プロローグ 後

  グランデウスの攻撃を受け倒れたサーシャリアを、近くにいたネネよりも先にクリストフが支え起こす。


「しっかりしろ!?サーシャリア!シルビア!すぐに治癒魔法を!!?」


「はっ!はい!!」


クリストフに指示され慌てて治癒魔法をかけようとするシルビアだったが、そのシルビアを制したのはサーシャリアだった。


「いい……自分の事は自分がよく分かっている……いくら[聖女]の癒しでも無理さ……」


サーシャリアは微笑みを浮かべながらそう言うも、シルビアは涙を流しながら治癒魔法を行使する。ネネやカルラ、クリストフも涙目になりながらも必死に諦めるな訴えかける姿に、サーシャリアの笑みは深くなる。


「魔法の事にしか興味がなく……魔法の研究がしたいから不老の魔法をかけ、100年以上生き……魔法の研究に明け暮れ、引きこもっていたような女が……最後は仲間と呼べる者達に見送られるとは……魔法の研究しか興味なかった当時の私が聞いたらさぞ驚くだろうな……」


必死に自分を生かそうと懸命になる仲間達を見て、サーシャリアは微笑みながらそう漏らす。


「クリストフ……最後に……私の頼みを……聞いてくれないか……?」


「やめろ!?やめてくれ……最後の頼みなんて……言わないでくれ……」


クリストフは涙を浮かべながら首を横に振るが、サーシャリアは言葉を続ける。


「私の……弟子のような娘の……リアンナに……約束を守れなくてすまなかったと……」


サーシャリアに1人の弟子がいた。エルフとダークエルフの間に産まれた娘リアンナ。サーシャリアにとっては、娘のような従者のようなそんな弟子である。


  サーシャリアは元々、クリストフ達共に魔王討伐に参戦しようなどとは思わなかった。しかし、国からの支援要請が来た時に、リアンナの事を考えた。リアンナが安心して暮らせる世界にするには魔王を討伐するしかないのではと。

  だから、サーシャリアは自分もついて行くと言って聞かないリアンナを、とある約束をする事で宥めすかし、クリストフ達と共に魔王討伐へと旅立ったのである。


「あの子は……エルフと……魔族に組みしてないダークエルフとの間に産まれた子……だから、私しか頼れる大人がいなくてな……」


ダークエルフは、エルフ達からの迫害によりその大半の者達が魔族側に組みしてしまった。故に、ダークエルフ達も魔族側と認識されてしまっているのである。リアンナにはエルフの血も流れているのだが、残念ながらダークエルフ特有の褐色肌の持ち主なので、世間からはダークエルフとみなされるだろう。当然、ダークエルフを良しとしないエルフ達がリアンナを受け入れるどころか、忌み子と呼んで拒絶するだけだろう。


「だから……あの子の事を頼む……何だったらお前のハーレムに加えてもいいんだぞ……」


「なっ……!?」


サーシャリアの言葉を受け、クリストフは途端顔を真っ赤にして慌てはじめる。他のメンバーも同様である。


クリストフは、シルビア・カルラ・ネネの3人とそういう仲になっていた。サーシャリアはそういのに興味が無かったので加わっていないが、4人がそういう関係なのは当然知っていた。これで、関係が拗れずにこれたのはクリストフの英雄としての資質の高さと性格故だろう。


「あの子をお前に託す……泣かせたら……化けて出て核撃魔法を何発も打ち込むからな……」


冗談混じりの口調でサーシャリアは笑みを浮かべそう言うと、クリストフはしばし沈黙した後、


「……分かった。その、リアンナって子は、必ず俺が……勇者クリストフ・アルケインが守ると誓う」


クリストフのその言葉を聞き、ようやく安心したサーシャリアは微笑みを浮かべ目を閉じた。


  これが、魔法に生涯の全てを捧げ、最後は勇者クリストフ達と共に魔王グランデウスの討伐に大きく貢献した魔法使いサーシャリアの最期の物語である……

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