一方的に婚約破棄してきた人の事なんて好きになるわけないじゃない!「俺に惚れ直しただろ」とか何でドヤ顔してるのよ

仲仁へび(旧:離久)

第1話






 麗しいお嬢様をさっそうと助けたヒーロー。


 とでも思ってるんだろうか。


 それで私が惚れるとでも?


 それなのに。


「ふっ、危ないところだったな。俺に惚れ直しただろ」


 と言って来た。


 婚約破棄してきた人の事なんて好きになるわけないじゃない!何でドヤ顔してるのよ。








 神様が存在するこの世界。


 人々は生活のあらゆる面で神の気配を感じていた。


 それは恋愛でも同じだ。


 神様の影響が色濃く出ている。


 発明の神の恩恵で、写真機から発電機や洗濯機などの生活を便利にするものが、短期間にどんどん発明されている中、恋愛の神がどこかの教会でささやいた。


「自由な恋愛は良いぞ」


 という具合に(おそらくセリフから察するに、ただつぶやいたのがうっかり聞こえてしまったのだろう。いつもはこれより厳かだからだ)。


 そんなうっかりセリフでも、神様の言葉の影響力は絶大だった。


 合理・不合理かは置いて、自由な恋愛を望む声が圧倒的に高まってきた。


 それで世の中では、恋愛について考える人が多くなり、貴族の婚約が白紙になる件が相次いでいるのだが。


 それでも私の様に、一方的に破棄されるというのは、なかなかなかった。


 ある日突然、両親からその事実を「婚約についてだけど、相手の方から話を聞いて無しにしてもらったわよ」と告げられた私はどうすれば良い?









 お金持ちのお嬢様お坊ちゃまが通う学校。

 十代になったばかりの少年少女が集まった教室の中、私は唾を飛ばすような勢いで喋っていた。


「あんのやろう! よくも私を捨ててくれたわねっ!」

「フレンダちゃん。おさえてっ! 女の子がそんな言葉使いしてたら駄目だよっ」


 私フレンダは、一方的に婚約破棄されたというとても稀な例だった。


 話し合いもなし。事前にそんな雰囲気もなしだった。だから友達にこぼす愚痴がとまらない。


 私の元婚約者は、何の相談もしてこなかった。


 勝手にこちらをポイだ。


 これで怒るなというのは無理だ。


 頭から湯気が出そうなくらい、憤怒の感情があふれてくる。


「こうなったらもっといい男捕まえて、家も名前も広めて、あいつを後悔させてやるんだからっ!」

「フレンダちゃん! 顔がすごいことになってるよ。おさえてっ!」


 さしあたっては、近所の教会に行って、神様に知恵を授けてもらおう。


 神様に気に入られると、多く語りかけてくれるらしいかあ。


 だから、それを利用するのだ。


「フレンダちゃん、神様を利用するなんてそんな恐れ多いよっ」









「で、我に話しかけてきたと」

「そうよ!」


 ダメ元でもやってみるものだ。


 退屈していた神が、いたらしい。


 教会につめかけ、天に向かってあれこれ話しかけてたら、すぐに神様からの言葉が聞こえるようになった。


「お前の様に、すがすがしいほど自分本位で話しかけてくる人間は珍しい。いいだろう、興が乗った、力を貸してやろう」

「ありがとう。じゃあ、さっそく利用されて!」

「本当に自分本位な小娘だな」


 とんとん拍子に話がころがっていきすぎている気がする。

 この反動で後で不幸な事が起きそうな気がしたが、細かい事は気にしない。


 私がちゃんと気を付けていればいいだけだし!


 私はさっそく、元婚約者を見返す方法を百個ほど、その神様に伝えていった。


 全部聞き終えた神様は「よくそこまで思いつくものだな、人を貶める事に才能があるのではないか?」と呆れていたが、それは誉め言葉として受け取っておこう。


 今必要な才能があれば、それでいい。


「我は、運をつかさどる神だ。ならば、まず三つ目の案にそって行動を起こしてみるか」







 そういうわけで、運の神様を味方につけた私は、私を捨てた元婚約者へ制裁を加えていく事にした。


 とりあえずまず、学校の委員決めにの際にくじを操作する。


 私達がいる学校は、お貴族様達が通う学校にしては珍しい。


 身の回りのことはある程度自分でこなそう、という考えの事で教育が施されているのだ。


 だから、自分達の学園生活を上手にまわすために、委員会なるものが存在していたのだ。


 その委員を決めるために、元婚約者はくじをひく。


 だから私は運の神様にお願い。


 くじの結果を見た事婚約者は、顔を真っ青にしていた。


「飼育小屋の管理、だと!」


 そして声を震わせてわなわなし始める。


 ざまぁっ。


 我が校の動物管理委員は、圧倒的に不人気。


 可愛い動物が数多く揃っているのに比例して、やる事が多いので面倒くさいのだ。


 それに臭いし汚れるからって、いうのもある。


 動物だからそれは仕方ないと思うけど。


 元婚約者がげんなりした様子で、委員会専用の日誌を受け取った。


 天から「意地の悪い思い付きがポンポン出てくる割に、規模が小さいな」とか聞こえて来たような気がしたけれど。








 その次は、交通面で不便な思いをしてもらうわ。


 この学校は特殊な場所に建てられている。


 お貴族様達が通う学校だからと、防犯面を考えて土地を選んだらしい。


 だから周りは海に囲まれている。


 様々な島が連なる海だ。


 学校の校舎は、それらの島の中で一番大きな島にある。


 そんな場所に建て物があるため、学校に通う時は、島と島をつなぐ跳ね橋を必ず通らなければならない。


 一応跳ね橋はいくつかあるんだけど、でも近くで漁業と営む船が通るから、よく橋が上がってしまう。


 船が通るタイミングにもよるが、運が悪いと私達の乗っている馬車は、跳ね橋の前で何分も待たされなくてはいけなくなる。


 ここまで言えば分かるだろう。


「あいつの通る跳ね橋に、船を通らせるのよ!」

「また規模の小さな嫌がらせを実行したがるな」


 そうだ。神様に、跳ね橋が上がる運を操作してもらう。


 にっくき元婚約者が、跳ね橋の前でいらいらしてるのを想像すると、せいせいするわね。


 その様を見るために、御者に他のであいつの馬車をつけてもらう事にした。


 あいつの馬車の前で、跳ね橋は上がる!


 上がったまま。


 きっとあいつは馬車の中でいらいらしているに違いない!


 ざまぁ!


 私は機嫌よく笑ったけど、よくよく考えると私も通れない事に気が付いた。









「フレンダちゃん、最近げんきだね」


 教室の中で、次に実行する嫌がらせを考えていたら、友達に不思議がられてしまった。


 神様との事は特に隠す事ではないので、せっかくだから私は「実はね~」と話を展開。


 今までやってきた嫌がらせの話を披露して友達を驚かせた。


 何でか分からないけれど、友人は話を聞くたびに「子供の頃からやる事変わってないね」と生暖かい視線になっていく。そして「だって、私が良い思いをした時も、そんな感じだったし」と言った。


「フレンダちゃんは優しいね」

「えっ、そんなわけないでしょ!」

「本当に嫌いだったら、もっとひどい事してると思うよ」

「私を捨てたやつの事なんて、本当に嫌いよ! 嘘なんかじゃないわ」


 私はものすごく心外だったので、必死に反論するけれど、友達はまるて聞いてくれない。


「きっとフレンダちゃんは、好きな人に傷つけられた事に対して意地を張ってるだけだと思う。ちゃんと話してみなきゃ分からない事ってあると思うな」

「だから、違うってば!」


 仲良しの友達だと思っていたのに、すっごい誤解をされてしまった。


 私はさらに力説するけれど、まったく耳を傾けてもらえなかった。


「うんうん、意地をはっちゃうもんね」といつもなら弱気な友人が、何だかお姉さんみたいで面白くない。


 違うし!


 あんなやつ、本当に嫌いだし!


 目の前で私が転んだって、オロオロするだけで手も差し出してくれないし!


 贈り物したって、目をそらして何もしゃべってくれないし!


 私がたまに褒めたら、そんなどうでも良いこと聞いてませんみたいな態度だし!


 婚約破棄なら、こっちからしてやりたいくらいだったのに!


 両親にだって愚痴をこぼすくらいだったし!


 だから、好きだなんて! そんな事あるわけないのに。







 それからも、チクチクと嫌がらせは続けた。


 運の神様には呆れられたけど、気持ちがスカッとするのだからしょうがない。


「あまりにも小さい嫌がらせすぎて、いい加減退屈してきた。そのうちやめても良いか?」

「小さくない! 退屈なわけないじゃない! もうちょっと付き合ってよ!」

「やれやれだな」


 それなりの回数を踏んできたので、運の神様とは気安い関係になっている。

 友人からは「神様に対して失礼だよ」、とか言われたが運の神様が良いと言ってくれているのだから、このままでも良いだろう。


 そんなやりとりが日常になってきたところで、肝試しの催し物が企画された。


 それは、学校に通う者達がさらに仲良くなるように、と考えられたもの。

 普段は見られない夜の学校をじっくり楽しめるのが魅力だ。

 肝試しが終わった後は、学校にお泊りができる。


 肝試し中は、いくつかの班に分かれるらしい。

 お化け役の先生が校内にいるから、それぞれの区画をまわってお化けに遭遇しつつも、屋上まで目指すらしい。


 班決めはくじだったので、当然運の神様にお願いして操作してもらった。


 あいつの班のすぐ後の班にしたから、途中で同じ班の人達からはぐれた事にしよう。


 後ろからあいつがお化けにビビっている姿を見て、大笑いしてやるわ。


「フレンダちゃん。また何か考えてるんだね。でも、気を付けてね、たまに本物のお化けが出るって、そんな噂があるから」

「あるわけないわ! そうだ、肝試しの時ははぐれるから、その時は放っておいてくれていいわよ」

「えぇっ、大丈夫!?」


 同じ班になった友達は、いもしないお化けに怖がっていたけれど、私は大丈夫!


 そういうの信じないから。










「そういうの信じないのではなかったのか?」

「うっ、うるっさいわね。信じてなんかないわよっ」


 肝試し当日。


 その日はすぐにやってきた。


 事前に計画した通り一人になった私は、元婚約者の姿を探して夜の校舎を歩き回っていた。


 なかなか前に進めないけれど、それは断じて私の足が震えているわけではない。


 怖がってるわけではないのだ。


 それにしても。


 夜の校舎って、意外と暗いし雰囲気がある。


 あちこちに視線をむけながら移動していくけれど、人の気配がないのにけたけた笑う声が響いてきたり、人間はいないのに影だけが動いたりしていて 結構本格的だ。


「む、これは本物では」

「何! 聞こえない! 何も言わないで。何も聞かないから!」


 時折り、運の神様が余計な事を言いかけたが、私は何も聞かなかったことにした。


 こんな風に、努力を重ねる事数十分後。


 ようやく、目標人物を発見した。 


 あいつだ。


 他の生徒達と共に、廊下を歩いていた。


 大部分を見逃してしまったが、まだ工程は半分残っている。


 これからは、たっぷりあいつの驚く姿が見れるはずだ。


 そう思うと、心に余裕が戻ってきた。


 が。


 背後から肩を叩かれる。


 うっとおしくて、その手を払うけれど、またとんとん。


 私は運の神様に苦情を言った。


「ちょっと、これから良いところなのに」

「大変言いにくいが、我に実体はないぞ」

「えっ?」


 そうだ神様は、声しか聞こえない存在。

 その本体は、地上にはないはずなのに。


 という事は?


 ぎこちない動作で振り返ると、そこには。






 な ん か い た。






「いやぁぁぁ!」


 私は一心不乱にその場から走り去った。


 なにがいたのかは、思い返したくない。


 ただ、記憶から抹消したい感じの「なにか」だった事は間違いないが。


 なので永久にあれは、「なにか」にしておく。


「誰かたすけてぇぇぇ!」


 一心不乱に走る。


 こんなに走ったのは、昔飼っていたペットに追いかけられた時以来だ。


 しかし、そんな私が向かった先は行き止まりだった。


 追い詰められた私は、壁の前でへたりこむ。


「いっ、いやっ」


 ひたひたと背後から迫りくる何か。


 私が絶望を感じていると、


 そこにそいつがやってきた。


「そいつに手をだすな!」


 その人物は、散々嫌がらせしてきたあいつだった。








 麗しいお嬢様をさっそうと助けたヒーロー。


 とでも思ってるんだろうか。


 それで私が惚れるとでも?


 それなのに。


「ふっ、危ないところだったな。俺に惚れ直しただろ」


 と言って来た。


 婚約破棄してきた人の事なんて好きになるわけないじゃない!何でドヤ顔してるのよ。








 彼は、その場にやってきたなにかよく分からないそれ(理解したくない)を殴り飛ばして、あっさりと撃退してしまった。


 そして、こちらに手を差し伸べる。


 で「大丈夫か?」。


 大丈夫じゃないわよ!


 何よ。何なのよ。なんで今さら優しくするのよ。


「うぅ、ばかぁ。ぐすっ」

「って、えっ。なっ泣くなよ!」


 しかもそんな焦った顔でオロオロしないでよ!


 今さら私を助けてなんのつもり。

 婚約破棄は間違いだったとか言うつもり?


 そんなの、もうどうのもならないし、好きになんてなるわけないじゃないっ!


 その時運の神様が「やれやれ世話のかかるやつめ。我がきっかけを作らんと前にすすめんのか」とか言っていたらしいけど、いっぱいいっぱいだった私にはまるで聞こえなかった。


 私が落ち着くと、あいつは「素直になれなかったんだ」と言った、それで私と一緒にいるときも態度がおかしくなってしまったとか。


 そんなだから、両親に私との仲はどうだと聞かれたときも意地をはって「別に好きじゃない」と言ってしまったらしい。


 それで、婚約はあっさり解消。


 大人達の間では「まだ子供だし、あの子達も好きあっているわけじゃないから、勝手に決めといてもいいよね。恋愛に対する価値観も変わってきたし」という流れだったらしい。


 何それ、ひどい。


 いくらなんでも、こちらが子供でも、そういう人生の大事な事は当人に相談してから決めてほしい。


 ともかく、誤解は解けてしまった。


 話してみれば簡単な事だった。


 それなのに、なんで真正面から問いたださなかったのだろう。


 自分で悶々と考えて、いたずらに傷を広げただけのような気がする。


 過去の自分の行動を思い返すと恥ずかしくなってしまった。


 真っ赤になった顔を覆っていると、あいつが話しかけてくる。


「この際だから言っておくけどっ! ほっ、本当の俺は、お前に恰好つけたいし、もっと優しくしたいし、付き合ってる奴がする事だってしたいんだよっ!」

「馬鹿言わないでよ。男ってほんと馬鹿。だったら、最初からやりなさいよ!」

「何だと! こっちに気も知らないで!」


 その後、騒ぎを聞きつけた教師や他の生徒達がかけつけてきて、事情を説明するのにかなり苦労した。


 そんな事があったから、意地を張るのは良くないって分かったんだけど。


 それからはまた、婚約関係を戻したんだけど。







「だから、あげるって言ってるんだから受け取りなさいよっ。せっかくあんたのために作ったんだから」

「今日は俺が贈るっていっただろ、男なんだからかっこつけさせろよ!」


 今度は別の方面に、意地をはりたくなるのはどうしてだろう。


 友達や運の神様に聞いてみれば「前に比べたら、かわいくて良いと思うよフレンダちゃん」「二人仲良く爆発でもしてろ」とまったく返事になっていない言葉をもらってしまった。






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