第13話 10分の悲劇と終わり

 卒業式が終わり、アロルド王子とカルロッタ様が手紙の件について話しかけてきた。


「おい、どういうことなんだ!?こんな手紙なんか出して罪を逃れられると思っているのか?貴様はパーティーの場でしっかり断罪させてやる!」


「待ってください、アロルド様…この手紙の内容が本当なら会場の守りを強固にするべきでは?」

 とカルロッタ様が言う。


「本当にお二人には酷いことをしましたわ。謝罪致します。どうか今一度信じてもらえないでしょうか?犯人は断罪を楽しみにしております…。今回は私も身代わりを立てずに出席しようと思いますが、断罪は行わないでほしいのです。婚約破棄は後ほど内密に行って欲しいのです。


 カルロッタ様…貴方はお優しい方。信じてくれてありがとうございます!」

 するとカルロッタ様が微笑み


「過ぎたことです。もう卒業ですし私は貴方の罪も許します。これからはお友達になって欲しいわ」

 と言ってくれる。なんていい子を私は嫉妬心から虐めていたのか。アロルド王子にはもう何の未練すらないが。


「くっ!優しいカルロッタに感謝せよ!アンネット!」

 と王子は睨みつけながら言う。

 私はヨニーと馬車で一旦家に帰ってドレスに袖を通した。もちろん王子の色のあのドレスはやめてとても地味な黒いドレスにした。メアリーは何故こんな色に!?と反対したけど。

 馬車内ではヨニーは何となく浮かない表情だった。どうしたのかしら?


 ドレスを着終わるとメアリーにお礼を言い、再び出かける準備をする。

 ヨニーと入れ替わりに部屋を出ていくメアリーを見届けた後、


「ヨニー…これからパーティーね…。断罪が行われなかったらまた被害が出るかもしれないわ」


「時計もありますし今度こそ阻止してみせますよ、お嬢様は何の心配もいりません!」

 と言うとヨニーはフッと表情を暗くしたと思ったら私を抱き寄せた!


「ヨニー!?」

 いきなりのことで驚いてドキドキした。


「ああ…お嬢様…アンネット様…。少しだけこのままでいることをお許しください」

 と言われて固まりかける。


「ヨニー…とうしたの?も、もしかして怖い?わ、私もよ?」

 と勇気を出して私も背中に手を回す。

 ヨニーとこうして抱き合っているだけで緊張感が消えてくよう。大好き…。


 棚に置いてある置き時計がチクタクと音を立ててている。

 ヨニーは少し離れて赤くなり微笑む。私もたぶん赤い。


「ヨニー…犯人を捕まえることができたら…私…」

 すると唇に指を立てられヨニーが言う。


「ふふふっ…お嬢様…きっと巻き戻りは止まります。今日でお嬢様を苦しめる者はいなくなりますよ!」

 とヨニーはまるで先が分かるような事を言う。そうなればいいんだけどね。


 *

 私とヨニーは会場に向かう。馬車の中…ヨニーが手を伸ばしまた私達は手を握りただ見つめ合っていた。それだけで元気も出てきた。ヨニーがいてくれて本当に良かった!


 会場に到着し人垣を避けると…王子はカルロッタ様をエスコートして微笑み合い生徒達はキャーキャーとお似合いだの何だのと言って私には侮蔑の表情を投げている。王子は一度こちらを睨んでいたが、いつもより警備も増やしてくれたようだ。


 私の断罪も後日ひっそり行い、私は平民落ちし国外追放されることになっている。


 王子は私ではなくカルロッタ様とファーストダンスを踊る。それだけでザワザワと周囲が驚いてみた。普通は婚約者とファーストダンスを踊る。しかし王子はマナーをすっぽかし踊った。


 私は皆から嘲笑されていたので壁の隅で大人しくヨニーといた。


「大丈夫ですか?お嬢様?休憩室に行きますか?」


「いいの、ここにいないと…皆が襲われた時時間を止められない」


「そうですか………お嬢様…僕…本当は犯人を知っているんです」

 とヨニーが突然言い出したので私は驚いて顔を見ると今までのヨニーとは違い、酷く顔色も悪く憔悴しきっていた。


「ヨニー!?どういうこと?犯人を知ってる?思い当たったの間違いかしら?」

 と聞くとヨニーはにこりとか細く笑い…


「僕はね…禁忌魔法が使えるのですよ」

 と言い、見たことない歪んだ笑顔をして腕をまくる。

 するとそこには…時計の数字のような黒い刻印がハッキリと刻まれていた。


 一瞬思考が停止しかける。


 えっ!?


「ヨニー…あの…まさか…犯人とは…!?」

 そこでヨニーが私の手を取り、掌に時間停止の懐中時計を置いて一緒に停止ボタンを押す。


 すると一瞬で周囲が灰色の世界に染まり人々は動かなくなり私達と時計のみが動いていた。


「そう…犯人はこの僕…ヨニー・フレードリク・フェルセンです。お嬢様。貴方を愛しておりました。全部僕がやりました」

 とヨニーは黒い魔法陣から黒い獣を召喚してみせた。

 恐怖でビクっとする。


「全部覚えておりますよ。全部全部。何度も何度もお嬢様と最初から全部巻き戻りました。僕は…酷いことをしてきました。…それでも貴方を愛していた。僕なりの愛し方で」


「て、手紙も…自作自演だったの?ヨニー…嘘でしょ?」


「僕が書きました。ごめんなさい。皆を殺したのも僕が獣たちを遠隔操作したからです。……お嬢様には怖い思いをさせましたが、僕も命をかけてこの禁忌魔法に手を出していたのです。お嬢様と結ばれたかった」

 ヨニーがシャツを寛げると胸の中心部から穴が空いたように透けて向こう側が見えている。本当にヨニーが犯人だった。

 皆を殺した!

 …でも私を愛していた。


「嘘よ!そんなこと!嘘だわ!!ヨニー!そんな!私はどうすればいいの?」


「お嬢様…もう巻き戻りは終わりますよ。今から僕は自分の獣に喰われます。そしたらもうこの呪いは解け日常に戻ります」

 ヨニーはゴソゴソと紙切れを渡す。


「何これ?」

 それは隠し金庫の番号が書かれていた。


「僕の今まで働いて貯めたお金でございます。これで明日から王子に国外追放された後にお嬢様は僕の部屋でお金を持って出て行けます。平民落ちは最初大変でしょうから使ってください。幸せになり良い人と結婚してください」


「そんな!何言ってるの?」


「お嬢様…僕は禁忌魔法に手を出してお嬢様を苦しめた犯人であり、大罪人です。巻き戻りを止めたとしても王国の死刑は免れません。どの道死ぬのなら貴方の目の前で死にたいのです。最後に僕が喰われる所を見ていて欲しい。刻み込んで忘れないで欲しい」

 私は震える。


「い、嫌よ!例え貴方が快楽主義者の変態理想を持っていても!私の目の前で死ぬなんて!最期まで私を苦しめたいの?」


「ええ、そうです。愛する人に自分が死ぬ場面を見せつけながら地獄に落ちます」

 とヨニーは淡々と言う。

 勝手だわ。自分で仕掛けておいて自分で終わらせる!なんて自分勝手なの!?


「酷いわヨニー!私とキスしたことも本当は覚えていたのね?何も知らないフリをして!」


「ふふ、そうです。僕は酷い。貴方をずっと騙していた酷い男ですよ。でももうすぐで終わりま……」

 とヨニーが言い終わる前に私は彼に抱きつき自分からキスをした。


「……っ!?」

 ヨニーは咄嗟のことに赤くなる。


「酷いわ…私の心を弄んで死ぬなど。それなら私も一緒に殺しなさいよ!」


「一緒?何を…」


「貴方を軽蔑して怖がり震えて恐るのを期待していたのかしら?…残念ね。ヨニー。貴方の思惑通りにはならないわよ!私はどんな残酷な貴方でも好きになってしまったから…」

 ともう一度キスしてみせるとヨニーもキスを受け入れた。

 しかしその後私を突き飛ばした。


「きゃっ!!」


 ヨニーは黒い布のようなもので私の目を隠しパチンと指を鳴らすと…獣達の唸り声が聞こえて


「ああっ…お、お嬢様…アンネット…愛して…」

 とヨニーの声は途切れ次第に恐ろしい音が消えて時計の針がカチンと響いて世界が動き出す音がした。



「アンネット様!?」

 カルロッタ様が異変に気付いて駆け寄り布を外してくれ見たものは…


 落ちた天球儀のアクセサリーと血溜まりだった。獣達は消えており、世界にはいつもの色が戻っていた。


 私は目の前が真っ暗になり意識が途絶えた。

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