第8話 君のみぞが知る、総ての不都合な塊を

時間軸をほんの少し遡りさかのぼり―――……


“水”の神仙竜吉公主“地”の熾天使ウリエルが情報の交換―――『エヴァグリム滅亡』の一報と『王女奴隷化』の一報……そして更には『ラプラスの関与』が臭わされ、その事を自らの本拠地『エデン』へと持ち帰った者は。


「ふぅむ……案外あちら側からの反応リアクションは早かったようだねぇ。」


「ミカエルはこうした事態になるであろうことを予期していたと?」


「“予期”……までは言い過ぎだよ。 まあ先頃撃滅させたルキフグス達も、それなりの実力はあった。

恥ずかしい話だがニュクスからの漏洩がなければ、もっと厳しい戦況となっていたに違いないだろうね。」


「あの者がよもや『埋伏』となろうとは―――……」


「しかし肝心なのは、私達は未だ以ていまだもって『勇者』『賢者』なる者達の事を良く判っていません。

一体彼の者達は何者なのでしょう。」


「(……)これは―――私自身聞いた話でしかないから、まあ“話し半分”として聞いてくれ。

どうやら彼の者達は「ある目的の為」に創造つくられた存在だと言うのだよ。」


「“ある目的”―――? 漠然としたモノでしょうか?」


「ふむ……ここはやはり、はっきりとした事を述べておくべきか―――その“目的”とは、『魔王抹殺』だよ。」


「魔王様を―――?! なんと大逸れた……」


「しかしそれは―――……」


「ああ、そう言う事だ。 明らかに魔界こちらの事を知っている存在がいる……と言う事だ。

魔界この世界の成り立ち―――君達も知っているよね。」


「それは勿論―――確か5000年よりも以上も前に、別の世界から追われてきた『ルシフェル』なる存在が、この世界に到達したからだ―――と……。

そしてその存在こそが『初代魔王』にして、我ら天使と程よく似た外観をしていたから、我ら『天使の祖』とも。」


「(……)これは、ボクの推測でしかないのだが、その『ルシフェル』なる存在が追われてきた“別世界”というのが……」


「まさかラプラス共の世界―――で、あると??」


「そうだ―――しかし、5000年以上前の事は知り様がない。

何故なら5000年以上前それ以前の事象を記した現物が“ない”のだからね。」


くだんの情報交換後、竜吉公主はシェラザード達と接触を図り、エルフの王国再建のために動き始めていましたが。

ウリエルが所属する『神人』では、エヴァグリムが滅亡したそもそもの原因―――『勇者』と『賢者』の実態について協議がなされていたのです。


そこで―――ミカエルがどこからその情報を仕入れたのか、『聞いた話』を話し出したのです。

そう……『勇者』『賢者』と言った者達が、“ある目的のため”にと意図して創造つくられた存在であると。

そしてその“目的”こそ―――『魔王抹殺』……


しかも今回はグリマー狙われた……


つまり、前回の侵略戦の失敗の原因を突き止めた―――?

それと、ほぼ同じタイミングで魔界この世界の成り立ちを聞いてきた大天使長。

そんなことは、天使族に産まれてきたからには、どうしても避けては通れない宿命さだめ―――

けれど、そんな自分達でも5000年よりも以前の事を知りはしない―――

魔界に生を受け―――天使族として産まれ―――この世界に住んできたモノなのに……


そう……5000年―――その時間と同等の時間を紡いできた“あの存在大悪魔”以外は……


だからか―――……


         * * * * * * * * * *

「少し―――お邪魔をしてよろしいかな。」


「なんだ……“友”か―――どうしたのだね。」


「また昔話を聞きたくなってね―――だからこうして訪ねてきた。

それにボクには“権利”がある―――いや、正確にはボクは……かな。

だからどうか教えてほしい―――“真実”を……」


「なぜ……知りたい―――不都合の塊を……。」


を知らなければ始まらない―――からだ、始まらなければ、進めようがない。

だからどうか教えてほしい―――……」


もう―――に頼るしか外はなかった。

今現在をして5350年を生きる魔界の最古老ジィルガ。

この人物がこの世にでて既に5350年。 これまでにあった出来事は、その目で視た事だからつまびらかにできる……けれども。

5350年以上も前それ以前の出来事は“視て”こなかったから、知ら……ない―――???


             ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


事は……10000年も前に遡るさかのぼる―――無論、この時間の計上は、魔界の時間軸・時空系列に照らし合わせた上での話しだ。

ナレにも以前に聞かせた通り、“別の次元せかい”から追われてきた『ルシフェル』なる者が、偶然この世界へと辿り着いた―――これが『魔界』の始まりだ。

そのルシフェルなる者も、元はナレと同じ天使であったとされている。

しかしながら元いた次元から追放されてしまった―――……

その“無念”“怒り”“憎しみ”“怨み”などが澱りおり重なって昂じこうじ、いつしかその天使は態を変じて『悪魔』と成って、果てたそうだ。



なぜか―――その語り部自身は、自身が紡いできた時間……それ以前の事まで知っていた。

ジィルガは現在5350歳―――しかしそれ以前……10000年も前の事をなぜ知っていたのか、知り得ることが出来ていたのか……



彼の天使ルシフェルが魔界へ追放されてきたのが10000年前……

負の感情が蔓延し、悪魔へと堕天おちたのが9000年前……

“そこ”から更に3650年の歳月が経ち―――ワレが生誕した……

そう言う事だ……ワレこそは『初代魔王ルシファ-』の実子が一人。

気付いたかね?この魔界に生きる誰しもが皆、『初代大天使長ルシファー』『初代魔王ルシフェル』の“末裔”だと言えるのだよ。



意外とも思える機会をして、知ってしまった……『天使族』と『悪魔族』の成り立ち―――それにしても深く知れば知るほどにまた別の疑問が噴出して来る。


「待ってくれ? だとしたら『聖霊』は? あの者達は……」


「元々『聖霊』は、この魔界土着の生命体であった。

天使が悪魔として堕天おち切るまでの1000年間、ルシフェルは聖霊と融和し、そして産みだされたのが『神仙』だ。

ミカエルよ……ナレナレも感じておろう。 ワレら派閥を治むる“おさ”は、性別は“無”である事を。

だがそれは甚だ見当違いとも言える。

そう……ワレらは、性別は“無”なのではない―――『雌雄同体』……『両性具有』ですらあるのだ。

その必要性に迫られれば眷属を増やす事も可能―――だが……新たなる生命を産み出す等価リスクは当然支払わねばならん。

ワレの父祖であるルシファーも存在喪失ロストしてしまったのは、沢山産み出し過ぎてしまったからに他ならない。

それはナレの父祖たるルシフェルも同様にな。」


「でっ―――では、今多くの眷属の補填を行っている女媧は……いずれ消える宿命さだめにあると?」


「いや……あの者は、『聖霊』に所属する種の、責任ある立場の者を100産み出した時点でその危険性に気付いたようでな。 現在ではそのペースは抑えているようだ。」


        * * * * * * * * * *

こうして、これまでの経緯とこれからの経緯を話し終え、ここに『神人』と『昂魔』の協合は成りました。


そして―――……


「ミカエル―――お戻りで。」


「ああ……ただいま―――」


「そのご様子から察するに、あまり面白くない事でも?」


「ああ―――興味深かったよ面白くなかったよ……実に。

全く……どうしてこうも“真実”ってヤツは、不都合な塊だらけなんだろうか―――だが、この“真実”は知らなければならなかった……。

興味深かった面白くなかった―――が、この真実は有用に活用すべきだと“私”はそう思っている。 異論は―――あるかね?」


エデンへと戻り、これからの指針を話し合う四大熾天使達。

その中で明らかなる異変を感じるウリエル達が。

普段は“ボク”という一人称を使っていたのが、いつしか“私”に変じてしまっていた―――それは、その者が持つ属性“火”が燻りくすぶり始めた証拠。


その“火”は……一度燻りくすぶり始めると鎮火しずまることを知らない―――


極限まで“盛”った後は、灼きやき尽くす―――まで……




つづく



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