第2話

 世界は聖女王によって統べられている。

 彼女を支えるのは4人の礎たち、それぞれ、地、火、水、風の力を持ち、それを使う。

 聖女王は世襲制ではなく、力に衰えが見えるころ世界のどこかに聖女の力をもった少女が現れる。

 彼女たちは集められ、試験を受け、聖女王に選ばれる。


 その試験が間近に迫っていた。

 今回の試験は異例であった。

 現聖女王であるミラに力の減少はない。

 しかし、前回行われた聖女王試験の後に生まれた欠片から新しい世界が見つかった。


 まだ、空虚である新世界を導く者を早急に決める必要があった。

 そうでなければ、こちらの世界にも影響を及ぼしかねない。


 結果、新しく聖女王を決めるための試験が行われることになり、その舞台の聖域では慌ただしく準備が進んでいた。

 最終聖女王候補に残ったのは二人。

 ポレットとエメリーヌという少女だった。


 彼女たちを迎える儀式を行うため、広間には礎たちや聖殿に勤める者たち、研究機関の幹部が集まっていた。

 聖女王も上座に姿を見せ、いよいよ聖女王候補の入場の刻限となったが、一人姿を見せないことに地の礎、アレクシは苛立ちを見せる。


「レインニールは参加すると言ったのだな?」

「間違いありません。彼女は来ます」

 やや食い気味に答えるのは水の礎のフロランである。

 二人は頭一つ分近い身長差があるが、フロランは負けじと年嵩でもあるアレクシを見据える。

「レインニールは言ったことはちゃんと守ります!」


「確かに。その代わり、都合が悪い時はだんまりを決め込むがな」

 意地の悪い顔で火の礎であるジェラールが呟く。

「てか、今までほぼだんまりじゃん」

 茶化すように風の礎コルネイルが言う。

 フロランはキッと睨みつけると、コルネイルは首を竦める。

「それは、いろいろ言うからでしょ!みんな、レインニールを心配しているならなんで優しい言葉を選ばないの?」

 その台詞に、ほとんどの者があらぬ方向を見る。


「あらあら、結局、みんなレインニールを待ってるのね」

 聖女王ミラが上機嫌に笑顔で広間を見渡す。

「大丈夫よ、もう来るわ。扉の準備をお願い」


 儀式を取り仕切る神官たちがその場につく。

 広間も静かになり、皆がその扉が開かれるのを待つ。

 扉の向こうでは聖女王候補たちが入場に控えている。


 その時、天井から微かな光が落ちた。何処からか鱗粉のような粒とともにふわりと風が吹く。

 フロランは満面の笑みで空いていた隣を見る。

 いつの間にか、研究機関の制服を着たレインニールが立っていた。

 支部の責任者であるエンブレムが施された正装である。

 視線を感じて、わずかに上座に体を向けて頭を下げる。


 聖女王は頷き返し、アレクシは片頬を引き攣らせる。

 ジェラールは片目を閉じ、コルネイルは唇を尖らせる。

 それぞれの表情を確認して、レインニールは肩にかかる髪を背中へ払う。

 改めて踵を揃え、背筋を伸ばした。


「聖女王候補の入場です!」

 高らかな宣言とともに楽器が鳴る。

 静々と神官が扉を開く。

 差し込む光を背負い、少女たちがゆっくりと歩いて入ってくる。

 いよいよ、新しい聖女王を決める試験が始まったのである。

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