もごよふ

   もごよふ



高山のすゑつたこともあれば

低山ひきやまの末に居つたこともある


いづれにしても

身をかがめてをるところに

風がすうすう 耳の橫をかすめて行つた


腹より下を伸ばしへで

片付かぬ心持ごと

わくわく波立たせながら

すうすう すうすう

かすめて行くものを眺めてをつた


いくたりもいくたりも風がきた

いくたりもいくたりも風が去る


さうして殿しんがりの風が

少しく渦を卷くやうな

そんな素振を見せたと思つたら


逶迤もごよへるかみ――


ささやいた


はつとなつて そのこゑを耳にとど

まだ何か云ふのだらうと待つたが

そこから先にはつづけてれぬので

たちまち離行かれゆく風の尾に向かつて


逶迤もごよへるかみみまし 何如いかに何如に


聲高こわだか催促はたれば

はつかに見返り

何やら甲高かんだかい聲で返答いらふけれども

おとのみ吾が耳朶みみたぶかすむるばかりにて

そのこころは耳の穴から這入らうともせぬ


仕方もあらに こうと目をねむつて

なつかしきあのかみの姿やらをおもふてみたところ

吾が眼閒まなかひに現れたをれば

そつと薄目を開いてをつて


萬代よろづよには足らずとも千代は過ぎてむ


とか何とか

あちらでも濩略もごよかに笑ふてをつた





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