第5話 ルビはどこまで振ればよいのか

ルビはどこまで振ればよいのか


 これ、ただいま絶賛連載中の『秋暁の霧、地を治む〜人を殺さなければ戦争は終わらないのだろうか』で実感しています。


 とにかく「ルビを振る」基準をどうするか。

 これを決めるのがたいへんです。


 今回はいちおう中学3年生レベルにしてあります。


 あとは読み違いしやすい漢字や言葉にはルビを振る。


 たとえば「誘う」と書いて「さそう」と読ませたいのか「いざなう」と読ませたいのか。

 これは確実にルビを振ったほうがよいですね。

 せめて読みを後から習う「いざなう」にはルビを振りましょう。


 今回は「陣」と「滅」にもルビを振っています。

 「陣」もおそらく中3までには習うとは思うのですが、いまいち自信がない。

 また「滅」は「殲滅」「壊滅」「幻滅」「掃滅」など、読みづらい漢字とセットになっているので、振ったほうがよい、という判断です。


 本来なら開いたほうがよいのですが、あえて「漢字」にしたい場合もあります。


 たとえば「躊躇」と「躊躇い」の場合。

 「躊躇」は「躊躇チュウチョ」とルビを振るべきですが、「躊躇い」は「ためらい」と開いたほうが確実に読みやすい。

 でもいちおうは戦争小説なので、「躊躇チュウチョ」と書いてしまったら、「ためらい」も「躊躇ためらい」と書いたほうがかな漢字表記の基準が揃うんですよね。


 私はルビを振るときのクセで「音読みはカタカナ、訓読みはひらがな」にしています。

 たとえば「思惑」という単語は「おもワク」と交ぜ書きにしています。

 これは「湯桶読み」の例です。「」は訓読み、「トウ」は音読みです。だから「トウ読み」のように振ります。

 逆なのが「重箱読み」と呼ばれています。

 これも「ジュウ」が音読み、「はこ」が訓読みなので「ジュウばこ読み」のように振っています。


 ですが、この振り方はオススメしません。

 自分でやっておいてなんですが、とても煩雑ハンザツになるからです。

 まずその読み方が音読みなのか訓読みなのか。

 これを思い出すだけでも時間がかかります。

 また使い分けたとしても、読み手はかえって読みづらくなる可能性も高まるのです。

 私はあくまでも「より読みやすく」「漢字を憶えてもらう」意味で、あえて交ぜ書きにしているのです。



 ちょっと違うのですが、漢字表記とかな表記であえてニュアンスを変えて伝える場合もあります。

 「確か」と「たしか」はあえて使い分けています。

 「確か」は「確かに彼はそこにいた。」のように「確実に」というニュアンスを伝えられるので漢字表記に。

 「たしか」は「たしか彼はそこにいたと思いますよ。」のように「私の記憶している限りではおそらく」というニュアンスを伝えるためにかな表記に。


 では逆に表記したからダメなのか。

 そう思いますよね。

 上記の使い分けがベストだと考えています。


 なぜなら「確」という漢字には「確実」「確定」「確約」「確固たる」のように「しっかりとした」イメージを読み手は持つはずです。

 「しっかりとしていない」ものに「確」の字を使うと誤った意味づけになりかねません。



 ルビの話に戻ります。


 ルビは基本的に「高校までで習う漢字には振らない」ものです。

 しかし「高校三年生になって習う漢字」は高校一年生、二年生には読めません。

 また漢字自体は習っていても、読みを知るのが大学に入ってから、という場合もあります。

 あとは当て字には可能なかぎりルビを振るべきです。

 「滅茶苦茶」なら読めますが、「四阿」なんて読めませんよね。

 「阿」の字は他にも「阿る」と書く場合もあります。

 「四阿」にしても「阿る」にしても、漢字自体は中学で習いますが、読みは大学に入ってからのはずです。

 「四阿あずまや」「おもねる」なんて使わなくても小説は書けるので、あえて書きたいならルビを振りましょう。



 実践では「この漢字はルビを振ったほうが読みやすい」と感じた単語に「ルビを振る」とよいでしょう。

 これは書き手のセンスによりますが、なんの基準もないよりははるかにましです。


 私は「陛下」にはルビを振らず、「宰相サイショウ」「閣下カッカ」にはルビを振っています。

 まず「陛下」は天皇陛下が存在する国なので、読めない日本人はまずいません。

 しかし「宰相」は一般的に日本では使いません。使うのはドイツの「鉄血宰相ビスマルク」という人物を習うときくらいです。


 実は「宰相」という単語。多くの方が知らずに使っているのです。

 でも「宰相」とは書きませんので気づかないだけ。

 各国の行政府の長を「首相」と呼びますよね。

 この「首相」が略語だとご存知でしょうか。

 正しく書けば「首席宰相」の略が「首相」なのです。

 同じようなものに「丞相」という役職があります。

 これは古代中国皇帝の施政下で内政を司っていた役職が「丞相」と呼ばれています。

 日本でも昔は「丞相」と使っていた時期がありました。

 ですが「丞相」と「宰相」では読みやすさは後者が上です。

 「丞相ジョウショウ」が読める方は『三国志』の諸葛孔明ファンくらいなものかもしれません。彼が「丞相」の役割を物語っていました。


 また「閣下」は戦争ものに慣れている方は難なく読めるのですが、一般の方だと読みづらい。

 せめて政治に詳しければ「閣僚」という単語で「カク」とは読めます。しかし「閣下」を「カクカ」と読まれてしまう恐れが出てくるのです。

 たとえば「太閤秀吉」の「閤」の字に似ているので、つい「閣下」を「コウカ」と読み違える可能性もあります。

 この場合も「ルビを振る」ほうが読み手にやさしい、という判断をしました。



 結局、どの単語まで「ルビを振る」かは「書き手が想定する読みやすさ」を基準にするしかありません。

 小説投稿サイトを利用しているのは主に中高生なので、せめて高校卒業までに習う漢字にはルビを振らない、と基準にしてもよいでしょう。

 ですが、中高生は「中学1年生」も含まれているため、「高校3年生」で習う漢字や読みに「ルビを振らない」と読めずにブラウザバックされる可能性もあります。


 ですので「書き手が想定する読みやすさ」を基準にするのです。


 「すらすらと読める」と書き手が思っても、実際に読むのは読み手です。

 想定する「読み手」にアプローチするのが、正しい語彙とルビの用い方だと言えますね。



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