第9話

「本当に申し訳なかった」


頭を下げて謝るモーリス。

今更謝られたところで。

そう思いましたけどすっかり真面目な人間になった彼を見ていたら怒っているのも馬鹿らしくなってきました。

ただ、このままで済ませるわけにはいきません。


「モーリス、顔を上げてください」


私の声にモーリスはゆっくりと顔を上げる。

完全に上がり切ったところで私は思い切り彼の頬を引っ叩いた。

マケール様は驚き、モーリスは叩かれた頰を押さえて呆然とする。

人の頰を叩くって自分も結構痛いものだ。ひりひりする手のひらを振ってモーリスを睨み付けた。

 

「これで許してあげます」


モーリスは既に王家からの除籍という屈辱的な罰を受けている。私から与える罰はこれくらいで十分だ。

しかし言いたい事は言うべきだろう。


「私、モーリス様が嫌いです。それはこれからも変わりません」


はっきりと告げればモーリスの瞳に動揺が走った。


「それでも元婚約者として貴方には精一杯生き続けてほしいと思います」


頑張ってください。

初めて偽りじゃない笑顔をモーリスに見せた。彼は目を大きく見開き、そして悲しそうに笑う。


「……その笑顔をもっと早く見れていたらと思うよ」


モーリスからの言葉に今度は私が動揺した。

どういう意味なのだろうかと首を傾げて尋ねてみるが「なんでもない」と教えて貰えない。


「どうか幸せになってくれ、エリーズ」


心から私の幸せを願う。

そう思わせてくれる笑顔だった。

モーリスは立ち上がり深くお辞儀をする。


「王太子殿下、エリーズ様と会わせてくださりありがとうございました」


マケール様は若干拗ねたように「あぁ」と返事をした。モーリスは苦笑いを浮かべた後こちらに振り向く。


「エリーズ様も私の我儘を聞いてくださりありがとうございます。貴女様に言われた通り精一杯生きていこうと思います」

「いえ、今の貴方の姿を見る事が出来て良かったです。これからも頑張ってくださいね」


笑いかけるとモーリスも笑ってくれた。

もっと早くにこの関係を築けていたらと思うが全てが遅過ぎるのだ。


「失礼致します。お二人ともお元気で」

「お前もな。じゃあな」

「無理し過ぎないでくださいね。さようなら」


私達のお別れ言葉を受け取ったモーリスはスッキリした表情で出て行った。


「……驚いたな」


先に言葉を発したのはマケール様でした。

変わり過ぎたモーリスの姿に驚いたのでしょう。


「そうですね。でも、今の彼は嫌いじゃありません」


絶対に本人には伝えたくない言葉ですけどね。

私の言葉にマケール様は「そうだな」と頷いた。

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嫌いな婚約者に婚約破棄された 高萩 @Takahagi_076

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