第12話 再  結  成

あの人の家に仕えてきた私達―――私とあの人とは、幸いな事に同じ時代に産まれてきた……。

あの人の家が「主家」で、仕える私達は「従家」。

けれどあの人は、女だとはしても家を継ぐために、その家で培ってきた武術を修める為に厳しい鍛錬に耐えてきた……。


女の身体―――なのに、生傷が絶えず、けれど涙の一つも零さず不満や愚痴の一つも零さず……そんなあの人の姿に、私は魅かれてしまった。

そんなあの人の生傷を治療するためにと、手当てをしていた時―――触れ合ってしまった手と手……合わさってしまった視線と視線……


そんな時、私の身体のどこかが火照った……


そこから先は、「言わぬが花」か―――それとも「聞かぬが花」だったか……

けれども「言わず」とも、「聞かず」とも、仲間内ではそれに触れないようにしていた―――

{*まあ確かに、彼女達以外にも“例”がありますから。}


だがヴァーミリオンは、そこを判っておきながら、今回ばかりは禁忌を犯したのです、一線を踏み越えたのです。


「リリアは、そなたに生きてこそ貰いたかったのだ。」



ああ―――その通りだ……。

判っていた、そんな事は―――

判っていたのに、判らないフリをしていただけ………

あの人が、こんな私を大切に想ってくれている事なんて………

そんな事は、互いに一線を踏み越えてしまったあの頃に、当に判り切っていた事なのだ……。



リリアは、ホホヅキの事が嫌いになってしまったわけではない。

してや足手まといになるなんても思ってさえいない。


寧ろその逆―――


大切にしているからこそ、壊されたくなかった―――壊したくなかった……

ただ、それだけの事―――



           だ         が



「そなたは、本当にそれで良いのか―――」


「(えっ……?)『それで良い』―――とは……?」


「言葉通りだ。 そなたは大切にされている者から一方的に切られてしまったのだぞ。

悔しくないのか―――」


問い掛けが始まった―――

今、自分は岐路に立たされている。


「何を……仰っているのですか? ニルヴァーナ……。」


「答えよ―――そなたは、それで良いのか。」


リリアがスオウから出て行くとき、ヴァーミリオンに何を言い含んでいたかは、ホホヅキにもちゃんと聞き取れていました。


『すまない、私の後を追わさないよう、抑えていてくれねえか。』


明らかに、「抑止」する言葉―――なのに……


「なぜ―――“問う”のですか。」


「あやつは、この私をもこの地に封じ込めようとした……

私も、随分と安くられたものだ。 あの2人だけ美味しい処を持って行きおって。

この私に、「おあずけ」を喰らわせた事を、後悔させてやろうではないか―――なあ?『神威』!!」


その“”を呼ばれ、自分の体内を巡る鬼の血が滾るたぎる……


「は……い―――」


「では―――すぐに出立する!1分と待たんぞ!!」


「―――はいっ!」


途端に、その顔に血色が巡る―――それは滾るたぎる鬼の血の所為せいか、はたまたは恋をする乙女のモノかは判りませんでしたが……。



済まぬな―――リリア……私はどうにも不器用だ。

そなたの想いも、また彼女の想いも理解ってわかってしまっているから……

だから……が、私が出した最善のこたえだ。

恨み事ならとことん付き合ってやる―――だから……それで勘弁してもらえないか……。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして2人がスオウより出立して数日経った頃―――


「ねえ……ニルさんや?」

「何かな? リリアさんや。」


「私……言ったよねえ? あなたに……。」

「言ったなあ? で? 私もスオウに閉じ込めておいて、おまいら2人でさんざんぱら愉しみおって……」


「(ふぐぐ)……ねえ~知ってる? 私の故郷ではさあ、『嘘吐きは泥棒の始まり』って言うんダヨ?」

「フン―――言うだけならタダだ。 存分にほざいておれw」


「あ~~の~~~なぜにこんなに拗れたこじれたのデ~スカ?」

「ニルヴァーナは、私の代弁をしてくれたのです♡」


「それより~~~なんですけど、袖でこちらを伺ってるMobがいるんですが―――」


「ねえ~ニルヴァーナさんや、お一つ提案があるんですが―――」

「面白い、乗った! あやつらを一匹でも多く狩った方の―――」


「「勝ちって事で!!」」


その時の状況としては、自分の左腕に抱き付いて離れやしない幼馴染の巫女が―――

彼女からの過ぎる想い愛情表現遍くあまねく一身に受け、困惑気味ながらも自分との約束を守らなかった者に対し、青筋を立てる清廉の騎士。


けれど緋鮮の覇王にも言い分がありました。


その本来なら自分が行動指針を決めるリーダーであるものの、今回はサブ・リーダーから『ある者を監視しろ』と言われた。

本来ならば自分も、戦場に立ちたかったのに……「おあずけ」を喰らわされた―――その事に、ヴァーミリオンも思う処となり、約束を反故ほごにした。


こんなにも拗れこじれ合った仲を修復する手立てはない―――とはしながらも、互いが衝突した場合、互いを諌め合う手段が彼女達にありました。

その手段と言うのは、「話し合う」と言う事ではなく、「どちらが敵を多く狩れるか」―――しかしそんなものは、知性的ではない。


どちらかと言えば直情的―――力と力の試し合い。


そして、勝負が結着ついた処で……。


「一匹差で敗けちゃったか……さすがだよ、ニル。 あんたにはかなわないわ。」


「何を言っている……そなたわざと最後の一匹を私に譲ったではないか。

今回はまあ、数の上での勝負だったから敢えて何も言わないが……。

勝ちを譲られると言うのはだな、武人にとっては最大の屈辱だぞ。」


「けど……いいもんだよね、実際、お互いの腕を競い合うのって。」



私はね……ニル―――あんたと出会った事が運命だと思った。

私の出自はあんたも知っての様に、地方領主に武術の指南をしていた家柄に産まれた。

それってつまり、私以上に強い人なんて私の父であり師匠である人しか知らなかった。

けれどあの時―――あんたの黄金の剣を狙った「あの時」。

初めて私以上の強者に出会えた―――それを知ると正直“ホッ”としたよ。

女性なのにこの私以上に強い人なんていない―――と思っていたから……。

だから、あんたに一緒について行くことを選択した。

だから……私か大切にしていたひとも、一緒に連れて行こうとした……。


ゴメンね―――ホホヅキ……こんな我が儘な私だけど、赦して。



数百体のラプラスの屍の山を前に、草臥くたびれた身体を投げ出し暫しの休息をとる両雄。

そして一息ついた処で。


「それより良いのか、私はそなたとの約定をたがえてしまったのだぞ。」


「いいよ―――もう……別に。 私よりも強いあんたをスオウ如きに閉じ込めておくだなんて、土台無理な話しだったんだもの。」


「そう言えば、最初に結成したのもこの4人でしたね。」


「あの頃は食い違う個性同士、どうなる事かと思いましたが……」


「それが逆に互いを刺激し合ってここまで来られたのだ。 皆には感謝しかない。」


「なんだか……改めてそう言われると、照れ臭いなあ―――…」


紆余曲折うよきょくせつがありながらも、再結成をされた伝説のPT。

緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン」を筆頭に、「清廉の騎士」「神威」「韋駄天」……

その4人は350年前、当時の魔王を打倒した者達でしたが、今ここに新たなる誓いを立て、伝説は復活し現実のものになろうとていたのです。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方で―――


「アウラ様、少しよろしいでしょうか。」

「どうしたのだ、侯爵グレヴィール殿、また改まって……。」


エヴァグリム城陥落前、王女の指示によってネガ・バウムへと避難をしていた王女の婚約者……であり、内務次官補を任されていた侯爵グレヴィール。


そんな彼が雌伏の時機を伺って動き出そうとしていたのです。




つづく



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