2章 2.私はクラス内で、雄叫びを上げる。

「うおおお!!」


 やばい、思わず素の声が……!!


 朝のホームルーム中、スマホをカバンから落としてしまった私は、拾ったスマホの通知画面に気が付いた時、目を疑った。それはあの『クリンク』からの通知。


 なんと『添付ファイルが届いています』と表示されているではないか……!


 だが、クラスメイト達が私の絶叫具合を聞いてざわつき始めている。


「……おぉぉ~、せんせ~い、わたしぃ~気分が悪いので~、保健室に行ってきてもいいですか~?」

「あ、ああ……、行ってきなさい」


 おっしゃ! セーフ!! 若干引き気味の担任にも、さりげなく可愛く繋げてやったぜ!


 私はスマホを素早くポケットに入れ、机から立ち上がった。

 教室を出ていく時、私のこの素性を唯一知るクラスメイト、立石の横を通った。相変わらずこの世の終わりみたいな顔をしていたので、ご機嫌な私は、誰にも分からないようにニヤリとこの笑みをくれてやったら奴は椅子からハデに転げ落ちた。


 ……アイツ、ほんとに大丈夫か?

 

 そんな珍妙な空気の教室から保健室へ向かう振りをしつつ、トイレへ駆け込み、スマホの画面をまた開く。


「どういうことだ!?」


 やばい、また声が出てしまった。誰もいなくてよかった。今朝も私は寝坊し、スマホをいつものようにカバンに放り投げそのまま猛烈ダッシュで登校した。もちろん学校近くではおしとやかに歩いたけどな。まさかこんな通知が届いているとは……! それもまた前回のあの『腐女子のJK』からじゃないか……!


「なんじゃこりゃ~~!!」

 

 そのファイルは『絵』だった。

 

「み、水戸みと……がいる……」


 なんだ、この絵は……! 『銀氏物語』のモデル、2次元の水戸、美しき黒き髪を目の側まで下ろした水戸だ……!! 水戸が着物を着て、キラキラと美しく、平安京を背景に幻想的に舞っている……!! まるで水戸を見たことがあるかのような表現力だ……。おいお前プロか? プロなのか!? ほんとに私と同じ女子高生なのか!? はあ、神だ、神。なんだよ、一体どこの何者なんだよ……!! 


 添付ファイルにはコメントが添えられていた。


『あなたのファンより』


 ふぁ、ふぁ、ファン……!?


「つ、ついに……、神が降臨された……」


 感極まり過ぎて、視界が曇りはじめたじゃないか……!

 ああ、やはり神だ、ぜったい神だ。ついにこんな日が訪れるとは……! 今までの苦労がこの一言により全て報われる……!!


 興奮して我を忘れていることに気が付き、大きく深呼吸をした。トイレで。臭い。

 もうすぐホームルームも終わるころだろう。とりあえず落ち着くためにも保健室に行って熱でも測って教室に戻る事にした。どうせ異常はないだろうしな。


――


「あれ、誰もいない……」

 

 スーパーご機嫌で保険室へ行ってみると、誰一人いない。窓から明るい朝の日差しが差し込み、鳥のさえずりが聞こえているだけで、その部屋は静まりかえっていた。


「トイレでも行ってんのかな」


 まーどうせ異常はないだろうし、教室に戻るとするか。そう思いながら引き戸に手を掛けた瞬間、なぜかその戸がゆっくりと勝手に動いた。


「ひっ……!」


 私の目の前には奇妙な声を出しながら相変わらずこの世が終わったような青い顔をした立石が立っていた。

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