二人の初恋 それぞれの想い


「ここなら誰も来ないかな」


 アスナに手を引かれ、人気のない高台へとやって来た。


「アスナ、大切な話って何?」


「カズトさんは【囚われ姫と運命の剣士】って絵本知ってる?」


「いや、知らないな」


 この世界の人間じゃないから当然知らない。有名な絵本なのだろうか。


「悪い王様に囚われた姫を凄く強い剣士が助け出して結婚して、幸せに暮らすってストーリーなの」


 よくある物語だ。そんな内容のゲームを何回もやった記憶がある。


「子供の頃、お母さんがよく読み聞かせてくれたんだけど、何回も読んでるうちに、一つの夢が出来たの」


「夢?」


「私を守ってくれる強い人と結婚したいって夢」


「だからね、お父さんに剣を習って、私より強い人を探してたの」


「もしかして、それが婿探し?」


「そうだよ。でもね、同世代にも年上にも私より強い人はいなかった」


「だから、ほとんど諦めてた。私より強い人はいない。だから、一生誰とも結婚せず、ひとりぼっちで生きて死ぬんだなって諦めてた」


「でもね、諦めてた夢に希望が見えたの。私に勝った人が現れたの。カズトさん、あなただよ」


「カズトさんに負けた時、胸がドキドキしたの。ううん、今もずっとドキドキしてる。お母さんがこの気持ちが恋だって教えてくれた。カズトさんは私の初恋の人なの」


「この気持ちをどう伝えたらいいのか分からない。でも、ユヤが言うように、誰かに盗られるのは嫌なの」


「だから伝えます。カズトさん、あなたが好き。どうしようもないくらい、あなたが好きです。私をあなたのお嫁さんにしてください」


 アスナは顔を紅く染め、俺の眼を真っ直ぐ見据え、自分の想いを伝えてきた。


「カズトさんは私のことをどう思ってますか」


 俺の気持ちか……。


 まだ出会って間も無いけど、アスナを意識している自分がいる。


 それはユヤに脈ありって言われたから?


 いや、違う。


 出会った時、初恋のあすなちゃんに似てると思った時からだ。


 俺は……アスナが好きなのか?


 初恋のあすなちゃんと重ねているだけじゃないのか?


 そんな気持ちで付き合うなんて、真剣に思ってくれているアスナに失礼だ。


「私じゃ……駄目ですか……?」


 俺が返事をしないので不安になったのか、アスナが泣きそうな顔で声を絞り出すように言葉を発した。


 ……俺も誠心誠意アスナと向き合おう。


「俺もアスナのこと、好ましく思っているよ」


「……本当?」


「でも、ある人とアスナを重ねてしまうんだ。だから、自信を持ってアスナが好きって言う自信がないんだ」


「ある人……?」


「その人の名前はあすな。俺の初恋の人だよ。髪や目の色が違うだけで、アスナと瓜二つなんだ」


「私と同じ名前……カズトさんは今もその人が好きなの……?」


「いや、それはないよ。小さい時の話だしね。まあ、甘酸っぱい思い出ってやつさ。でも、やっぱり重なってしまうんだ。だから……」


「……でも」


「え?」


「それでもいい!今はその人と重なってもいい!いつか重ならないくらい好きになってもらうから!だから……だから、私を受け入れて!」


 そう言って、アスナが大粒の涙を流しながら俺の胸に飛び込んで来た。


「ちょ⁉︎アスナ⁉︎」


「好きなの!カズトさんが好きなの!絶対に諦めたくないの!」


「⁉︎」


 アスナは俺の首に手を回し、口付けをしてきた。


「……これが私の覚悟。必ずカズトさんと添い遂げる覚悟。これでも駄目かな……?」


 そう言ってアスナは俺の胸に顔を埋める。


 ……この娘はここまで俺を想ってくれているのか。


 俺も覚悟を決めて答えるべきだな。


「アスナ」


「はい……」


「本当に俺でいいのか?」


「うん!カズトさんがいいの!」


「今は心から好きって言えないんだよ?」


「それでもいい!絶対に好きになってもらうから!」


「……分かった。じゃあ、俺の恋人になってくれるか?」


「うん!よろしくお願いします!」


 アスナは背伸びをして、再び口付けをしてきた。


「えへへ、これからよろしくね。私のカズトさん!」


 そう言って、アスナは最高の笑顔を俺に向けてくれた。


 これからはこの笑顔を守っていかないとな。


「じゃあ、みんなの所へ戻ろうか」


「うん!行こう!」


 アスナが腕を組んでくる。


 さてさて、この事をどうアーロン達に説明するか。


 まあ、何とかなるだろう。


 そんな事を考えながら、俺達は村に向けて歩き始めた。

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