4 婚姻の儀

政所まつりどころに入ると、月桂が近寄ってきて明煌を控室へと連れて行った。

ここは討議の休憩時間などに使われる部屋で、今は明煌のために人払いしてあった。

それまで着ていた紫の袖なし羽織を脱ぎ、下の着物も脱ぐと、赤い着物を着せられ、その上に袂の長い白絹の着物を着た。


よく見ると、白絹の表面には銀糸で伝説の鳥であり、お祝いのしるしである鳳凰の刺しゅうが入っている。

白絹の首元に赤い襟が重なって見え、普段は着ない赤の服が何ともくすぐったかった。


しばらくそこで待っていると、花嫁の輿が政所の前庭に到着したようで、明煌は控え室を出て大広間に向かった。

玉座には父王が座り、明煌はその下に立って待った。横には先ほどと同じように母妃と王族、臣下の者たちがおり、今度は中央の通路を挟んで向かい側に頼静らいせい国の一団が座を占めた。


表で銅鑼どらが鳴ると、「花嫁のご入場」と声がかかり、かの国の侍女が籠に入った赤い花びらを通路に蒔きながら進んできた。

侍女の一人に手を引かれ、金の刺しゅうの入った鮮やかな赤い着物を纏い、頭から同じく赤い面紗を被った人がゆっくり入ってくる。

俯いて玉座の下まで来ると、手を引いていた侍女から、その手を託された。


細くて白い手だけが見えた。

二人で正面に向かって歩き、玉座の下の階段前に並んで立つ。

相手の様子を気にしながら、両手を水平に組んで腰を折り、父王にお辞儀をする。

今度は向かい合って同様にお辞儀をし、最後は来場者に向かって頭を下げた。


その後、もう一度向かい合い、言われていたように彼女の面紗をゆっくりと上へ持ち上げた。

初めて見た妻は、しっかりと施された化粧のせいか、ずいぶん年長に見えた。

それもそのはず、彼女は明煌より二つ年上で、その年頃の男女の成熟度は女性の方が上だ。

明煌の元服を待っての輿入れで、王族の女性にしては、もう遅いくらいだった。


二人の前に、酒を乗せた盆を捧げ持った宮女が現れ、婚礼用の赤い酒器から、盃に酒が注がれた。

まず明煌が、その盃を手にして口をつけた。

酒など、飲んだことがない。飲む真似をすればよいと言われていたが、ほんの少ししか入っていなかったので、口の中に流し込んだ。

慣れない苦みが口の中に広がったが、表情には出さずに盃を出すと、そこへ宮女がまた少し酒を注いだ。


向かい合った花嫁に、宮女がその盃を渡し、彼女は盃を口へと運んだ。

盃が盆に返されると、宮女が下がり、結婚の制約を交わした二人は、もう一度玉座の父王に向かい、深くお辞儀をした。


「これで、暁映国と頼静国の婚儀が滞りなく終わった。二つの国と若い夫婦に幸あれ!」

父王が玉座から立ち上がってそう宣言すると、

「皇太子殿下、万歳!」「皇后陛下、万歳!」と、会場から割れんばかりの万歳が響き渡った。

その声の真ん中を、明煌は新婦の手を引いてゆっくりと歩き、政所を後にした。

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