第35話 聖女たる所以 4

「お主らの目的は初めから一つだったというわけじゃ。

 その二人が偶然出会ったのか、はたまた出会いは必然だったのか、それは神のみぞ知るといったところかのう。

 我は神など崇めはしないがの」


「それじゃ、リンファちゃん。あなたはそれを私たちに伝えるためにここに召喚されたってことなのかしら」


「そうかもしれんの。だが、それだけじゃないのかもしれぬ。我も願っているのじゃ。をな」


「何らかの力、意思によって、リンファとホノカ、それから俺たちが出会うことになった。裏で糸を引いている者がいる。どうしてそいつは姿を現してはくれないんだろうか」


 私たちは各々思考を巡らせた。それは、砂浜で小さな宝石を探すような、困難で当てもないない作業に思えたのだった。


「考えても無駄だという事じゃ。我も、お主たちも誰かの手の上で踊らされているのかもしれんの。じゃが。力になろうぞ。我は守護神じゃ。聖女の目的は我のもの同然じゃからな!」



 こうしてドラゴン娘がパーティーに加わった。

 リンファちゃんはすぐに私たちと打ち解けた。

 やはりこの出会いは必然ととらえるべきだろう。

 リールに助けられ、サガンを助け、タオと出会った。これも必然という名の運命なのかもしれない。


 私たちはこれからの事を話し合った。


 ここシベリアリスの町は『シベル共和国』領土であったが、王都への道のりはまだしばらくあった。

 まずはこの町で装備や食料品を補給するのが当面の目標だった。

 しかし、私たちにはお金がなかった。


「ギルドに登録しよう」


 それは当初からの予定だったが、いざとなるとあまり気乗りしないのだった。

 それは私たちに労働意欲が無いわけでも、戦闘能力に不安があるわけでもない。

 ギルドと聞くとどうしても頭をよぎるのだ。あのアルガリアでの事件が。


 しっぽ亭主人のトマさんが何者かに首をかみ切られて殺害された。

 それを発端に因縁をつけてきた猫耳族の戦士を殺害してしまった事。

 意図せずともリールの身体には強力なブーストが掛けられていた。


 私たちは苦しんでいた。


 自責の念に圧し潰されそうになる。


 そしてそれを一番感じているのはリールだった。


 なにはともあれ働かなくては生きてはいけない。

 私たち五人はギルドロビーへ向かった。



 シベリアリスのギルドには画期的なシステムがある。


『魔力クラスプレート』

 そう呼ばれるそれは、対象の冒険者ランクを能力値で判断してくれるものだった。

 構造は分からなかったけれど、プレートは魔族が長年魔力を込めて作った水晶を応用して作っているらしい。

 平たいその石にまずはサガンが両手を置いた。


「準備はいいですか?」


 ギルドロビーの女の子はそうサガンに聞くと、詠唱を始める。

 プレートが光り、そこに適性な冒険者ランクが表示される構造となっている。


 サガンはBランク。


 単純な強さでのランクがこれにあたる。


 想像以上の結果に私たちを始めロビーの女の子もどよめく。

 近くで見学していた他の冒険者たちも驚いて注目した。



 この旅の中で、私たちは知らないうちに強くなっていたんだ!


 リールも同じくBランク。

 タオはCランク。

 リンファちゃんはというと・・・・・・なんとAランク!

 これにはギルド中が驚いた。


「あの娘何者なんだ!?」

「嘘だろ! 何かの間違いだ!」

「いいや! あれがミスの表示をしただなんて聞いたことないぞ?」

「負けた。あんなに可愛らしい女の子に・・・・・・」


 このあと、自信を無くし冒険者を辞めたものも増えたらしい・・・・・・。

 まったく罪な少女である。


「はははーん!! どんなもんじゃ!! 我の強さがバレてしまったようじゃのう!」

 高笑いしたリンファちゃんにギルド中が湧いた。


 後で知ったのだけれど、あの清廉で可憐な見た目から、たくさんのファンがつくことになったようである。


「まあ、中身はドラゴンなんだけどね・・・・・・」


 なんとなく最後になった私がプレートに手を置いた。


 そのままロビーの女の子は詠唱する。

 その瞬間、女の子の表情が完全に失われた。そのあと次第に強張っていく表情は恐怖のそれになっていく。


 プレートに示されたのは「Sランク」


 もう一度言おう。「Sランク」だったのだ。

 辺りは一瞬にして静まりかえったあと。

 奇声と歓声が飛び交った。


 そう、冒険者の離脱が増えたのはリンファちゃんの影響ではなく、「S級冒険者・ホノカ」の仕業だったのである。

「待って!! ちょっと待って!! そんなのあり得ないってば!!」

 私は何に対してか抗議を始めた。


 だって守ってもらってばかりの私がSランク?冗談じゃないわ!!

 Sランクと言えば、国賓として招かれたり、専属のお抱え魔術師としても働けるのだ。

 目立ちたくも無いし、そんなランク消してください! 


「残念ながらそれは出来かねます・・・・・・」


 そう。一度刻まれたランクは消せないのだ。

 と言っても消す方法が無いわけではない。

 その方法とはギルド登録の抹消である。

 しかしながら一度抹消したものは登録しなおすことはできない。

 よって、ここシベル共和国内のギルド登録ではSランクで登録されたのだった。


 そしていつしか私は、Sランク冒険者『聖女ホノカ』と通称されることとなった。


 誰が言い出したのか、言い得て妙というか勘が鋭い奴がいたものだ。

 そう思っていたら、言いふらしていたのはリンファちゃんだったのだと判明した。


「さすが我らが聖女さまじゃ!! ははは!」





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