3話/邂逅編:出会ってしまった冒険者達

〇冒険者達の出会い

GM:君達は、多くの冒険者が集まる、海沿いの港湾国家「ハーヴェス王国」の、首都「ハーヴェス」に暮らしている。


 GMはスタートセットに封入されているシナリオブックを読み上げたあと、収録されている一枚のイラストをPL達に提示する。


 それは都市の遠景だ。手前には赤茶色の塗料で染められたゴンドラが幾艘も水面に並び、近くには水路に面したオープンテラスが広がっている。

 街灯はまだ灯されていない。陽は未だ高く、爽やかな光が降り注いでいる。

 ゴンドラの周りでは、地元の子供と思しき獣人――リカントの少女二人が風船を片手に戯れ、穏やかな午後を賑やかに彩っている。

 水路を挟んで視線を奥に向ければ、そこには白亜の立派な建築物が立ち並んでいる。

特に目を引くのは、巨大な脚座を持つ高層のパンテオンだ。一般住居に換算して十階相当。天井は巨大なドームになっており、そこから更に尖塔が伸びている。至る所に施された装飾からは、高層建築技術だけではなく、美術面でも惜しみない労力がつぎ込まれていることが見て取れる。

 そして何より、この都市を一つの美術品足らしめているのは、屋根の色だ。都市を這う水路と等しい碧色で統一された屋根がもたらす景観は、蒼い空との境界に溶け込んでいく。この都市に入った者は、空と海の狭間にたゆたう幻想を旅することになるだろう。


プレイヤーD:はぁーん、ヴェネツィア! 高潮で被害出そう。


 彼の発言通り、イラストのモチーフとなっているのはヴェネツィア。その中でもジュデッカ島にあるレデントーレ教会と思われる。気になるようであれば、検索してみると良いだろう。

 ちなみにゴンドラはヴェネツィアにおいては重要な交通網の一つであり、ゴンドリエーレという船漕ぎが一本のオールで目的の場所まで連れて行ってくれる。近年はモーターボートが主流らしいが、果たしてこのソード・ワールドの世界ではどうなっているのだろうか。


プレイヤーA:いかにも港町って感じ。


プレイヤーB:オシャンティー。


GM:みんなここに住んでまーす。


プレイヤーA:税金納めてるってことですか。


GM:どうかなー。


 税制まではルールブックに書いていないので、GMが勝手に決めて良いことになるのだろう。

 港湾国家ということは関税関係に税収を頼っていそうなのだが、住民に対してはどうなのだろう。やはり水路沿いの土地は交通の利便性が高いため税金を多く徴収されそうだ。あとは荷運びに使えそうな大型の窓(あるいは二階扉)が面していると、これもまた税が上乗せされそうでもある。それとハーヴェスは王政なので、結婚税辺りの中近世封建領主的な税制がある……かは怪しいところ。一度文明が発展してから大破局を経ているため、我々の世界の純粋な中近世と比較しても齟齬が出そうなのだ。そもそも貨幣がガメルのままずっと続いており、価値の変動もないので経済・金融面でも我々の世界とは一線を画している。この辺は大作RPGでもある「薬草の値段100年経っても変わってない問題」と同じだ。

 また、冒険者に賦課される税金というのはどのようなものがあるだろうか。彼らは基本的に流れ者であったり、各地を放浪していたりする根無し草だ。そうなると、国に所属するという意識は希薄になっていくし、野垂れ死んだとて国が把握することも出来まい。扱いとしては行商人などと近いのかもしれない。ただし、それらの申請や手続きを卒なくこなせる冒険者は少なかろうし、受け付ける役所側も都度都度説明するのは骨だろう。よって、それらを取りまとめるのが冒険者ギルドになってくるのは妥当な流れだ。国や自治体は、冒険者ギルドの出店を認めることと引き換えに、彼らに冒険者に関わる諸々の徴税を一任していると推測される。

 ――ということを議論するのは個人的に大変楽しいのだが、惜しむらくは会場の利用時間は有限で、利用料もタダではない。そして、描写しない部分は華麗にスルー出来るのがTRPGの強みだ。


プレイヤーA:というか今回担当するキャラ、ハーヴェスの生まれって書いてあったわ。しかもこの子実家に仕送りしている……。


プレイヤーD:エライよねー。18歳とかで。


プレイヤーE:いい子。


GM:では描写の方に戻ります。


 季節は春で、清々しい早朝だ。旅立ち日和と言っていいだろう。この世界の冒険者は、冒険者ギルドに登録することで、依頼仕事を斡旋してもらえる。


GM:言ってみれば派遣、より的確には請負ですね。


プレイヤーE:世知辛いぜ。


GM:君達はつい先日、そこに登録したばかりだ。


 今日はいよいよ、初仕事をやりたいと思い、街のギルド支部にやってきた。

 〈右肩の剣亭〉という店だ。

 〈右肩の剣亭〉は、二階が宿屋、一階は昼でも空いている食堂兼酒場、といった様相だ。


GM:では、各プレイヤーの導入を読み上げていくので、各々軽くロールプレイを入れてね。


一同:オッケー。


GM:まずはカイル君。


プレイヤーA→カイル:はい!


GM:大家族の三男として生まれた君は、家族を助ける意味でも家を離れ、一人で働いて冒険者となるべく資金を稼ぎ、鍛錬を積んできた。そしてついに準備が整った君は、満を持して冒険者登録をするためにギルドを訪れた。


GM:すると気のいいおっちゃんが貴方を出迎える。彼はこの店の店主でマシュー(50歳/人間/男)。今は引退した、元冒険者のおじさんだ。


 さて、最初のプレイヤーキャラクターは所謂HFO(ヒューマン・ファイター・男)だ。一番オーソドックスな冒険者で、いの一番に何かやることになったらだいたい声が掛かるポジションでもある。戦闘では前に立ち、剣やメイスを振り回して敵を討つ。呪文などには頼らないため、それこそ身一つでキャラを立てにいくことになるだろう。プレイヤーAはどんな登場シーンを演出するのだろうか。


カイル:初クエスト受けに来たんですよね?


プレイヤーD:おっ、入るところからやるぅ?


 一瞬考えるカイルのプレイヤー。次の瞬間、


カイル:やあやあ我こそはハーヴェスの生まれで大家族の三男、カイルなり!


 鎌倉武士がそこにいた。

 堂々たる名乗りであった。

 始終真顔のカイルプレイヤーの様相に思わず一同噴き出してしまい、一瞬進行が止まるくらい立派な名乗りであった。


カイル:18歳っぽくないな。入り直して……。


カイル:頼もう!


 ウケを取れた演技プランをあっさりと捨てるカイルPLプレイヤー。男らしいぜ。


マシュー(GM):(声を低く落として)おぅ、よく来たなぁ。


カイル:クエストを、受けまぁす!


 溌剌としたエネルギッシュな口振りで、カイルが挙手。


GM:ふむふむ。マシューさん、外見はスキンヘッドでイカツいですが、噂では冒険者達へは厳しくも優しいと評判なんですよ。なので彼は、「まあそこに座りなよ」と言ってぶっきらぼうながらも優しそうな雰囲気で一つのテーブルに案内します。


プレイヤーC:あーもうマシューさん好き。


GM:では次のキャラクター、イーリスいってみよう。


プレイヤーB→イーリス:はい!


GM:忌み子とも呼ばれるナイトメアの君は、本来ならば肩身の狭い幼少期を過ごすはずだった。しかし幸運にも君は冒険者に拾われ、大切に育てられた。だが――その人は冒険に出たまま戻らない。だから、きみも冒険者になる道を選んだ。いつか大切な人と、再会できる日を夢見て。


イーリス:では静かに扉を開けて入っていきますね。ナイトメアですが、特に角は隠していません。堂々としています。


 ナイトメアは、そうだと分かると差別されることが多いため、基本的に種族の証である角を隠す傾向にある。だが、敢えてそれをしないということは、概ね以下の理由が多い。

 1.周りを気にしないタフなメンタルの持ち主。武人系、強者系ムーヴの一環。

 2.そもそも鈍感か、差別を受けたことのない幸せな人生を歩んでいるタイプ。

 3.バンダナを買う金(5ガメル)さえない重戦士系の金欠マン。

 このイーリスはどちらかというと2だろうか。


GM:COOLキャラですね。ではマシューさんはまた新しいのが来たなという顔をします。立ち振る舞いや装備を見てまだ冒険慣れしていないと思ったのでしょう、彼は「おぅいお嬢ちゃん。そこに座りな」といってカイル君と同じ卓に座らせます。――そうこうしているうちに、また新たな人がやってきます。ヴェロニカさん。


プレイヤーC→ヴェロニカ:はぁい。


GM:君はある日、“導きの星神”ハルーラの啓示を受けて神官となった。炎の神を信奉するドワーフとしては珍しいことだ。だがそこに大きな意味があるのだろうと考えた君は、ハルーラ信仰が盛んなハーヴェスの王都へとやってきた。ここならば、君の力を必要としてくれる人も多いはずだ。まずは鍛えた弓の腕と神の奇跡を活かすべく、冒険者ギルドへと訪れた。


ヴェロニカ:お昼ご飯に食べた鶏肉が歯に挟まっていますわ。


GM:マイペースな子やねえ。


プレイヤーD:奥歯しぃーしぃーしてるん?


ヴェロニカ:両方の奥歯に挟まっていますわ。


マシュー(GM):(爪楊枝を渡して)そこに座りな。


 ちなみにこのとき、ヴェロニカのプレイヤーは本当に鶏肉が挟まっていた。丁度この収録の直前に彼女のプレイヤーは鳥雑炊定食に舌鼓を打っていたのだ。


イーリス:(ルールブックを読みながら)ハルーラっていうと、赦しと癒やし、加護と導きを司る神様か。


GM:そうなんです。彼女はプリーストなんですが、プリーストは信仰している神様に応じて特殊な魔法が使えたりもします。


一同:へー。


GM:次、タビットのエッシェン。


 タビットというのは、二足歩行のウサギ型種族のことだ。


プレイヤーD→エッシェン:俺やんけ。


GM:誰よりも知恵者であると自負する君は、その知識と魔術を活かすべく、冒険者ギルドへと向かった。競い合う友人がいたからだ。勉強よりも実践、研究よりも実験。しかし危険な冒険を生き抜くには、優れた仲間が必要だ。そしてちょっとした不幸に見舞われた後、君は幸運にも、ちょうどよさそうな若者と出会ったのだ。


 エッシェンのプレイヤーが低い声で「入るところからやっていいん?」と問うてきた。GMが頷くと、一転してギアを上げて甲高い声で演じ始めた。朝方にやっている女児アニメに出てくるカラフルな妖精キャラのような声音、と言えば伝わるだろうか。


エッシェン:アー! 今日も酒が旨いでちぃ!! アー! あいつホンマ先に行ってからにぃ……ンモォー! でちぃーん! ――と言って酒瓶をカウンターにドォンと叩きつけて管を巻きます。


マシュー(GM):――何歳だお前さん?


カイル:(エッシェンのキャラクターシートを横から見て)12歳って書いてあるぞ!?


ヴェロニカ:え? でち公?


エッシェン:でち公。


イーリス:(ルールブック確認中)タビットは10歳で成人みたい。それにしたって……。


ヴェロニカ:汚いでち公。


マシュー(GM):変わった子やなと思いつつも、「そこの卓に座りな?」と合流させます。


エッシェン:クエスト受けさせてくれるでちか? でちか? 酒瓶ドォンドォン!


マシュー(GM):まあまあ焦るな新人。依頼は逃げやしないさ。――おぅい、スヴェン。こっちに来てくれ。


プレイヤーE→スヴェン:おー。


GM:スリで投獄されていて、つい最近出てきたばかりの君。君を幼少期から知るマシューに「お前もそろそろ真っ当な職に就け。腕はいいんだから」と言われ、面倒くさがりながらも先日、冒険者としてギルドに登録した。そんなマシューが今日は「おいスヴェン、やっとお前と仲良くやってくれそうなお仲間を見つけたぞ」と声を掛けてきた。君はマシューには色々と借りがあるし、金が稼げるなら悪い話でもないか、ということで従うことにした。


約全員:問題児押し付けた……?


ヴェロニカ:マシューさん、わりと見る目無いですわね。


エッシェン:中の人発言やけど、最初の二人はマトモ、一方あとの二人はアレやからな。ドワーフは店に入るなり晩酌後のオッサンばりに爪楊枝しぃーしぃーしてて、タビットは既に出来上がっててでちでち管巻いてるっつう……。


マシュー(GM):頑張れよスヴェン。と言ってスマイルでサムズアップするマシュー。


スヴェン:半目でマシューを見てます。


GM:さて、ここで一同手元のギルド登録証と書いた両面印刷のキャラクターシートを見て下さい。そこにはそれぞれの担当キャラを表すキーワードやエピソード、戦闘スタイル、種族の特徴などが書いてあります。それらを他のPLに分かるように説明してみましょう。


 これは各PLに読み上げてもらうことで、改めて自分のキャラがどういった性格・性能のキャラなのかを再認識してもらおう、という試みだ。


カイル:じゃあ、自己紹介のロールプレイも兼ねてやってみよう。


エッシェン:いいアイデアでち。


カイル:初めまして! 僕はカイルと言いまぁす。この町の生まれでぇす。兄弟は、兄が2人、妹が2人いまぁす。


 たどたどしく自己紹介を始めるカイル。どこか緊張した様子の少年に、他の冒険者達は微笑ましそうな面持ちに。


ヴェロニカ:かわいい……。小学生みたい(素)。


カイル: えぇっとですね、僕はお金を稼いで実家に仕送りをしないといけないんです。なので皆さんのお力添えの元、僕は冒険を頑張りたいと思います!


エッシェン:ええ子やなぁ(素)。


 正統派ショタムーヴに毒気を抜かれるヴェロニカとエッシェンの中の人達であった。


●カイル(人間/男/18歳)

外見:黒髪短髪だが、唯一伸ばした編んだ後ろ髪を尻尾のように流している。大きな両手剣、ファルシオンを背負った童顔の少年。

キーワード:「情熱」「挑戦」「献身」

技能:ファイター2 スカウト1

HP24 MP10

器用度16 敏捷度13 筋力19 生命力18 知力12 精神力10

判定パッケージ 技巧3 運動3 観察3 知識0

種族特徴:[剣の加護/運命変転]

戦闘特技:≪牽制攻撃Ⅰ≫

武器:〈ファルシオン〉

防具:〈ソフトレザー〉

消耗品:〈救命草〉×1

所持金:30ガメル

他:〈冒険者セット〉:背負い袋、水袋、毛布、たいまつ、火口箱、ロープ10m、小型ナイフ

  〈スカウト用ツール〉:合鍵や針金などの工具セット。扉や宝箱の開錠に使う。


ヴェロニカ:お幾つですの?


カイル:18歳です。


ヴェロニカ:ガキですわ! ――おっと失礼。


カイル:えっ!?


エッシェン:自己紹介が終わった途端にガキ扱い、普通なら面食らうでちよ。


カイル:まあ立ち振る舞いがお姉さんっぽい(オブラート表現)から仕方ないかなぁと思います。


GM:では次、イーリスどうぞ。


イーリス:私の名前はイーリスだ。見ての通りナイトメアだが、冒険者に拾われてな。ハーヴェスの郊外で生まれ育った。しかしその育ての親が冒険に出たまま戻らない。故に私自ら探すため、ここに来たというわけだ。


●イーリス(ナイトメア/女/17歳)

外見:白髪ロングで額に二対の黒角を持つ赤い瞳の美女。肌は透き通るように白い。

キーワード:「聡明」「冷静」「打破」

技能:ファイター1 ソーサラー2

HP20 MP20

器用度18 敏捷度17 筋力16 生命力14 知力18 精神力11

判定パッケージ 技巧0 運動0 観察0 知識0

種族特徴:[異貌][弱点(銀&水・氷属性)]

戦闘特技:≪魔力撃≫

武器:〈ブロードソード〉

防具:〈スプリントアーマー〉、〈ラウンドシールド〉

消耗品:なし

所持金:40ガメル

他:〈冒険者セット〉:背負い袋、水袋、毛布、たいまつ、火口箱、ロープ10m、小型ナイフ

  〈魔法の発動体の指輪〉:真語魔法を使用するのに必須の指輪。これがないと魔法は使えない。


イーリス:じゃあここからはPL発言で解説を……ナイトメアというのは他の種族から稀に生まれてくる珍しい種族で、生まれつき穢れを持っていることから公の場では避けられることがあります。特徴として頭に小さな角が生えていますが、見た目は人間と変わりません。あと、[異貌]を使うと肌が青白くなり、頭の角が巨大化します。


ヴェロニカ:戻るの?


イーリス:戻る。一時的にパワーアップする感じ?


ヴェロニカ:鬼人化みたいな感じね。


イーリス:この人はファイターとソーサラーを持ってます。魔法も使える前衛の戦士と思ってください。以上!


GM:じゃあ次ヴェロニカどーぞ。


ヴェロニカ:えー……っと(戸惑うようにギルド登録証に視線をさ迷わせる)。


エッシェン:急にお淑やかになったでちね?


スヴェン:さっきまでの威勢はどうした。


ヴェロニカ:えー……? とりあえず読む。


●ヴェロニカ(ドワーフ/女/24歳)

外見:神官帽子をかぶった青髪の少女。麻呂眉で童顔、人間だと十代前半くらいに見える小柄な背丈。

キーワード:「慈愛」「誠実」「大食」

技能:プリースト(ハルーラ)2 シューター1

HP19 MP29

器用度18 敏捷度6 筋力16 生命力13 知力13 精神力23

判定パッケージ 技巧0 運動0 観察0 知識0

種族特徴:[暗視][剣の加護/炎身]

戦闘特技:≪ターゲッティング≫

武器:〈ロングボウ〉

防具:〈ハードレザー〉

消耗品:〈魔香草〉×2、〈ヒーリングポーション〉×1

所持金:150ガメル

他:〈冒険者セット〉:背負い袋、水袋、毛布、たいまつ、火口箱、ロープ10m、小型ナイフ

  〈聖印〉:神聖魔法を使うのに必要な神のシンボル。〈聖印〉がなければ、神聖魔法は使用できない。

  〈矢筒と矢〉:必要十分な矢と、矢を入れた筒。スタートセットでは、矢の残りは考慮しない。


ヴェロニカ:バックアップやバフなら任せろですわ。


エッシェン:それはいったいどんなバフが使えるでちか?(テーブルバンバン)


ヴェロニカ:回復できる。


エッシェン:やるじゃないでちか。


ヴェロニカ:HPなくなって倒れても叩き起こせる。


エッシェン:いいじゃないでちか。


ヴェロニカ:あっ、デバフもできる。蛮族を弱らせる魔法が使える。


エッシェン:ピンポイントだが有用でちね。


ヴェロニカ:そんな感じかな。


カイル:よろしくお願いします。


エッシェン:立派なプリーストでちね。頑張ってくれでち(尊大に頷く)。


イーリス:何様だお前―。


GM:一番態度デカいけどこの中では一番の若者なんだよなあ。


ヴェロニカ:ガキですわ!


エッシェン:ガキでちけどぉ……。


GM:じゃあそんなエッシェン、いってみようか。


エッシェン:エッシェンでち! エッシェンでち!


ヴェロニカ:壊死?


エッシェン:違う、エッシェンでち。というかそんな名前だったら頭を疑うでち!


ヴェロニカ:キーワードかと思った。


スヴェン:どっちにしても狂ってるな?


エッシェン:えっとでちね、僕はでちね、もといた村に友達のタビットがいたんでちよ。そいつはバイエルンという軽戦士(フェンサー)でちけどね? 僕よりかは劣っていたくせにでちね? 先に旅に出てね? なんかいいことやってるんでちよ。だからね? 僕もね? あとを追っかけてね? 冒険者になったでち。そして最終的にはでちね、そいつに会ってでちね、「僕の方が優秀な冒険者なんでちよ」って上から見下したいんでちよ。ということで皆さんよろしくでち。


 ちなみにこのバイエルンというタビットフェンサー、後にエッシェンのPLがちゃっかりキャラクターシートを作っていたりする。姓はそれぞれアルトとシャウだろうか。


●エッシェン(タビット/男/12歳)

外見:灰色の直立する兎。長い立ち耳で、小さな体躯を大きく見せるような宮廷貴族風の装飾と布地の多い服を着用している。

キーワード:「知見」「自信」「友情」

技能:コンジャラー2 セージ1

HP23 MP25

器用度7 敏捷度8 筋力9 生命力17 知力23 精神力19

判定パッケージ 技巧0 運動0 観察0 知識4

種族特徴:[第六感]

戦闘特技:≪魔法拡大/数≫

武器:なし

防具:〈ソフトレザー〉

消耗品:〈魔香草〉×3、〈アウェイクポーション〉×2、〈ヒーリングポーション〉×1

所持金:150ガメル

他:〈冒険者セット〉:背負い袋、水袋、毛布、たいまつ、火口箱、ロープ10m、小型ナイフ

  〈魔法の発動体のワンド〉:操霊魔法を使用するのに必要な、短い杖。これがないと操霊魔法は使用できない。

  〈人形〉:ウサギのぬいぐるみ。魔法で操る。


カイル:キーワード「友情」とは思えない。


エッシェン:酒酔ってるから! 酒酔ってるから!


ヴェロニカ:キーワード「自信」ね。ウン……。


エッシェン:自信に溢れてるから。今は置いていかれた鬱憤が炸裂してるから。


GM:そのうち素面に戻ってくれるって信じてるから。


スヴェン:戻ることあんのか?


カイル:キャラとしては戻らない方が面白い。


ヴェロニカ:酔拳みたいに酔えば酔うほど強くなる。


GM:では最後にスヴェン。


スヴェン:名はスヴェンで25歳。金さえ入ったらなんでもいい。とりあえず、俺は後ろから弓をバンバン撃つから、お前らは前に出て戦え。


●スヴェン(リカント/男/25歳)

外見:銀髪を肩口まで垂らした美丈夫。狼の獣耳がチャームポイント。

キーワード:「偽悪」「倹約」「恩義」

技能:シューター2 スカウト1

HP19 MP9

器用度17 敏捷度18 筋力13 生命力13 知力17 精神力9

判定パッケージ 技巧4 運動4 観察5 知識0

種族特徴:[獣変貌]

戦闘特技:≪ターゲッティング≫

武器:〈ロングボウ〉

防具:〈ハードレザー〉

消耗品:〈救命草〉×1、〈アウェイクポーション〉×1、〈ヒーリングポーション〉×1

所持金:220ガメル

他:〈冒険者セット〉:背負い袋、水袋、毛布、たいまつ、火口箱、ロープ10m、小型ナイフ

  〈スカウト用ツール〉:合鍵や針金などの工具セット。扉や宝箱の開錠に使う。

  〈矢筒と矢〉:必要十分な矢と、矢を入れた筒。スタートセットでは、矢の残りは考慮しない。


ヴェロニカ:ポジション被ってますわ!


エッシェン:コイツ僕より酷い性格してそうでちね!


GM:二人はシューターは同じだけど、別の部分で棲み分けがあるよ。


イーリス:ヴェロニカは回復役+シューターで、スヴェンは探索役+シューターなんだな。


カイル:それでいくと僕は探索役+ファイターか。


エッシェン:弓以外は何が出来るんでちか? 僕みたいに操霊魔法が使えるとか。


スヴェン:そうだな……。昔盗みやってたから、鍵開けが得意だな。


カイル:鍵開けッ……!


ヴェロニカ:鍵開けと聞いてカイルPLに蘇るトラウマ。


 かつて別のTRPGで確率3割くらいの鍵開けを10回以上連続失敗した記録を持つカイルPLと、それを横で「まだぁー!?」とか言いながら見ていたヴェロニカPL。


エッシェン:鍵開けいいじゃないでちか~。色んな鍵、開けていこうでちね?(ゲス顔)


スヴェン:とりあえず――どこの家侵入する?


エッシェン:えっ!? (声を潜めて)そうでちね……この街だとあの金持ちの家に――。


スヴェン:ああ、あの金持ちの家か。


エッシェン:行ってみるでちか。


GM:なんならマシューさんまだここにいるからな?


エッシェン:ハッ!? という顔をします。


ヴェロニカ:キーワード「慈愛」「誠実」のヴェロニカが白い目でそれを見ている。「こいつらァ……」みたいな。


GM:スヴェンなんてこないだパクられて帰ってきたところだからな? マシューさんの保護観察中だぞ。


イーリス:まさしく出てきたところだな。


スヴェン:マシューに恩もあるから、暫くはリスク回避して大人しくしておこう。ローリスク・ハイリターンで頑張るさ。


GM:そろそろ皆がほぐれたかなと思ったマシューさんは、依頼の話を進めます。


マシュー(GM):ここから北に数時間歩いたところに、チックノックという村がある。


●チックノック村とは

 森の中にひっそりと作られた小さな村。人口200人程度で自衛能力はほぼないが、息をひそめるような物陰にあるため、今までは魔物の襲撃に遭うことはなかった。


GM:ちなみにメモ取っていいからね。


エッシェン:皆メモ取るでちよ。


GM:(背を向けて板書しながら)気配から察するに誰一人メモ取ってねえな?


 そう言うと何人かはペンを取る気配があるので、マー言うだけ言っとくもんですな。


マシュー(GM):そのチックノック村から先日、伝令がやってきて「魔物に襲われた、倒して欲しい」との依頼があった。


マシュー(GM):襲われたのは1日前。死人はまだ出ていないが、食料などを奪われた。


マシュー(GM):村人の調べによると、村から3日ほど歩いた先の山頂に、遺跡を見つけたらしい。もう棲み着いていて、定期的に村まで下りてくるようになったら、村は滅んでしまう。


カイル:3日か、遠いな。


マシュー(GM):確認されている魔物は、人型だった。いわゆる蛮族ってやつだな。


●蛮族とは

 魔物の中でも人型のものを特にこう呼ぶ。彼らはこの世に生まれたときから、人族と対立する運命を背負っている。


マシュー(GM):現れた蛮族は2体。小柄で華奢な、醜い形相の種族だった、とのことだ。


GM:では、マシューからこの情報を得た君達は、どんな魔物かを調べる行為判定ができます。


●行為判定とは

 TRPGの根幹。ある物事を行うにあたり、それが上手く出来たか失敗してしまったのかをダイスで決めること。

①2dする:6面ダイスを2個振って出目を足す。

②既定の数値を足す:状況や能力に応じて、判定を有利/不利にする数値をGMが提示する。

③目標値と比べる:②の値が、目標値以上になれば成功。足りなければ失敗だ。

☆出目が6ゾロのとき:自動成功。数値が目標値以下だったとしても、成功したことになる。

☆出目が1ゾロのとき:自動失敗。どんな出目であっても失敗したことになるが、50経験点貰える(※スタートセットでは成長が2択なので、代わりに有り難い格言が貰える)。


エッシェン:皆調べるでちよ。ちなみに僕は知らないでち。


GM:今回の判定は魔物鑑定判定になるので、用いる能力値は知識です。


カイル:ゼロ。


スヴェン:ゼロ。


エッシェン:まあ僕知らないでち(唯一知識4)。


カイル:君しか知らないよ。


エッシェン:あれェ――?


 ともあれ一同ダイスをころころと転がすのであった。


エッシェン:14でちよ!(ドヤ顔)


GM:ちなみに魔物のデータだけど、イラスト付きカードのコンポーネントが入っていてね。表面に知名度と弱点値が書いてあります。この魔物はそれぞれ5と10ですね。なのでエッシェンは弱点も含めて知っていました。ゴブリンです。――ちなみに知名度の5に到達していなかった人。


イーリス:はい。4でした。


GM:君はゴブリンを知りませんでした。


エッシェン:あるェ――――!? 冒険者に育てられたんでちよねェ――――!? と言って煽ります。


イーリス:くっ……。


GM:実戦経験はなかったのかもしれない。案外育ての親は過保護だったのかな?


エッシェン:ああ、そういうことでちか。


イーリス:あるいはもっと強い敵にしか会っていないとか……。


 ダイスを転がすと、往々にしてこういう展開が起こりうる。公式リプレイでも、狼を知らないセージとかがいて腹を抱えて笑ったものだ。


GM:そしてセージ技能を持っているエッシェン。君は弱点値を越えているので、ゴブリンの弱点も知っていました。弱点は……(カードの裏面を探し始める)。


ヴェロニカ:金的ですわ! 金的を狙うのですわ!


エッシェン:いやぁここはマウントで頭ボコボコでちよ。


イーリス:ゴブリンは知らんが、そうじゃないということだけはわかる。


GM:魔法ダメージが+2点ですね。


ヴェロニカ:あ、そう(ちょっとガッカリした様子)。


イーリス:そしてそれをエッシェンが皆に伝えてあげないといけない。


エッシェン:みんなぁー、僕を崇めるでち。僕はこのゴブリンという蛮族を知ってるでちよ。こいつらの弱点は……呪文らしいでち。覚えまちたかァ――? 皆さん覚えまちたかァ――? 返事はァ――――!?


スヴェン:覚えたでちー(魔法使えない人)。


カイル:覚えたでちー(同じく魔法使えない人)。


エッシェン:残り二人は覚えたでちか?


イーリス:それなら私のエネルギーボルトが役に立つな。


エッシェン:素晴らしいでち。頑張ってくれでち(何様)。――ドワーフ! 覚えたでちか!?


ヴェロニカ:――――ぁン?


エッシェン:……ドワーフさん、覚えましたでち、か……?


約全員:弱い。


ヴェロニカ:あーはいはい。


 エッシェンが調子に乗ったあたりでキャンと言わされる流れが出来つつあった。この辺り、最後に突っ込んでくれるキャラがいないとエッシェンの煽りボケにオチがつかないので、エッシェンPL的には美味しい展開だろう。

 見知ったメンバーで行う身振り手振り込みのオフラインセッションならではのこの空気感、オンラインセッションで文字列のみだと空気が凍ることもあるので取り扱いには注意が必要だ。


GM:ではゴブリンについても理解したので、マシューさんが依頼の詳細を説明します。


●マシューの依頼

依頼内容 チックノックという村からしばらく行った先の遺跡に、蛮族がいて、襲いに下りてくる。退治して欲しい。

依頼人 チックノック村の村長・アルマス

報酬 PC人数×500ガメル(1ガメル=約100円)

期限 7日以内(村までは徒歩数時間で着く。道中には危険はないが道が険しいので馬などは使えない。村から遺跡は徒歩3日間)

その他 旅の途中の飲食費や宿代などは依頼者が負担してくれる。


エッシェン:じゃあちょっとスヴェンの横にてちてち歩いて行って耳打ちします。


スヴェン:どうした?


エッシェン:これ、交渉でもっと高く出来ないでちかね?


スヴェン:あー……(GMの方をチラッと見る)。


GM:ふむ、じゃあそれを耳聡く聞いていたマシューさんがこう答えます。


マシュー(GM):まあ、お前らみたいな新人には〝まだまだ〟早ぇな。


エッシェン:チッ。


マシュー(GM):まだ皆実績が無いんでな。ほぼ無職相手じゃあ、交渉材料になる要素はねえってこった。


エッシェン:あーなるほどねー。それなら仕方ないでち。でも飲食向こう持ちなのは有り難いでち。


カイル:それを聞いて安心した(実家に仕送り中の苦学生的心情/属性・善)。


スヴェン:いいモン食おうぜ(経費で外食する社会人的心情/属性・悪)。


ヴェロニカ:やったでち。


エッシェン:ちょっと待つでち。さっきから皆に僕の語尾が伝染ってるでち。僕のアイデンティティが崩れるでち。やめるでち。


ヴェロニカ:パンデミック!


 ちょうどこのセッションの前に遊んでいたのがパンデミックというボードゲーム。CDC職員となって世界中に広がっていくウイルスを撲滅するために協力していくゲームだ。まだコロナ流行前の収録だったので、まさか現実世界でパンデミック体験することになるとは、この時は誰も思っていなかったのである。

 ともあれ、冒険者一行はハーヴェスから旅立ったのであった――。

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