第22話 ある問題性の提起

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「『この計画を是が非とも役立てて頂きたい』―――だって?!」


「ああ、二度は言わない。」


「“こいつ”の事を知っているなら凍結させられた経緯ってモンを―――」


「そんな事は、私の知った事ではない。 この私が魔王なのだ、その魔王が是としたことには従わなければならない。」



なんだいそりゃ、そんな暴論ルベリウスさえもしたことはなかったてのに。



「無知は罪」とはよく言ったモノの、知力がある事で暴を振るえる者がいる事を太乙真人は良く心得ていました。

{*それは彼の者自身がそうだから}


しかもそうした知の暴力を振るえる者が、自分の前にこうしてたたずんでいる。

それに魔王に逆らったところで良い事なんて一つもありはしないのだから、言われるがままに封を解いた……。


そして凍結させられる直前までの色々な試行錯誤データを手渡され、目を通して見ると……


「ふむ、中々の性能だ。 だがまだ足らない……は、私の方で開発をした兵器モノだ、役立ててくれたまえ。」


「これは……一体何だい?」


「『重粒子加速砲』―――とでも称しておこうか。

他にも『陽子砲』や『拡散波動砲』も用意してある。 順次配送手続きを行うつもりだ。」


「こんな……化け物級の兵器や武器を“こいつ”に組み込ませて、何を…………」


「その為の返答こたえを私がしなくとも、あなたなら判るはずだろう。

“鏖殺”“殲滅”だよ―――奴らは一匹と残らず活かしておく訳にはいかない、してや活かす理由もない。

奴らの所為でこの魔界の国の一つが滅んでしまったのだ……。

当然その国に住む無辜むこの生命も数多く失われた、そして私の『グリマー』も囚われてしまった。

囚われの果てに、その尊厳までもけがされようとしたのだ!!」


まるで……煮えたぎった地獄のかまに無理やり蓋をしたがために、余剰の感情が抑制しきれていない蓋から吹き零れてかのようだった。

しかも神仙の兵器・武器だけではなく、他別からの兵器・武器を同じ躯体に組み込まされるのも無理だと言えるのに、まだそれ以上の無理難題―――『2つの違う特性を持つモノを併用させる事』……


         * * * * * * * * * *

そして―――今、その無理難題もクリアした……


「“ハラショー素晴らしい”! それでこの那咤なたくをラプラスの一個師団に投下させたとして、どのくらい保つだろうか。」


「う~~~ん、難しい問題だねえ? いかんせん向こうさんのデータは“乏しい”と言っても大袈裟じゃない、もしあるんだったら直近のやつらとの戦闘データを……」


「黒キ魔女の使い魔を通じての、最直近での戦闘データ『ニルヴァーナvs侍』『リリアvs魔騎士』『ホホヅキvs素浪人』『ノエルvs野伏』を修得いたしました。」


「実に優秀じゃないか。 とは言え先遣隊とも言える第一波は防いだ、この子を投入するのは第二波からでも遅くはない。

ならば今からその出現地点の割り出しを急ぐのだ。 そして太乙真人、“もう一つ”の開発も急ぐようお願いするよ。」


直接その現場までは赴かないものの、必要とすべき情報にデータは入手できた。

それも黒キ魔女であるササラが利用している使い魔が発している“念波”なるモノを横取りハッキングするなどして。

{*これが後世に『衛星機構サテライト・システム』と呼ばれるモノになって来る。

当然のことではあるが、自分が入手すべき情報を横取りハッキングされてしまった事を、既にササラは気付いている。}


こうして魔王は、『やるべき事』の2つの内の1つが片付いたことを受け、あとの残る1つについても自身の“肝入り”の部分でもあっただけに、その完成を急がせたのです。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方―――反撃に転じようとしている魔王軍内に於いては。


「一応、データとしては乏しいですが、次に向こうさんが出現する地点が割れましたよ。」


「そう、それでどの地点に―――」


「“一つ”は、ネガ・バウムの首都オレイアの北西部に―――そして“もう一つ”はヴェリサの南西です。」


「ヴェリサ! 『昂魔』の副都心ではないか!」


「でも、2つに割けられる……って事は、奴らもそれなりの軍勢を擁していると。」


「さすがは公主サン―――だが今回に限っちゃ、その手は“悪手”といえるでしようなあ。」


「それってどう言う事?」


「お忘れですかい―――こちらにゃ以前ラプラスの出端でばなを挫いたヴァーミリオン達が、“オレ”達魔王軍とは別に行動をしてるんですぜ。

それに……これはまだ内密だが、ミカエル様も動かれたようだ……。」


「大天使長が―――これはまたとない心強い援軍を得たと言うものだな。」


魔王カルブンクリスの戦略とほぼ並行するかのように、魔王軍の現場でも第二波の出現地点の模索と割り出しを、既に出し終えていたのです。

しかもその一つがダーク・エルフの王国、ネガ・バウムの首都オレイアの北西―――と、もう一つが『昂魔』の副都心とされているヴェリサの南西。

その地点……敵が湧いてくる地点に兵を潜ませておいてこれを叩く―――と言うのは、古来より伝わる用兵の妙なのです。


現時点で判っている事を述べ、それに関わる指令を出した―――ものの、どこかベサリウスの表情は浮かばれませんでした。

そのことを以前から彼の能力を買っていた竜吉公主は気付く事となるのでしたが……


魔王軍総参謀からの指示を受け、各々の天幕へと戻って行くのに、彼の何がそうさせたのか彼女を呼び止める声が……


「ちょいと―――公主サン。」


「どうしたのよ、魔王軍で決定した事項を代行殿ササラに伝えなくちゃならないんだけど。」


「その前に一つ聞いても?」


「何よ―――」


「あんた……『太乙真人』てのを知っていますかい。」


「彼女がどうかしたの??!」


「いや―――太乙真人個人はたいした問題じゃない……神仙が生み出した異能『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』だとしてもね。」


その名の既知・無知を問われた途端、嫌な予感しかしなかった。

確かに、シェラザード達の若い世代ではそんなには広まってはいないものの、ベサリウス―――引いてはウリエルや竜吉公主ならば彼の存在が何をしてきたのかを知っている。

そのお蔭もあり張られてしまった“悪評レッテル”―――『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』。


しかしベサリウスは、彼の存在の問題性のある人格―――果ては性格が『問題ではない』としていたのです。


では、ベサリウスが『問題』としていたのは…………?




つづく



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