魔獣狩り ①


「お母さーん、カズトさん呼んで来たよー」


「ありがとう、アスナ」


「よお、カズト。朝早くから素振りとは熱心だな!」


 アスナとダイニングへ向かうと、料理を配膳しているアマーリエと朝から元気一杯のアーロンが待ち構えていた。


「まあな。身体を動かさないと落ち着かなくてね。アーロンはやらないのか?」


「やりたいのは山々なんだが、今日は魔獣狩りがあるからな。残念だが諦めたよ」


 アーロンが残念そうに肩を落として呟く。


「俺もそれがあるから、軽く流す程度にしておいたよ」


「そうか。それなら体力が余ってるな。朝飯食ったら若い衆集めて森へ入るぞ」


「ああ、分かった」


「ねえ、お父さん」


 アスナが真面目な顔でアーロンに話しかけた。


「ん?何だ?」


「私もついて行ってもいい?」


「駄目だ」


 アーロンはアスナの提案をとりつくしまもなくばっさりと切り落とした。


「えー、何でよー!」


「年頃の娘を危険な目に遭わせる訳にはいかん」


 やっぱり父親として娘の事が心配なんだな。俺には娘はいないが、怪我をさせたくないという気持ちは分かる気がする。


「大丈夫だよ。自分の身は自分で守れるくらいは強いんだよ?お父さんも知ってるでしょ?」


「それは人間相手の話だ。人間と魔獣では戦い方が違う。お前、魔獣と戦った事ないだろ」


「それはそうだけど……」


「連れて行ってあげればいいじゃないですか。アスナにとって良い経験になると思いますよ」


 おっと、アマーリエさんが援護射撃をした。アマーリエさんはアスナが心配じゃないのか?


「そうは言うがよ、もし消えない傷でも出来たらどうするんだ。嫁の貰い手がなくなるぞ」


「大丈夫ですよ。いざとなったら、カズトさんが守ってくれますよ。ねえ、カズトさん?」


 ん?俺?確かに俺が守るなら心配はないが。女の子一人守れないほど弱くはないからな。


「はい、大丈夫ですよ。全身全霊で守ります」


「ね、ね、カズトさんもこう言ってるし、いいでしょ?」


「ふむ……カズトがフォローしてくれるなら大丈夫か。分かった、参加を許可しよう」


 アーロンが仕方ないといった感じで渋々アスナの同行を許可した。


「やったー!よーし、頑張るぞー!」


「ふふふ、よかったわね」


 アマーリエさん、意外とアスナに甘いんだな。もっと厳しいんだと思ってた。まあ、アスナを見ていると甘やかしたい気持ちになるのは分かる。


 ………

 ……

 …


「ご馳走様でした」


「よし!飯も食ったし、そろそろ行くか。俺は若い衆集めて行くから、アスナはカズトと一緒に森の入り口まで先に行っててくれ」


「はーい。カズトさん、行こう」


「ああ、行こう」


「ねえ、カズトさん」


 目的地に向かって歩いていると、アスナが不意に話しかけてきた。


「ん?」


「ありがとね。カズトさんが守ってくれるから、こうやって魔獣狩りに参加出来たよ」


「そういえば、何で今まで参加しなかったんだ?」


「えっとね、人間と戦う方が楽しかったから、魔獣にはあんまり興味なかったんだ」


「じゃあ、何で今回は参加したんだ?」


「それはね、カズトさんが参加するからだよ」


「え?」


 俺が参加するから?どういう事だ?


「弟子として、師匠の戦いを見て色々と学びたいからね」


「なるほど、そういう事か」


「だからね、師匠。弟子にカッコいいところ見せてね」


 カッコいいところを見せたいのは山々なんだが……。


「出番があればね」


「出番って……あ、そうか。父さん達が仕留める可能性があるのか。そこまで考えてなかった」


 そう、魔獣狩りに関してはアーロン達の方が一日の長がある。だから、余程の事がない限り、俺の出番はないだろう。


「アーロン達の方が手慣れてるから、俺の出番は無いと思うよ」


「残念だなー。カズトさんの戦いを見られると思ったにー」


「俺の戦いなんて見てもつまらないと思うけど」


「そんな事ないよ。強い人の戦いから学べる事は多いって、お父さんいつも言ってるから」


 見取り稽古という事か。確かに俺も爺の試合を見て色々と学んだな。まあ、何も学んで無いとボロ雑巾のようになるまでボコボコにされるから、死ぬ気で試合を見てたな


「なるほど、それは確かに一理あるな」


「でしょ?だから、お父さん達より先にカズトさんが倒しちゃうのもありだと思うよ?」


「ふむ……それもありかもしれないな。とりあえずアーロンに相談してみるか」


「援護射撃なら任せて!」


 アスナは勢いよくサムズアップをした。


 あー、本当に可愛いなこの娘。こんな娘と付き合えたら毎日が楽しいだろうな。


「ははは、頼りにしてるよ」


「うん!大船に乗ったつもりでいて良いよ!」


 ドンと勢いよく胸を叩くアスナと共に、俺は約束の場所へと向かって歩を進めた。

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