第8話 しっぽ亭

「そやそや、サガンの狩った触覚が4個、うちらのが6個、足して21リルや!


 パーっといくでー!サガンの歓迎会や~!」


「ねえ、まだ痛む?」


「いいや。もう大丈夫だ。」



 本当は痛んだが、なぜだかサガンは嘘をついた。



 町の中には至る所に酒場がある。


 竜族は酒を飲まないが、俺は冒険者だ。流儀には従おう。



「酒場には色んな情報があるのよ。探し物は酒場にあるって言うらしいわ。」


「探し物か、ホノカの記憶はないのか?」


「町中の酒場に通ったわ、だけどダメだった。私はどこから来たのかな......。」




 サガンは想像してみた。


 知らない土地、知らない人々、常識も非常識も、すべての記憶を奪われる恐怖。


 ホノカは何も見えない深い霧の中を、裸足で歩き出したのだ。


 俺たちが、俺が、失った記憶の代わりになれるだろうか。




 酒場には多くの冒険者たちが酒を飲み交わしていた。




 酒場にもルールがあるらしい。


 ギルドランクに応じた席が決められていた。


 俺たち最下級のFランクの席は入り口の近く。


 自分たちより上位の席には不必要に近づいてはいけない。


 逆もまたしかり。


 秩序を守るための暗黙のルールだ。



 この店、『しっぽ亭』にはこのほかにも、


 1.料理や酒を残さない


 シンプルだが絶妙な味付け。サガン達ははすぐに虜になった。




 2.料理や酒の文句を言わない


「この麦酒、薄いんじゃねーかー!?」


 苦情を言った酔っぱらいは、巨体の店主トマから投げ飛ばされた。




 3.猫耳娘たちに手を出さない


「かわええなぁ~。お店終わったら一緒に飲み行かへん~?」


 リールは店主のトマから一発お見舞いされた挙句、閉店後の清掃をやらされた。


「堪忍してやぁ~」





 俺たちは、入り口近くの丸いテーブルを囲み、これまでの事、そしてこれからの事を話し合った。


 リールの失態を笑いあい、俺の話を黙って聞いてくれた。



 まずは強くなること。


 この町を拠点に強くなろう。


 目標はBランクになること。


 Bランク以上の冒険者には、それ以下のランクでは公開されない依頼や情報が転がり込む。


 世間的な地位も高くなり、生活するうえで困ることはなくなるだろう。


 有名になればホノカを知る者も現れるかもしれない。





 俺は強くなるため、ホノカは自分を探すため、リールは......



「あんたらといると、おもろいからな~」


 目標を見つけるまでは一緒に居ると言ってくれた。









 それから俺たちは、毎日のように討伐依頼をこなしていった。



 Fランクでは一番の業績を積み、期待の新人だとか噂されるようになっていた。


 しかし所詮はFランク、受注できる依頼は大量発生した雑魚の駆除や、町の警備、それから土木作業の現場など、取るに足らないものばかりだった。



「このままで、私たち強くなれるのかしら......。」



「手っ取り早く、ランクアップしたいな~。」



 確かにその通りだ。



 Eランクからは依頼された魔物の危険度がかなり上がる。


 それは早期のレベルアップを意味するわけだが、今の段階では経験値が低すぎるのだ。


 虫を100匹狩ったところで何になる。





 そんな小物の討伐依頼に飽きてきたころ、ある事件が起きるのだった。

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