兔馬と僕

   兔馬うさぎうまと僕



まだひるには早いと云ふに

日はすでにかんかんとおこつて

遠慮會釋ゑんりよゑしやくも無く叩き付けるものだから

狗楠いぬぐすなるたぶの木のかげころがり込み

麥藁むぎわらの帽をつて大枝の股の所に置くと

汗水漬あせみづくの額から頭から首筋から

ごしごしと手拭てぬぐひを使ひつつ

一寸ちつとも風が吹かぬから

反對はんたいの手では

滿開まんかいの破れ扇をばたばたと

さかんに動かしてゐるのだけれども

てもどうにもやり切れぬと

への字口の澁面じふめんしてゐた所

何處どこぞやの兔馬うさぎうま

涼爽すずしげにて呑氣のんきさうなる面魂つらだましひもつ

飄然へうぜんつて來て

伸び放題に蔓延はびこつてゐたかやどもを

もしやもしやと遣り始めたを幸ひ

君はじつに奇特なものだね

先刻迄さつきまでは僕が鎌を振るつてゐたのだが

どうにも梃摺てこずつてしまつて

これ退引のつぴきならぬ仕儀と

途方に暮れてゐたのだよ

さうかいさうかい

大兄たいけいが代りを務めてくれるかね

成程なるほど立派なものだ

餠は餠屋と云ふが流石さすがなものだね

と大いに讚辭さんじを呈しておいて

自分は根方にごろりと橫になると

頰杖ほほづゑを突きなが

朋友ほういう午餐ごさんの樣子と

人の好ささうな黑い瞳を

しみじみと眺めてゐたものであります






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