第32話 第五の事件! 最悪の兄妹

◾隆臣



 電車を抜け出した俺たちはエースの第九感による残滓粒子でエミリーとクイーンを追跡し横浜駅前の工事現場に到着した。

 夜なので作業員はいないが様々な重機や山積みの鉄骨が放置されている。中央には結構な高さまで組見上げられた鉄骨骨組みが2つ建っていて3段目まではそれに沿うように足場が掛けられている。

 鉄骨骨組みの上にはエミール、ジャック、エミリー、クイーンがいた。


 

「さっきは死にかけたが……たどり着いたぞッ! エミールッ!」


 俺を見てエミールはニヤリと笑った。

 エミールとエミリーはBの鉄骨骨組みの中段くらいに立っており、その横には中学校の制服を着た緋鞠がいた。体の後ろで手を縛られている。



「まさか生きてここまでたどり着けるとは思わなかったね」


「しかも乗客も全員無事みたいだし」



 先ほどの暴走電車事件の実行犯であるエミリーとクイーンはそう言って素直に感心している。全然うれしくないな。



「たー君!」



 緋鞠が恐怖と喜びの混じった声で叫んだ。



「待ってろ緋鞠! すぐに助けてやるッ!」



 俺は拳を強く握って叫び返し、



「1つ聞かせろ。どうして緋鞠を人質にした」



 そう尋ねた。エミールは懐から虹色の宝石オリハルコンを取り出し、



「妹を人質にすればお前なら来てくれると思ったからだ。しかしこれは予想外だった。まさかお前の妹がボスの探している虹色の魔力石オリハルコンを持っているとはなァ」


 と。

 逆の手で前髪いじくりやがって……気持ち悪ィんだよクソがッ!



「とにかく……緋鞠を返してもらうぞ!」



 俺はエミールを睨みつけた。



「いいだろう。返してやる」



 エミールは虹の魔力石オリハルコンを懐にしまい緋鞠の髪の毛を掴んで俺のところに放り投げてきた。

 エースは瞬時にガイスト能力で俺の肉体を強化してくれる。慌てて緋鞠を受け止めようと手を伸ばす。



「だがなァ! 戦いはもう始まっているんだ!」


「ッ!」



 緋鞠をキャッチする寸前にエミリーとクイーンは俺の両サイドに高速移動してきた。回し蹴り蹴りの構えだ。

 エースは分身を作り出す。

 分身は俺の代わりに緋鞠キャッチ。俺はエミリーとクイーンの攻撃を回避して距離を取った。



「汚ねェぞテメー! お前は正真正銘史上最悪下劣至極のクソ野郎だッ!」


「ふっ、なんとでも言え」



 エミールは鼻で笑い親指と中指をくっつけて顔の高さまで上げた。

 パチンという音と同時に俺たちに衝撃波が飛んでくる。



 ――キーンッ!



 甲高い音とともに衝撃波が消える。目の前には十字架を握ったナディアが立っていた。



「チッ! ナディアか! 邪魔しやがって!」


「あら、悪いかしら?」


「このメクラがッ! だがお前も来てくれてこっちとしては好都合だ。お前の持ってる|虹色の魔力石にオリハルコン)も奪ってやるッ! なんであろうと始末すればいい話!」



 そう言ってエミールは地面に降り立った。

 ジャックはエミールが着地したその衝撃を増強し地面に衝撃波を走らせる。



「避けろッ!!」



 クリスの声で全員が左右に飛んで衝撃波を間一髪で回避。危ないところだった。



「緋鞠! お前はそいつと遠くへ逃げろッ!」



 緋鞠に叫ぶと分身は緋鞠をお姫様だっこしてすぐに工事現場から離れてくれた。



「俺たちはこいつらとやる。そっちは任せたぞ」


「はいお兄さま」


 エミリー&クイーンは尚子&ハート、クリス&ダイヤと、エミール&ジャックは俺&エース、凛&ジョーカー、ナディアと戦う形になった。



◾尚子


「エミリーとか言ったな? さっきはマジで死ぬかと思ったぜ」


 私はやれやれポーズで言った。

 見た目は人形みたいにかわいいのにやってることは非道だ。まあ私が言えたことじゃないが。



「生前でもあんなめにあったことはなかったよ」


「わたしも……」



 ハートに対してダイヤも同意を示している。



「それならよかったじゃない。いい思い出になったであろう?」



 クイーンは皮肉を言った。



「死ぬまで忘れられない最悪な思い出だがな」



 クリスの声でダイヤはつららを形成しエミリーとクイーンに向けて発射した。

 2人は超薄型パワードスーツの力で飄々とそれらを躱し私たちに接近してくる。

 ダイヤはつららの量を増やして再びつららを放った。

 エミリーとクイーンは大きく跳躍して弾幕を回避。

 ハートはポシェットの中から小型の爆弾を取り出しそれを上空に投擲してタイミングよく爆弾の温度を上昇させ爆発。

 しかし直前にクイーンは爆弾に雷撃を加え爆破範囲手前で爆発させた。

 そして着地の瞬間に高速移動で接近して私とハートの胸に強烈な蹴りを加えてくる。

 私たちは後方に飛ばされる。



「くっ!」


「こほっ! こほっ!」



 私はハートを支えながらなんとか立ち上がった。

 ち……くしょう! 息が……!

 胸に強い衝撃が与えられ、私とハートは呼吸困難になりかける。



「さて、まだまだいくわよ!」



 クイーンはニヤリと笑い辺り一帯の電気を奪い始めた。

 月明かりのみが私たちを照らす。月明かりを頼りにダイヤは巨大なうららを2人に放つ。

 クイーンとエミリーはそれを風のようにかわしAの鉄骨骨組みの方に移動していった。



 To be continued!⇒

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