第6回 話の途中で悪いがワイバーンですか!?

結局、パンパンになった腹を落ち着かせるのにかなりの時間を費やしてしまった・・・

レーションや合成食料では出せないあの旨味、満足感は計り知れないものだな。何故あのような素晴らしい文化を廃棄してしまったのか・・・たしか『食は文化』という言葉もあったか、やはり体験してみないことにはこの素晴らしさはわかりはしないのだろう。


「フハハハハハハハ、よく食らったもんじゃなお主ら!見ていて気持ちのいい食べっぷりであったぞ!」

「だって本当にこんな美味しい物食べたの生まれて初めてだったから・・・///」


ミサキは紅茶?とかいう暖かな飲み物を貰っている、それもまた知らないモノだ。湯にわざわざ色と味をつける意味はわからないがそれもまたこちらの文化なのであろう。


「いや、本当にご馳走になった。」

「しかし・・・そこまでモノを知らぬ上にフレイムベアーを軽々と一蹴するその力・・・もしやお主らはという奴かの?」

「まれびと?」

「そうじゃ、女神の教えによるとこの世界は【タキオン】というてな。昔から異なる世界からこちら側に迷い込んだり生まれ変わったりしてくる者がいるのじゃよ。転生だの漂流者だの呼び名は様々じゃな。」


そこでかなりテンションが上がりきってしまったミサキから後に聞いた話ではこれぞ物語の鉄板らしい。

うだつの上がらない地味な学生や青少年、オッサンが異世界に飛ばされた途端に訳のわからない強力な能力を授かって無双するのだとか・・・正直に言ってただの一般人が突然力を得ても振り回されて暴走・自爆するのがオチではないのだろうか。

その後『ステータス・オープン!!』だとか『プロパティ!』とか叫んではガッカリしていたようだが。なぜかそんな用語を俺にまで強要してきたので試してはみたが結果は同じであった。


「成程な、ではその稀人とやらはなにか功績を残したのだろうか?」

「ほう、なぜそう思う。」

「それは永き時を生きるエルフの記憶に残り続けるようなもの、でなければ良くも悪くもこの世界に傷跡を残しているのではないだろうか。」

「・・・!」

「なるほどな、ハヤト殿は聡明なようじゃの。」


そしてジオもカップを傾け喉を潤すと話を続けていく。


「その通りじゃ。稀人は多かれ少なかれこの世界には無い知識や常人ではありえない力を持つのが通例でな、この里の発展や技術の向上にも貢献してくれておる。」

「えっ、ということはわたし達の他にも稀人がここにいるの?」

「いいや、いたというのが正解じゃな。彼等はどんなに長くとも百年以上生きられたものはおらぬのよ、ワシが知る限りではこの里に骨を填めたものが三人。他は里を出ていき何処ぞの街や国に行ってしまったか元の世界に帰ったかはわからぬ。」

「それでこの建築様式にはそぐわない技術が散見されるのだな。」

「じゃあ里長さ、えと女王さま。」

「呼びにくいならジオでよいわ。」

「じゃあジオちゃん!ジオちゃんが知ってる人はどんな人だったの?」


・・・突然フランクになったな、まあミサキが相手なら仕方ないか。


「それはじゃのう。」

「「里長さま!!!大変です!!」」

「なんじゃ騒々しい!我は女王である!」


突然駆け込んできた獣人の女性が数人、短槍を抱えているところを見るに里の門番といったところだろうか?


「大変なんです!隠れ里のすぐ近くにワイバーンがでたたのんですよ!!!」

「なんと!?客人よ、話の途中であるがワイバーンじゃ!」


噛んでしまったことに気づいた子は赤面していた。


ワイバーン

異世界に住まうモンスターの中でも強力なモノの部類に入るドラゴンの一種である。

蜥蜴を巨大化させたようなその威容に両腕は翼となっており自在に空を飛び、筋骨逞しい脚で牛ほど重量のある獲物だろうと軽々と連れ去ってしまうと言う。

更には風を魔力で操り、口からはフレイムベアーの数倍強力な火炎を放つ。(ここまでミサキからの受け売り)


「怪物というやつか・・・ジオ、この里に戦える者はいるのか?」

「いや、ちょうどこの時期は大規模な狩りに出ている者がほとんどでな・・・冒険者はこの里の者や留まっておる者も居るじゃろうがとてもワイバーンの相手を出来るランク持ちはおらん、ワシ以外はな。」

「ジオちゃん戦えるんだ!」

「フン、こう見えても長年魔法を操ってきたハイエルフじゃぞ?わしが出んでどうする。」

「施政者というものはそういう時真っ先に逃げるものと思っていたな・・・よし、俺たちも協力しよう。」


巨大な怪物か、まぁそんな相手でもアレさえ使えれば問題ない。


「ミサキ、行けるか?」

「あー・・・ごめん、食べすぎちゃってもう少し動けなそう・・・。」

「仕方ない、じゃあホルダーを預かっていくぞ?」

「なんじゃそれは?」

「ああ、俺が力を発揮するのに使うカードホルダーだ。」


受け取ったバインダー状のホルダーを腕に取りつける、コレなら十全に力を発揮できるからな。

俺はゼロムドライバーを腰に出現させるとカートを一枚抜き取ってバックルにスキャンした。


『ゼロォムストライカー、スタァンバイッ!!』の音声と同時にベルトからギルドの入口そばへと光り輝く塊が飛んでいく。


「な、なんじゃ今の唄は?今飛んで行ったアレは!?」

「ん?ゼロムストライカーだが?」


歌は気にするな!

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