目覚め

  身体が重い……どんどん深い暗闇に沈んでいく……


あぁ……そうか……そうだったな……私は最後の命懸けの魔法で、クリストフ達と共に魔王グランデウスを倒したんだったな……


なるほど……死ぬというのはこういう感覚に陥いるんだな……こんな時まで探究心が芽生えてくるとは……実に私らしいな……


  


……ス……ター……マ……タ……


ん……誰だ……誰かが私を呼んでる気がする……どこか懐かしいこの声は……


ッ!?何だ!?突然光が!?何故か分からないが、その光の先へ向かわないと行けない気がした。私は重たい足を必死に動かし、光の方へとゆっくりゆっくり歩く…………
















「……ん……ここは……?」


私が重い目蓋を開け、徐々に光の明るさに慣れると、目の前には真っ白で簡素な天井があった。まぁ、目を覚ましたんだから、目を開いた先に天井があるのは別に普通……


「ッ!?って!?ちょっ!?どういう事だ!?」


そこでようやく私は自分が死んだはずだという記憶を思い出し、慌ててがガバッと起き上がる。そして、周囲をよく見回してみると……


「ここは……私の部屋か!?本当に一体何がどうなってるんだ!?」


そこは間違いなく、かつて私と弟子が暮らしていた家の中にある私の部屋だった。机に椅子に、沢山ある本棚には無数の魔法に関する本や、私自身がメモするように書いた本もある。私が寝ていたベッドも身に覚えがある物だ。


「一体何が……どうなって……?」


  すると突然、綺麗なノック音がして、誰かが私の部屋の扉を開けた。


「失礼します。師匠マスター……ッ!!?」


私の部屋に入って来たのは、女の私でも思わず目が奪われる程綺麗な容姿をしたダークエルフだった。

  褐色の肌に、腰ぐらいまである長い白に近い銀色の髪。そして、真っ先に目がいくのはその胸の大きさ。仲間内ではあの堅物の[聖騎士]カルラが1番大きかった。私を見つめて固まってるダークエルフはそれよりも一回り……いや、2回り以上ありそうだった。そんな大きさで垂れて形が崩れて美しさを損なっていないという反則級なバストの持ち主だ。

  ん?ちなみに私はどうだったかって?そんなの聞くな。いや、決してない訳じゃないぞ。ただ、この世界の女性の胸の平均の大きさが高すぎるだけだ!私が全くない訳じゃないぞ!パーティー内で私を抜いた1番小さいネネより一回り以上の差があってもな!!


「あぁ……!?師匠!?ようやくお目覚めになられたのですね!!?」


そのダークエルフの美女は、真っ赤な瞳を潤ませ、感極まったように私に抱きついてきた。


「んぶぅ……!?」


その美女に抱きつかれた私はまた死にそうな目にあった。何故ならその美女の豊満な胸が私の顔を圧迫し呼吸がしづらくなったのである。

  確かに一回死んだとはいえ、最初の死が魔王討伐の為の名誉ある死であるのに対し、2回目の死は見知らぬ美女の胸による窒息死だなんて冗談ではない。私は必死にもがいて、なんとか美女の胸の圧迫から脱し


「突然何だ!?お前は一体誰なんだ!!?」


その美女を睨んでそう尋ねると、ダークエルフの美女は今度は悲しそうに瞳を潤ませて……


「そ……!?そんなッ!?師匠は!?私の事を忘れてしまったのですか!!?」


と、それはもうかなりのショックを受けたようで、私から離れるとその場で崩れ落ち呆然となった。


  いや、そんなショックになられても、こんなダークエルフの美女……私は知らない……ん?ちょっと待てよ……私はもう一度その美女を、今度は目に魔力を込めて視る。

  私には、その目で相手の魔力を視る事が出来る。魔力は個人によって様々な色や形がある。だから、魔力を視れば変身していてもそれが誰かすぐに見抜ける。前に魔族の1人が変身魔法で仲間に化けたのをこれで見抜いた事がある。

  そして、種族によっても魔力の流れや形が違ったりするのだが、そのダークエルフの美女は、容姿の特徴が完全にダークエルフのそれだったので、ダークエルフと勘違いしたが、魔力の流れを視ると、ダークエルフとエルフの特有の魔力が入り混じった感じの形をしていた。

  この事から、目の前にいる美女はダークエルフとエルフのハーフだという事が分かる。おまけに、私の事を「師匠」と呼ぶ人物は1人しかおらず、よく見ればその顔立ちは、かつて心残りでもあったまだ幼い少女だった弟子の姿によく似ていて…………


「まさか……お前……リアンナか……?」


私が恐る恐るそう尋ねると、その美女は誰もが見惚れてしまう程綺麗な笑顔を浮かべ


「はい!師匠!!」


美女……リアンナは幻の尻尾をブンブン振ってそうな程、嬉しそうに私の言葉にそう返事を返した。

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