第29話 ライトノベルは今おっさんが読んでいる?!

 最近のライトノベル事情を探ってみたところ、どうやら以前ターゲット層だった中高生が読んでいない。

 それでも小説をまったく読まなくなったのか、といえば「NO」です。


 小説を読むには読むのですけど、基本的に文豪の作品なんですよ。

 なぜなら入試に出るから。

 文豪の作品は入試で格好の題材です。

 だからこそ、長年入試で培ってきた問題が流用できるため、文豪の作品は使い回されています。

 そして中高生は、よりよい学校に入りたいのですから、小説にも効率を求めるようになったのです。


 だから中高生の読書時間は変わらないものの、読む小説それ自体がライトノベルから文豪の作品へシフトしています。


 今でも「小説投稿サイト」は賑わっていますが、中高生は以前より利用頻度が落ちているようです。


 ついに締切日を迎える「カクヨムコン7」に応募しているのも、時間が捻出できてのちのち試験のない年代です。忙しい仕事の合間に執筆して応募している方も多いですが、それよりも家事担当だったり自宅待機となっている方だったりします。


 まあ押しなべて言ってしまえば「おっさんが書いて、おっさんが読んでいる」わけですよ。

 とくに老舗ほどその傾向は強く『小説家になろう』のおっさん率はかなり高いのではないでしょうか。

 硬直した「なろう系」ばかりがランキングを席巻しているのも、書き手も読み手も「おっさん」だから。

 「おっさん」は新しいものを求めていないんです。以前から好きで定番な物語を読みたがっている。書き手もウケるのはそういう定番だとわかっているので、「なろう系」ばかり投稿される。そしてそれが高く評価されてランキングを賑わせているのです。


 では『カクヨム』もおっさん向けの作品で勝負するべきでしょうか。

 もちろん『小説家になろう』から流れてきた人は、おっさん向けの「なろう系」に人気が集まります。

 でもそれって『小説家になろう』で読めばいいだけでは?

 そう思いますよね。

 そのとおりなのです。


 小説投稿サイトには、サイトごとに独特の文化が醸成されていきます。

 とくに「小説賞・新人賞」の受賞作が、文化を築いていくのです。


 『カクヨム』の受賞作も「なろう系」が多数を占めてはいますが、正統派の文芸作品もいくつか受賞しますので、完全に「なろう系」ばかりが得をするわけでもありません。

 このあたりは、運営のKADOKAWAさんがバランスをとっているのだと思います。

 『小説家になろう』の作品はライトノベルだけを扱っている出版社とのタイアップが多いので、どうしても「なろう系」だらけになってしまいます。


 『カクヨム』が他の小説投稿サイトと違うのは、一般文芸のレーベルを複数持っているところです。

 つまり「なろう系」を書かなければ書籍化を目指せない『小説家になろう』より、純粋に筆力の高い人が集まりやすい。

 筆力の高い人が多いので、質の高い作品を読む機会に恵まれている『カクヨム』の読み手が書き手に回れば、そういう一般文芸の作品が集まるようになります。


 確かに「なろう系」の小説はランキングの上位を独占します。

 ですが「なろう系」で書籍化を目指すのであれば『小説家になろう』を選べばよいのです。

 『カクヨム』はあくまでもKADOKAWAが共同運営していますから、「なろう系」を書籍化したら差別化になりません。

 もちろん巨大企業の経営戦略として「二番手戦略」というのはあります。

 一番手は小さな企業・出版社にまかせて、もしそれがヒットしたら巨大企業の資金力を活かして同じような作品を大量に出版する「物量戦略」がとれるわけです。

 そのための弾として『カクヨム』の「なろう系」が存在しています。

 だから、時期が来れば大量に書籍化されていくのです。

 そうなると「なろう系」の書き手は『小説家になろう』で発表するよりも、『カクヨム』で発表したほうが労せずして書籍化を掴み取れる可能性が高いのです。

 これが現在『カクヨム』に「なろう系」が多い理由です。


 「なろう系」の書き手は小説投稿サイトの古参が多い。

 つまり書いているのはたいていおっさんです。

 そしてそんな「なろう系」を好んで読むのもたいていはおっさんです。


 そうです。

 今の小説投稿サイトはおっさんが書いて、おっさんが読んでいる。

 おっさんによる自給自足で成り立っているのです。

 本来のターゲット層は中高生だったのですが、新型コロナウイルス感染症によって時間が空いたおっさん世代が、ただで小説が読める小説投稿サイトへ大挙してやってきたのです。


 中高生は入試対策として文豪の作品を読む時間が増えた。

 おっさん世代は、入試なんてありませんから、面白ければただで読める小説投稿サイトのメリットを享受しています。

 面白いかどうかはランキングでわかります。

 つまり「なろう系」を読みたいおっさん世代が「なろう系」をよく読んでいる。するとランキングに載って、人気のある作品にハズレはないと思っておっさん世代がそれを読む。

 これが、現在『カクヨム』で「なろう系」が幅を利かせている理由です。


 もし本来の中高生が読み手として戻ってくれば、また「脱なろう系」に人気が集まるかもしれません。

 しかし入試に役立たない小説投稿サイトの作品など読んでいる暇はないのです。



 では、どうすれば「なろう系」優位の現状を変えられるのでしょうか。

 もちろん本来想定していた中高生が戻ってきてくれるのが一番です。

 中高生の感性では今の「なろう系」を読みたがるとは思えません。


 次に「一般文芸」の「小説賞・新人賞」を増やすこと。

 実はいちばん確実な方法です。

 もちろんKADOKAWAといえば「マルチメディア戦略」を最初に提唱した出版社ですから、マルチメディアに強いライトノベルはドル箱です。

 ですが一般文芸のレーベルもいくつか所有しています。

 これを活かすのです。


 現在は出版不況です。

 売るための小説賞も芥川龍之介賞や直木三十五賞のような特定の出版社に独占されているようなものだけが得をするようなシステムでは業界の先細りは阻止できません。

 そこで小説投稿サイト発の「一般文芸」レーベルであったり、「小説賞・新人賞」を作るべきなのです。

 現在『カクヨム』では、さまざまな方法で「一般文芸」の「小説賞・新人賞」が開催されています。

 これを賑わすことができれば、「なろう系」は自然と数を減らしていくでしょう。


 これは極言ですが、「なろう系」は「カクヨムコン」だけを門戸としておけばよいのです。

 他の「小説賞・新人賞」はすべて「脱なろう系」にすれば、自然と淘汰されるわけです。

 「カクヨムコン」でのみ「なろう系」を許可するだけでも、二番手戦略の有効な弾は確保できます。

 『カクヨム』は「脱なろう系」を意識した展開を模索したほうが、より健全な業界の発展に寄与するのではないでしょうか。


 今はおっさんが書き、おっさんが読む時代です。


 おっさんが「なろう系」を書いてもテンプレートになるのがオチ。

 もっとおっさんに適した作品を高く評価してもよいのではないでしょうか。



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