第7話 群像劇以外は一人称視点に徹したほうがよい

群像劇以外は一人称視点に徹したほうがよい


 初心者ほど、小説で三人称視点を書いてしまいます。


 シーンが主人公から離れ、そこで起きた出来事をそのまま書けるので、初心者にはこれほど書きやすい視点はありません。


 ですが、視点が切り替わるたびに主人公が代わってしまったら、誰が本当の主人公かわからなくなりますよね。


 たとえば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は、誰が主人公なのでしょうか。

 三人称視点で描かれる群像劇ですが、その場の主人公が本当の主人公ではないのです。


 三人称視点は結果的に「主人公不在」な物語となってしまいます。


 だから多くの人物が登場して物語を織り成していく群像劇に向いた視点なのです。


 群像劇って、登場人物の誰が好きとか嫌いとか。

 読み手が自分で推しを決められますよね。

 だから群像劇では可能なかぎり人物を増やして、ひとりでも推しが見つかるようにすると支持率が高まります。


 これができれば、一人称視点よりも読み手を集められるのです。

 『銀河英雄伝説』が証明してくれました。


 ですが『銀河英雄伝説』は本伝10巻で名前のある登場人物も百人をはるかに超えます。


 連載小説としても、十巻で数百人も登場人物がいると誰を推したらよいのかわからなくなるのです。



 そこで「小説賞・新人賞」を狙いたいのなら、一人称視点を採用して主人公をひとりに決めましょう。


 ただ冒頭で述べましたが、初心者は三人称視点ならスラスラと書けますが、一人称視点で主人公から視点が外れないように書くのは至難の業です。


 ではどうするか。

 これは初心者限定となりますが、「三人称一元視点」で書きましよう。


 「三人称一元視点」とは、誰の心の中も入れない「三人称」に、主人公の心の中だけは読めるようにした視点です。

 三人称視点のように、いつ、どこで、誰がいる場面も書けますが、心の中を書けるのは主人公ただひとり。


 ここまで徹底できれば、初心者でも「小説賞・新人賞」で佳作を獲るのも夢ではありません。


 ですが、もし大賞を狙いたいのなら、是が非でも「一人称視点」をマスターしてください。


 (1) 主人公の心の中だけは書ける。

 (2) 主人公がいないシーンは書けない。

 (3) 主人公の五感で得た情報しか書けない。


 この制約の中でも、読んで楽しい、奥が深い、そういう物語は最低でも二次選考までは突破できます。

 「小説賞・新人賞」で一次選考敗退となってしまうのは、上記三点から逸脱している箇所があるから、という場合がとても多いのです。



 だからといって初心者が、次のカクヨムコンを目指して「一人称視点」の長編小説を書こうとするのはやめましょう。


 物事には順序があります。


 まず「一人称視点」をマスターするために「短編小説」を多く書くのです。

 そして評価の高い「短編小説」は、基本的に「一人称視点」がうまく書けています。

 「短編集」を書いて高評価を得られるようになって初めて「一人称視点」の「長編小説」に挑んだほうが、なにもわからないでぶっつけ本番よりもはるかに効率がよいのです。


 どうすれば上記三点を満たして面白い物語にできるのか。

 それには構成をしっかり考えておかなければなりません。



 今回『秋暁の霧、地を治む』の元となった小説は、群像劇の中編小説つまり三人称視点の戦記ものとして書いていました。

 これを主人公の一人称視点にまとめあげるまでに、相当な時間を要しました。


 主人公のいないシーンは書けない、からです。


 群像劇は主人公のいないシーンでもバンバン書いてしまえます。

 しかし「一人称視点」では、主人公がいなければ書けないのです。

 そこで、帝国側のシーンいっさいをカットしました。


 元々シーンは交互になるよう構成していたので、半分ほどのシーンが使えなくなったのです。七万字の半分がダメで、それでも十万字の長編小説を目指さなければならない。

 だから整合性をとるだけで精いっぱいでした。


 皆様にはこのようなまわり道を経験しないよう、小説は基本的に「一人称視点」で書くようにしてください。

 そうしておけば、どうしても主人公のいないシーンをひとつ入れたくなっても、なんとかなる場合が多いのです。

 例外が前提になるのは避けるべきですが、変に凝り固まってしまって「主人公から離れられない」という呪縛に囚われるのはやめたほうがよいでしょう。


 どうしても物語の構成や演出上、主人公のいないシーンの情報を書き込むのも「省略の美学」のひとつです。


 もちろん可能であれば徹頭徹尾、主人公の一人称視点を貫きましょう。

 そう思って書いてきて、どうしても主人公がいないシーンを入れないと話が展開できないときにかぎり、例外とするのです。


 もちろん例外の存在は、「小説賞・新人賞」ではマイナスに働きます。

 たった十万字を、ひとりの視点から書けないような人に、多くの読み手が楽しめる作品など書けない。

 そう考えられるおそれもあります。


 だから、もし「小説賞・新人賞」の大賞を獲って紙の書籍デビューしたいのなら、例外を使わずに一貫して主人公の視点だけで小説を書くべきです。


 それこそが、作品のレベルを数段高めてくれますよ。



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