスコッティを蹴り飛ばした。

 ぶっ飛んだビスコッティが、ツユクサに命中して弾き飛ばされ、リナとナーガのボディにクリーンヒットして、気が付いたら動ける者が少数になっていた。

「あれ、やっちゃった」

 私は傍らに落ちていたスコーンのブーツの中に、ちっこいデススラッシャを詰め込み、今もう動かないスコーンの背中に置いた。

「……イマイチだな」

「ダメです!!」

 いきなり復活したビスコッティが私にアッパーを撃ち込んでぶっ飛ばされ、スコーンの背中にあったブーツを頭に被り、鬼のような形相で私に迫ってきた。

 そのビスコッティを犬姉が足を掛けてころばせ、ブーツの中のカニを食べはじめた。

「お客様、降機をお願いします」

 チーフアテンダントのお姉さんがニッコリ笑みを浮かべ、強力水鉄砲でスコーンの気付けをし、ベタベタ顔に絆創膏を貼り、ツユクサがつぶさに観察していたブーツをそっと受け取り、カニが入っていたブーツを取り上げスコーンに履かせ、回復魔法で気付けをして、担架を呼び寄せた。

 スコーンとビスコッティが担架で運び出され、アメリアとシルフィが追いかけていった。

「さて、降りようか」

 私は笑みを浮かべた。


 空港からのバスで町に戻った私たちは、久々の宿に戻った。

 雨期の明けはまだしばらく掛かるようで、空からは大粒の雨が降っていた。

 宿に入ると、フロントのオバチャンが笑った。

「どこいってたの。新しい顔も見えるし、大家族だね」

「はい、よろしくお願いします」

 犬姉のお母さんが笑みを浮かべた。

「こちらこそ。さて、奥の食堂開いてるよ」

 オバチャンが笑った。

「……あ、あの、カエル料理を出したいです。ダメですか?」

 ツユクサが思い切った様子に、オバチャンは少し驚いたような表情を浮かべた。

「カエルね。このところメニューがマンネリ化してきたから、悪くはないわね。ちょっと、作ってみて」

「は、はい」

 ツユクサは腰にカエル袋からカエルを取り出した。

「トノサマガエルです。厨房をお借りします」

 ツユクサが食堂の奥にいって、料理を作りはじめた。

「面白いね。さて、上で休みな」

 オバチャンが笑った。


 部屋で荷物を置き、剣と銃だけになった私は、階下の食堂に向かった。

「よし」

 私は気合いをいれ、厨房で作業しているツユクサが忙しくパタパタ動きながら、料理が出来ていくのを見守った。

 そこに、無言でリナとナーガが厨房に入り、凄まじい勢いで調味料をツユクサに手渡し、ひたすらネギを刻みはじめた。

 犬姉が欠伸しながら降りてきて、ビールを大ジョッキで頼むと、チビチビ飲みながらナイフの手入れをはじめた。

「師匠、ダメです!!」

 階上からスコーンの声が聞こえ、ビシバシという凄まじい音が聞こえた。

「なんかやったな。相変わらず元気がいいね」

 私は苦笑した。

「さて、今日も雨か。これだから雨期は……」

 私は窓の外を見て、小さく息を吐いたのだった。

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