第23話 竜吉公主の憂鬱

彼女の思考が“狂っている”と言うのは、既に神仙族の間では誰に言われずとも判っている事。

“ある時”には人体実験紛いの事をしたり―――だとか、危険物質同士の調合の失敗で施設の一つを破壊したのだとか。

そんな事を面白おかしく取り沙汰され拡められたとはしても、竜吉公主だけは知っていたのです。

彼女―――太乙真人に纏わる噂は、真実なのである……と。


そんな神仙族いち、その行動や思想に注目や警戒を払わなければならない者の事を殊更にして問われた時、どこか竜吉公主の頭の中で嫌な予感がよぎった―――

しかも自分が惚れ込んだ才の持ち主は、そんな彼女太乙真人の事を聞くのに彼女の人格に性格は、そんなには問題ではないとしていたのです。


ならば―――? ベサリウスが問題としていたのは……


「そのお人がたずさわっていたとされる「ある計画」―――その事をご存知ですかい。」


「『ある計画』…………って、何のことよ………。」


別に、その計画の本来の名称の事を伝えられたわけではない、してや聞いてさえもいないと言うのに、なのに見る見るうちに竜吉公主の表情から余裕が消えて行く―――その反応リアクションこそ、竜吉公主がその計画についてある程度の事を知っている……と言う証しと言えました。


        * * * * * * * * * *

その「ある計画」の正確な名称―――『開発計画書番号 第漆弌零玖型ProJet-no,7109』……。


人工の知能を持ち、一切の生物の生体部分は使用しておらず、その代わりとして神仙の権限を兵器・武器に転用させたものを躯体として構築させている。

生命莫キ神仙いきてすらいないにんぎょう』―――その計画がおさの耳に届く前に、竜吉公主達がその計画自体をなかった事にしたその事実を揉み消した……。


ただ、太乙真人に関しては知らない間柄ではなかったので、処分は計画の凍結と計画書の焚書までに留め置かれたようでしたが……



あの計画の事がなぜ今頃になって―――?!

それに太乙も反省の色を見せたから、処分の見送りをしたと言うのに……なのに太乙は、私達との約束を破ったと言うの?!



その当時の『聖霊』執行部の家宅捜査ガサ入れにより、太乙真人の計画の事は明るみになりました。

そしてそこで、今後一切のこの計画に関わる進行に進捗は認めない―――と言う事で、太乙真人自身の処分は免れたモノだったのに??

それがベサリウスからの質問の内容に、例の計画の再燃がまず疑われた臭わされた……。


「―――やれやれ、こいつは少々まずい事に……」


「それよりも……ねえ?ベサリウス…… 何なの?あなたが言っている『太乙が携わっていたある計画』って―――。」


「(……)あまり大きな声じゃ言えないんですがね―――どうやらその計画とやらを、嗅ぎ付けたがいなさるようなんですよ。」


「(バカな!)なぜ……あの御方が? 「あの計画書」の事を…………。」


「まあ、言った処であの御方も技術屋のお一人だ。 そうした繋がりで計画の「そのものがある」―――て事は存じていたんでしょうよ。」


『計画の再燃を疑う』―――処の話しではなくなっていた。

この魔界に君臨する魔族の王が、『聖霊』ですら忌避した計画の再燃を促していたと言うのです。


それにしてもなぜ…………?


「“オレ”がその事を知ったきっかけは、“我が主マイ・マスター”が『ラプラス共に負わされた屈辱を雪ぐそそぐ為、ヤツらの掃討の許可を得ようとした』って時です。

そうするために魔王城を訪れたそうですが………その時に侍従長から、既に魔王様はいない―――って言われたそうですよ。」


「まさかその時から―――?!」


「まあ、主上にしてみりゃ再二・再三に亘ってこの魔界をさんざ蹂躙ふみあらされたんだ、そこに加え特段に目をかけていた“我が主マイ・マスター”を奴隷にまでおとしめられたと言う処もあるんでしょう。

そこで主上は考察を巡らせた……これ以上“オレ”達魔族の被害を最小限に抑え、同時にヤツらを叩く手段をね。

そして「知っていた」だった例の「計画書」の事を思い出した。」


「魔王様は……そこまでお考えになられて―――」


この、ベサリウスの予想は少なからずの処で的中していました。

まさに魔王はその一点で太乙真人と会い、彼女に例の計画の再始動を許可することを伝え、

また太乙真人一人に罪が降りかからない様に自身が開発していた兵器・武器を置き土産としたのです。


ただ―――


「ですがねぇ……公主サン、「そこ」だったら、この“オレ”も頭を痛まさなくても良かったんです。」


「はあ? 「そこだけ」……って、まだあるの!?」


「(……)『開発計画書番号 第伍零弌零Project-no,5010


その計画書番号を聞き、更に先程より顔を青褪めさせる竜吉公主。



なぜ……なぜ魔王様は、あの計画書の事までも??



      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


竜吉公主達は、その「計画」がある程度進捗した頃合を見計らい、太乙真人の研究所に訪れていました。

その計画書の別称こそ―――『異界転移門計画』。


{太乙よ、今更聞くまでもないが、この様なモノを作ってまた何をしでかそうとしておるのじゃ。}


「『何をしでかそう』って、ご挨拶だねえ公主。

それに、「聞くまでもない」って事は、『異界転移門こいつ』の有用性、判ってるんだろう?」


{この魔界ではないまた別の世界には、未知のモノこちらにはないモノが沢山ある。

じゃがな、こちらにとって有用性になるものばかりとは言い切れんのだぞ。}


「あ゛~~~はいはいはい、判ったよ。 中止すりゃいいんだろ、中止すりゃ―――

(全くなあんでこいつは、いつもいいタイミングで邪魔してくるんだろうねえ~。)」


{―――何か言ったか。}


「いいーや、なあーんでも。」(ン・ベw)


あの時のやり取りが不思議と昨日あった事の様に思い出されてくる。

例の計画書を抑えた時点では「別の世界へと行ける」程度の認識でしかありませんでしたが、その後の事前予測シュミレーションによって、様々な不具合―――別の世界でトラブルが起きた時どうなるのか……魔界では発見・発覚にすら至っていない「未知の厄」が舞い込んでしまった際、的確に対処できるのか等々……想定してもキリがないくらいに噴出をしてきた。


だからあの時には中止をさせて正直良かった―――と思っていたのに……


なのに魔王は―――


「あの御方は一体何をお考えになられて……」


「(……)こいつは“オレ”の都合の好い考え方でしかないんですがね。

もしかすると主上は―――……」




つづく



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