第33話 聖女たる所以 2

「今、一瞬光ったような・・・・二日酔いかしら・・・」


この娘、聖女である。


「でもおかしいわ。 こんなあざ(?)今まで無かったもの。いつの間に?

もしかして、昨晩、私が酔いつぶれているのを良いことに・・・・・・」


サガン達は有らぬ疑いをかけられていた。


「んん・・・・・・無抵抗の女子に! 許せないわ!」


ホノカは蛇口を絞った。キュッという小気味良い音が響いた。

掛けてあったタオルで髪の毛を拭いてお団子に束ねた。

バスローブのまま飛び出し、ズンズンと足音を立て隣の男子たちの部屋のドアを叩く。


ドンドンドン!


「ちょっと! 開けなさいよ!」


ガチャ。


安っぽい木の扉がやる気なく開く。

リールが半開きの目で迎えた。


「なんやねん朝っぱらから・・・・・・ておい! そんな恰好でうろうろすな!」

「あなた達! ちょっと入るわよ!」


大股で入った男子の部屋にはベッドが二つ。サガンとタオも目をこすっている。


「なんだよねーちゃ~ん。 まだ寝かせろよ~」

「どうしたホノカ。 そんなに騒いで、魔物か?」

「ここは町中よ! 魔物なんていないわよ! それよりこれはどういう事よ!!」


ホノカはバスローブのの前を開いて胸の谷間を露わにさせた。


!!!


突然のホノカの行動に目を丸くさせる三人。


「うっひょ~・・・・・・て、なんやつるペタやないかい」

「誰がつるペタじゃ~!!」

ホノカの右フックがリールの顔面に炸裂した。

白目を剥いた情けない顔が床に落ちる。


「ホノカ隠せ!」

サガンはホノカを毛布で覆った。そして真っ赤になった自身の顔も覆っている。


「おっぱい! おっぱい!」

タオは小躍りを始める。


「違うの! ちゃんと見て!」

ホノカは胸の痣のようなものを強調して見せた。両胸の先端はバスローブで隠れて見えない。


「こ、これは、魔法陣か?」

「え? あなたたちの仕業じゃないの?」

「なんで、わいらがそないな危険地帯に魔法陣描くねん」

「その魔法陣、もう少し詳しく見せてくれ!」


サガンはその魔法陣に顔を近づけて暫く観察している。

悪意のない表情だったが、次第にホノカはむず痒い感覚に襲われてきた。


「この魔法陣、どこかで・・・・・・」

あーでもない。こーでもない。


真剣なサガン。

むずむずと恥ずかしさが増してくる。


ちょっと、私、女の子なんですけど・・・・・・?


「このルーン文字・・・・・・それに複雑な構成・・・・・・」

あーだ、こーだ。

「ちょっと、触ってもいいか?」


真っ赤になったホノカは大きく右手を振りかぶった。

「いいわけないでしょ!!」


バチンっ!!


出血。鉄血。


回復術師のビンタは痛い。


鈍感系男子が一番危ないんやで!

リールが歓喜の声を上げている。


バスローブの裾がなびいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「タオ、分かるか?」

「よく分かんねーけど、複雑な魔法陣は強大な魔力を必要とするってじいちゃんが言ってたよ」

「強大な魔力・・・・・・ホノカが転生者なら、何らかの特殊な能力が有ってもおかしくはないはずだ」

「これがその特殊能力のトリガーみたいなもんっちゅうことか?」

「推測だがな。ホノカ、召喚術は使えるか?」


「やったことないわ。イメージのようなものが分かれば試してみたいけど・・・・・・」

「召喚術は高等魔法やからな~。使えるやつはそうおらへんで」


「あ」

その時やっとサガン、リール、ホノカは気が付いた。パーティに召喚術師が居ることを。




「タオ、魔力が切れそうになったらすぐにやめるんだぞ」

「わかってるって」


タオは、左掌をホノカの魔法陣に構え詠唱を始めた。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、

この理に従うなら応えよ!」


しーん。


「・・・・・・」


「なにも起きないわね」

「だな。魔法陣じゃないのか」

「うーん。ただのあざなのかもし」

そう言いかけた時、辺りが急に音を失った。


な、なんだ!?


まるで水を打ったように不自然に静まり返る。

そしてホノカの胸元は鈍く光り始めた。


「な、なにこれ!?」

光はだんだんと強くなり、部屋いっぱいに広がった。

眩しすぎるそれに目を覆った矢先、だんだんと光は弱くなっていく。

四人はゆっくりと瞼を開けた。


サガンはすぐにホノカの元へ駆け寄った。

「なんともないか?」

「ええ。びっくりしたけど何ともないみたい・・・・・・」

「驚いたな。タオも平気か?」


返事をしないタオ。


「・・・・・・なあなあ、みんな」

緊張したタオの声が聞こえた。


「あれ、見てくれよ」

タオの指さす先にあったもの、それはこの部屋に元からあったではない。

元からあったのならば、確実にそれは全員の興味を引くものであったからだ。

そうだ、それはさっきまでは存在しなかっただ。


では、いつから存在しているか?


答えは察しの通り。

タオの詠唱後。

ホノカの胸元から光が溢れた時からだ。


一つ訂正しよう。


それはではない。

紛れもなくそれはだった。


体長は、サガンを三人並べたほどに大きい。

青色の固そうな毛並みが光の具合によっては赤くも見える。

それは呼吸に合わせて静かに、そしてゆっくりと波打っていた。

とがった肩甲骨は後ろにせり出し、丸い胴体に器用に納まって見えた。

左後ろに向かって折りたたまれた首の先には、長い嘴とそれよりも長い二本の角を携えた頭部があった。


とても珍しい。だが誰もがこの生物の名を知っている。


その種族名は『ドラゴン』という。

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