突然の弟子入り


 チュン、チュン、チュン。


「ん……うん……」


 窓から差し込む光と鳥達の囀りで目が覚めた。


「ふあああああ……よく寝た……」


 脳を覚醒させるために、両頬を軽く叩き、身体を伸ばした。


「んー!よし、今日も朝の日課を始めるか」


 一階に下りようと階段へ向かう途中、寝ぼけまなこのアスナに遭遇した。


 欠伸をしながら眼を擦る姿が凄く可愛い。朝から眼福だ。


「アスナさん、おはようございます」


「ふえ⁉︎カ、カズトさん⁉︎あ、あの、お、おはようございます……!」


 アスナは顔を真っ赤にして、慌てて一階へと下りて行った。


 あの反応……もしかして、嫌われた?でも、嫌われるような事した覚えないんだけどなあ。


「あら、カズトさん。おはようございます。随分とお早いお目覚めですね」


 一階に下りると、アマーリエが朝食の支度をしていた。


「おはようございます、アマーリエさん。日課があるから早起きが癖なんですよ」


「日課?何をされるんですか?」


「ただの素振りと型稽古ですよ。毎日やらないと、直ぐに鈍ってしまいますから。なので、昨日アスナさんと試合した時に使った木剣を借りたいんですが、いいですか?」


「ふふふ、熱心ですね。あれなら、裏の物置きにあるので好きに使って下さい。朝食が出来たら呼びに行きますね」


「はい、よろしくお願いします」


 ………

 ……

 …


「九百九十八!九百九十九!千!」


 ふう……素振りは終わりっと。本当はもっと追い込むべきなんだけど、今日はアーロンと魔獣狩りの約束があるからな、軽く流すだけにしておこう。よし、次は型稽古だ。サボるとすぐ鈍るから気合いを入れないと。


 ………

 ……

 …


「はぁ……はぁ……」


 型稽古もこれで終わりだ。もの足りないが仕方ない。魔獣狩りで体力が余ってたら、追加でやればいいか。


「あ、あの、カズトさん」


 息を整えていると、背後から声がした。


 振り向くと、髪をサイドポニーにまとめ、昨夜と同じく薄化粧をしたアスナが立っていた。


「ああ、アスナさん。どうかしましたか?」


「あの、朝食の準備が出来たので呼びに来ました!」


「わざわざありがとうございます」


「あの、私相手に敬語は必要ないですよ。カズトさんの方が年上なんですから。アスナでいいです」


「分かった。なら普通に話すよ。アスナも俺に敬語はいらないからね」


「年上相手にそれは……」


「いいからいいから。俺だってアーロン相手に気楽に話してるんだから、アスナも遠慮しないで」


「本当にいいんですか?」


「もちろん。じゃあ今からお互い遠慮なく話そう」


「了解であります!」


 そう言ってアスナは敬礼をした。


 ノリのいい娘だなあ。嫌われたのかなと思ってたんだけど、どうやら勘違いだったみたいだ。


「あ、これ、タオル。お母さんが汗をかいてるだろうから、持って行ってあげってって」


「ありがとう。有り難く使わせてもらうよ」


 俺は受け取ったタオルで汗を拭う。


「凄い汗だね。どれだけ凄いトレーニングをしたの?」


「ん?今日は素振り千回と型稽古だから、いつもよりは加減してるよ」


「素振り千回⁉︎凄くハードじゃない⁉︎」


「そうかな?いつもなら木刀が持てなくなるまでやるから、千回なんて余裕だよ」


「千回が余裕って……ねえねえ、カズトさん。お願いがあるんだけど」


「何?」


「もしよかったら、私の事、弟子にしてもらえないかな。私、もっと強くなりたいの!」


 弟子、弟子かあ……昔一人だけそう呼べる奴がいたな。才能あったし、不知火流の技を一通り会得した数少ない人間。あいつ元気かな。最後に会った時は色々あって自暴自棄になってたから心配だ。


 おっと、話しがそれた。今はアスナの弟子入りの話しだったな。弟子にしてもいいんだけど、うちの流派はかなり厳しい稽古があるから、女の子にはキツいんじゃないかな。実際厳しすぎて、大の大人が泣きながら辞めていく流派だからな。よし、ここは体よく断ろう。


「申し訳ないけど、俺は誰かに何かを教えられるほど強くはないんだ。悪いけど諦め___」


「お願い!どれだけ厳しくても頑張るから、お願いします!」


 アスナは真剣な表情で頭を下げてきた。


 うーん……どうしたもんか。これはちょっとやそっとじゃ諦めてくれないよなあ。うーん…-…仕方ない、条件付きで了承するか。


「……分かった。ただし、本当にキツかったら、大人しく止めること。それが守れるなら、弟子にしてもいいよ」


「うん、約束する!ありがとう、師匠!」


「師匠は止めてくれよ。なんかくすぐったい」


「でも、私は弟子でカズトさんは師匠だよ?他に呼び方はないと思うけど」


「しかしなあ……うーん……じゃあ、稽古中だけ師匠って呼んでもいいよ。それ以外の時は、カズトって呼ぶんだよ?いいね?」


「了解あります!」


 アスナは満面の笑みで返事をした。


 やばい……やっぱりめっちゃ可愛い。元の世界のアイドルだってこんな可愛い娘いなかったぞ。


「あ!そういえば、お母さんが呼んでるんだった」


「そういえば、アスナは俺を迎えに来たんだったんだっけ」


「急がないと怒られちゃう!カズトさん、行くよ!」


「ちょっ、引っ張らなくても自分で歩けるから!」


「いいからいくよ!」


 駆け出したアスナに手を引かれ、俺達は家へと戻って行った。

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