27

裁判所前

オルガ、アーサーを先頭に町人たちが続けて登場。


一同「マリアの裁判をやり直せ! マリアの裁判をやり直せ! マリアの裁判をやり直せ!」


事務官(男)が裁判所の窓から外を覗き込む。


事務官(男)「大変です、裁判官殿。民衆が騒いでおります。マリアの裁判をやり直せと。一体なにごとでしょうか」

裁判官(男)「まさか……司祭の言う通りになろうとは……」

事務官(男)「なにか心当たりでも」

裁判官(男)「……いや……」


裁判官(男)は窓の隙間から外の様子を伺う。


一同「司祭の罪を白日のもとに! 司祭の罪を白日のもとに!」

裁判官(男)「なんてことだ、あの男に関わらなければこんなことには」

事務官(男)「裁判官殿、マリアの裁判は数年前に変決が下っておりますが。今さらやり直せとは一体なにごとでしょう」

裁判官(男)「……上に知れ渡ったら面倒なことになる。あの抗議活動の代表者を早くここへ連れて来い」

事務官(男)「はっ、はい・・・・・すぐに」


事務官(男)は裁判所の正門まで出てくる。

シュプレヒコールが一旦止む。


事務官(男)「代表者は誰だ」

オルガ「私だ!」

事務官(男)「お前が? 女ではないか。女は話にならん。男の代表者ないないのか」

オルガ「性別は関係ない。指導者は私ひとりだ」

事務官(男)「ならば話し合いなど無理だ。男の代表者を用意しろ」

オルガ「そうか、ではこちらは裁判のやり直しが決まるまで声を挙げ続けるのみだ。マリアの裁判をやり直せ!」

一同「マリアの裁判をやり直せ! マリアの裁判をやり直せ! マリアの裁判をやり直せ!」

オルガ「お前の主人が窓から苛立った様子で顔を覗かせているぞ。どうする」

事務官(男)「……ちっ、分かった中に案内する。ただし、その間は静かにさせろ」

オルガ「これから裁判官と話し合いをして来る。すまないがその間、静かに待っていてほしい」


シュプレヒコールが一旦止む。

オルガと事務官(男)が裁判所に入る。


裁判官(男)「まあ、座り給え」

オルガ「遠慮する。ゆっくり座って長々と世間話をするつもりはない。マリアの裁判やり直しを求めに来た。やり直さないのであれば抗議は止めない」

裁判官(男)「……一体なにが目的なんだ!」

オルガ「正義だ。はずかしめられ、孤独と苦痛の中、この世を去った者たち、そして今なお忘れ難き記憶にむしばまれながら必死で生き延びている者たちへの正義だ」

裁判官(男)「なにを訳の分からぬことを抜かす。英雄気取りか。マリアの裁判となんの関係がある。七年前に判決は下った。これ以上、マリアの裁判を蒸し返す意味はない」

オルガ「新たな証人を得た。マリアが被害にあった当時のことをよく知る者だ。司祭の悪事についてもよく知っている。新たな事実が明らかとなった今、裁判のやり直しは理に適う。それでもかたくなに拒むと言うのなら、さらに上に働きかけるのみだ」


裁判官(男)は机を拳で叩き苛立つ。


裁判官(男)「……わかった……やり直そう」

オルガ「では、今すぐ私の目の前で手続きをしてくれ」

裁判官(男)「なにを突っ立ている、早く書類を準備しろ!」

事務官(男)「はっ、はい! すぐに」


事務官(男)は裁判官(男)に書類とペンを渡す。


オルガ「裁判のやり直しは今日の昼だ。マリアの弁護は私が務める。そして彼女への配慮のため、友人の立ち合い許可を認めること。司祭の顔が見えないようマリアの周囲を布で囲うこと。万が一、司祭の顔が見えてしまったときのことを考え、司祭に鉄仮面を取り付けること。以上を要求する」


裁判官(男)は苛立ちながら書類に殴り書きし、オルガに控えの書類を渡す。


オルガ「では、今日の昼、法廷で会おう」


オルガが裁判所から出ていく。


オルガ「マリアの裁判やり直しが決まった! 今日の昼、裁判を執り行う。希望への第一歩だ! みなの声で希望を勝ち取ったのだ!」


一同歓喜に沸く。


事務官(男)「本当によろしかったのでしょうか」

裁判官(男)「上に知られて騒ぎが大きくなるよりはましだ。どうせ結果は同じだ。昼までに司祭を連行するよう手配を頼む」

事務官(男)「はい」

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