愛情に輪郭を。
七屋 糸
第1話 溶けた小指
一昨日買ったばかりのリングをつけた右手が、小指の方から溶け出していた。
いけない、と思って左手でスマホを操作する。LINEを飛ばそうと思ったが、面倒くさくなって電話にする。この時間はバイトがあると言っていたから出ないだろうけど、念のため5コール待ってみる。しかし呼び出し音は止まなかった。
仕方なくLINEを開き、文字を打つ。「早く帰ってきて」と一言だけ入れておいた。
今日はハルトが帰ってくる前にレポートを仕上げてしまおうと思っていたのに。予定が狂った苛立ちでバサバサと机を片付けると、端に置いた生温くなったお茶が音を立てて倒れた。慌てて起こすが、わずかに中身が零れ落ちる。ティッシュで拭い取ろうとして、気づく。
指先を濡らしたのは薄緑色の液体ではなく、ピンク色のマニキュアが混ざった、わたしの小指だった。
右手の端は先っぽからアイスクリームのようにダラダラと水滴を垂らし、原型をなくしている。すでに第一関節まで溶け出していた。外じゃなくてよかった。
大学だったら友達にばったり出くわして、インスタに載せてたリング見せてよーなんて声をかけられてしまう。そうしたら溶けた小指が纏わりついた湿っぽい指先を見せなくちゃいけない。そんなことしたら友達なくすよなって思って、ティッシュで半分になった小指を拭った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます