第42話 野球小僧-42

『さぁ、山本君の登場です。サンディに次ぐ長距離打者と言ってもいいでしょう。非常に面白い展開になりました』

『イチロー君もだいぶコントロールが良くなったんですけど、さっきの大木君のような小さいバッターを相手にすると少し手元が狂うようです。このまま、ストライクが入らなくなるかもしれませんね』

『そうすると、ここはツーアウトながら、愛球会のチャンスということになりますか』

『要は、山本君がポイントになりますね。早打ちしなければ、イチロー君は自滅するかもしれません』

『さぁ、イチロー君、山本君に向かって、投げた!打った、打球は一二塁間へ、セカンド回り込んで捕った!1塁へ、アウト!ジロー君軽くさばきました!おにいちゃんのピンチを助けました!当たりは悪くなかったんですけどね』

『あの程度の当たりだと内野を抜けることはできませんね。うちの野球部は、相当守備は堅いですから』

『そうですか。早打ちしたのが裏目ということですか?』

『もう少し待って欲しかったですね。悪い言い方かもしれませんけど、イチロー君が自滅するかもしれないところですから、無理に打っていく必要はありませんでしたね』

『そうですね。これで、5回を終了しました。得点は2対2、同点です』



 亮は2塁ベースを回ったところで、コーチャーがベンチに帰っていくのを見て、アウトを確認した。当たりが悪くなかったのでヒットかと思い、思いっきり走ったので、拍子抜けしたような気分になった。ベンチへ戻る途中、案外多くのギャラリーがいることに驚いた。バックネット裏はほとんど埋め尽くされており、左右のネット裏でも、そこかしこに見物のグループがいた。はっと気づくと、バックネット裏、3塁側に津田がテニス部のグループと一緒に応援に来ているのを見つけた。そこは、テニス部と隔てた垣根の途切れた場所に近く、部活のついでに観にきたのだと思った。しかし、津田らは制服姿で、クラブ活動はもう終わっているようだった。わざわざ観に来てくれたのかな、と思ったとき、津田の横にあの先輩がいるのを見た。そして津田と仲良く話しているのを見たとき、大木の頭にグローブが被せられた。

「ほら、お前の」高松

「あ、ありがとう…」

亮はグローブをはめ、ネット裏を見ないようにしながらポジションについた。


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