肉の価値


「そうですか……アイアンボアが二頭も……」


 昼食を済ませた俺とアスナは、魔獣狩りの出来事をアマーリエさんに報告した。


「でもね、でもね!どっちもカズトさんが一撃で倒しちゃったの!凄く凄くカッコ良かったんだよ!」


「本当に凄いですね。ギルドの人でも簡単には倒せないと聞きますから、カズトさんがいなかったら主人は今頃……そう考えると、カズトさんには感謝してもしきれません」


「そんな、大袈裟ですよ」


「大袈裟じゃないよ。カズトさんのおかげでみんな無事だったんだから、もっと胸を張っていいんだよ」


「そうかな」


「そうだよ。人の感謝はちゃんと受け取らないと駄目だよ」


「そうだな、これからはそうするよ」


「おーい、帰ったぞー!」


「あ、お父さんだ」


「良い匂いがすると思ったら、飯食ってたのか。俺の分はあるか?」


「お帰りなさい。用意するので、ちょっと待っててください」


「よっこいせっと」


 アーロンが向かいの椅子にどかっと腰をおろした。


「お疲れ様。死体運び、大変だったろう」


「ああ。まあ、人手があったから、まだマシだったけどな。それより、カズト」


「ん?」


「アイアンボアの肉はどうする?ありゃあ高級品だから、ギルドに売りに行くなら、飯を食ったら直ぐに行くぞ。のんびりしてると、あっという間に傷んじまうからな」


「高級品なのか?」


「ああ、俺達には一生縁のない肉だ。なんせ、倒すのがとんでもなく難しいからな。滅多に市場には出ないし、出たとしても、値段が高すぎて一般人には買えない。買うのは貴族様だな」


 貴族が買うって、そんなに美味いのか?ふむ……正直、急いで売りに行くのは面倒くさい。でも、売りに行かないと腐るしなあ。どうしたものか……あ、そうだ。


「急いで売りに行くのも面倒くさいし、みんなで食べようか」


「いいのか?かなりの金額になるんだぞ?」


「いいよ。金よりも、貴族が食べる肉の味に興味があるし」


「でも、俺達だけじゃ食いきれないぞ?」


「なら、村のみんなで食べればいいじゃないか。あのデカさで二頭分あるんだ。量は十分だろ」


「俺達は嬉しいが……本当にいいのか?」


「いいって。これから世話になるんだ。挨拶代わりに、みんなで宴と洒落込もうぜ」


「分かった。じゃあ、有り難く食わせてもらうとするよ。そうと決まれば、後で村の連中を集めて解体しないとな」


「アイアンボアのお肉かー。どんな味なんだろう?」


「貴族様が食べるんだ。それはそれは美味しい肉なんだろう」


「楽しみだなー。カズトさんも楽しみだよね?」


「ああ、俺も楽しみだよ」


「今夜は一生に一度の経験になるな」


「そうだな、最高の夜にしよう」


「夜の話もいいですが、まずは昼食を済ませてくださいね。あとはあなただけなんですから」


 料理を運んできたアマーリエが、呆れ混じりにアーロンに言った。


「あ、ああ、悪い、すぐに食うよ」


 アローンは慌てて出された料理を食べ始める。


 あんなに慌てて食べるなんて……どうやら、アーロンはアマーリエさんの尻に敷かれてるみたいだ。


「私達はもう食べ終わったから、今から何する?」


「そうだなあ」


 何をするかか。うーん、今日の稽古は終わったし、アスナにも稽古をつけた。特にやりたい事はないが……いや、待てよ。やりたい事があったわ。


「俺は森に行って来るよ」


「え?どうして?」


「ちょっと試したい事があってね」


「試したい事って何?」


「秘密だよ」


「ふーん。ねぇねぇ、私もついて行っていい?」


「駄目。一人じゃないとできないからな」


「えー!そう言われると、余計に気になるー!お願い、私も連れて行ってよー!」


「だから駄目だって」


「むぅ、カズトさんのケチ!」


 アスナが口を尖らせ不満を表す。


「アスナ、カズトさんを困らせないの」


 そんなをアスナを、アマーリエさんが諌める。


「日が暮れる前には帰って来てくださいね。みんなで待ってますから」


「そうだな。カズトが帰ってくるまでには宴会の準備も終わるだろ」


「……行ってらっしゃい」


「了解。じゃあ、行って来ます」


 不満げなアスナとアーロン達に見送られ、俺は森へと向かって歩きだした。

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