第19話 超人少女雲母幽吏
「雲母幽吏さん?」
聞き覚えのあった名前を一姫は記憶の中から探り出すと「あっ」と声を上げた。
「確か学年で一番頭が良いっていう……」
「転校してきたばかりにキミにも知ってもらえるとは光栄だね」
「それ以上に変人として有名だけどな。なあ?
「ハハハ。そこは個性と言って欲しいな。ボクから言わせてみればキミも十分変わっていると思うけどね」
「えっ?」
幽吏からの指摘に零聖は何を言われたのか分からないと言った風に固まった。
「いやいや、何を仰りますか雲母さん。この校則遵守、品行方正な青年のどこが変人だと?」
「……アハハハハ!やっぱりキミは面白いヤツだね」
「どこに笑われるポイントがあったのかまったく分からないんですけど」
色々気になることは多い一姫だったが、取り敢えず幽吏が
不服げな目で睨む零聖を余所目に腹を抱え笑い続けていた幽吏だったがやがて笑いを止めるとパンと手を叩いた。
「さて、冗談はこれくらいにしておいて……」
「待て、いつ誰が冗談を言ったんだ?」
「朱雀さんはこの部活のどういう点に興味を持って来てくれたのか教えてはくれないかい?」
「えっと……珍しい部活だと思ったからです」
幽吏の問いかけにこう答えた一姫だったがすぐに「失礼だったかもしれない」と後悔した。
棚に詰まる資料の揃い具合を見ても幽吏がこの部活に生半可な気持ちで臨んでいないということは一目で分かる。それに対してこの分野に関し人並みの知識しかない自分が興味本位で首を突っ込むのは冷やかしになるのではないかと思ったのだ。しかし……
「なるほど。それは確かに合理的な理由だ。人は珍しいもの、未知のものに惹かれる傾向にあるからね」
幽吏は不快に感じた様子はなく、逆に一姫の動機に理解を示した。
「この部活もそうだ。未知のものを解き明かすために放課後や休日と言った貴重な時間を費やしている。益はないかもしれないが皆、大なり小なりその正体を知りたがっているからこの部活を訪れる。そういう意味ではこの部活に興味を持ってくれた時点でキミはこの部活に入る素質があるということかもしれないね」
「えっと……ありがとうございます?」
「つまりお前を歓迎してくれているってことだよ」
幽吏の長ったらしい会話内容をイマイチ理解していないようだったので零聖が要約して伝えると一姫は「ああ〜」と頷いて見せた。
「それはありがとうございます。でも……わたしまだこの部活がどういうものかちゃんと分かっていなくて……」
「それは今から説明するよ。その前に……まずは座ろうか」
幽吏に促されると二人は席に着くも幽吏自身は座らず棚の方へ向かい出す。
「二人とも紅茶で大丈夫かな?」
棚からティーポットを取り出しながら幽吏が聞いてくる。
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「別にオレはいいぞ。部活に入るつもりもないのに茶だけもらうのは悪いからな」
「遠慮しなくていいよ。それに、ボクはキミも勧誘するつもりだからね」
幽吏は悪戯っぽい笑みを零聖に向けると狙いを定めるように指を差した。
「勘弁してくれ」
零聖は困ったような顔で笑った。
入ったとしてもすぐ辞めてしまうことになるのだから。
幽吏は手慣れた様子で準備を進めると盆にティーポット、ティーカップ、茶菓子を乗せて運んできた。
「はい、どうぞ」
幽吏は各々のカップに紅茶を入れ、二人の前に置くとようやく自身も席に着いた。
「さて、都市伝説研究部の部活内容についてだが、まあ、そこは自由と言った感じで普段は各々面白い情報を集めたり、
「"普段は"か。そうじゃない時もあるってことか?」
「いいところに気が付くね」
零聖の指摘に幽吏は首肯した。
「気になる場所があれば休日を利用してそこへ行ったりしてるんだ」
「そこではどんなことをするんですか?」
「噂が嘘か真か徹底的に調べ上げる感じだね」
「調べるって?」
「例えばポルターガイストが起きるって場所なら原因の多くである地盤沈下で建物自体が傾いてないかとか調べたり、幽霊が目撃されたならその土地の伝承を探ってその由来について調べたりするんだ。こうすることで噂が本物か虚構かを解き明かすんだよ。まあ、大体は後者なんだけどね」
「とても楽しそうですね!」
幽吏の一通りの説明にワクワクした様子で手を叩くもその後にトーンダウンした様子で「でも……」と続けた。
「少し寂しい気もしますね」
「というと?」
「そういうミステリーってよく分からないままだから神秘的でワクワクするじゃないですか。ですから、それを解き明かすのは……」
なるほどな。
零聖は茶菓子を食べながら心中で呟いた。
都市伝説というのはいざ真相を知ってみると手品のように以外と単純だったりするものだ。
例えばUFOやUMAの映像なんかはほとんど作り物だし、心霊写真に映り込むオーブは埃の反射、ツタンカーメンの呪いも新聞社の作り話だったりする。
つまらない真相を知ってしまうくらいならあやふやなままでいい。
それは共感できるところのある意見だった。
「なるほど。そう言う人も一定数いるのは確かだ。しかしね、ボクはこうも思うんだ。本物か偽物かは関係なくそれらを楽しめることが大切じゃないんかなってね」
ここで幽吏は一度、言葉切るとティーカップを取り、紅茶で口を湿らせた。
「本物、偽物関係なく楽しめることが大切、ですか?」
「そう。何故ボク達が得体の知れないものに強い関心を抱くのか?それはキミも言っていた通りワクワクするからだ。そして、そこには本物も偽物も関係ない。例え、偽物だったとしても楽しませてくれたことに変わりはないんだしね」
「!……そう、ですね!そうですよね!」
一姫は幽吏の言葉に感銘を受けたように力強く何度も頷いた。
「なるほど。つまり雲母、お前は都市伝説を真実味を求める噂ではなく、一種のエンタメとして受け入れているということか」
「そういう解釈で大体あってるよ」
幽吏から答えを聞くと零聖は紅茶を飲み干し立ち上がった。
「いい話を聞かせてもらった。それじゃ、オレはそろそろ帰るわ。お茶、ご馳走さま」
「ええ〜もう行っちゃうの?」
「言ってただろ。時間がないって。待たせてる奴がいるんだよ」
「ほお?それは彼女だったりするのかい?」
「カノ……ジョ?」
揶揄うような幽吏の言葉に一姫がぎこちない挙動で呟いた。まるで自宅の火災現場を目撃したかのような反応だ。
「違えよ。友人と遊ぶ約束してるだけだ。あんま揶揄うな」
「そうかい。それじゃあ、また後日話し合おう」
「何を話すんだよ……じゃあな朱雀、雲母」
最後にそう言い残すと零聖は急ぎ足で教室を出た。もう予定時刻の十五分を若干過ぎてしまっている。急がなければ。
零聖は足をフル回転させ、駅まで一直線に向かった。
「友達か〜良かった〜」
「何が良かったのかな?」
「何でもないです!」
「そう言えば友達の性別は聞いていなかったね」
「で、でも!零聖くん、恋愛とかに興味なさそうだし……」
「でもあれだけ待たせるのを厭っていると考えるとただの友達ではないだろうね」
「え……それじゃ……やっぱり零聖くんは……」
零聖の去った部室でいるかどうかも分からない幼馴染の親しい女友達に翻弄される一姫を幽吏は楽しげに眺めていた。
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