Ⅲ:two

待ってたよwaiting for you

「…」

 あの日。

 君がそこにいた日。

 僕は思わず固まってしまった。

 考えるべきことが多いが、考えること自体ができない。

 思考が止めるno think。というのはこういう感覚なのか。

「どうしたの?」

「・・・いや」

 それに構わず、芭乃は寄って来た。

「どうしているの?」

 何とかまず、最初の疑問を口にした。

「ちょっと聞きたいことがあって。」

「なら、学校schoolで聞けば…」

「ううん。正確には、君に聞きたくて」

 と、壁を指した。意外にも問いかけgraffitiはまだ健在だった。

 問う者askの方、という事か。

「じゃあ…」


 ∧


 僕はその壁の方に立ち、改めて聞いた。カッコつけた訳ではなく、あの立ち位置では、君が犯人askに見えてしまうと思ったからだ。 

 君は、満足したような顔を浮かべる。

「最近はやってないの?」

「やってないって…」

 何かを察し、壁を振り向く。確かにここが最後だ。

「どうして?」

「いや、そう言われても…」

 

 素直にそう言うのはさすがに恥ずかしい気がする。いや、めちゃくちゃ恥ずかしいかもしれない。

「やっぱり、わたしのせい?」

「え?」

「わたしが描いてるとこ見つけちゃったから?」

 そう考えていたのか。

「もしかして、それを確かめるためにここに?」

「うん。ようやく来てくれてよかった」

「今日だけじゃないの?」

「5日目になるかな?今日で」

「それは、ごめん」

「謝んなくていいよ」

「それは君もだよ。君のせいじゃないから」

「ありがとう。それと、芭乃はのって呼んで」

「え?」

野ノ波ののはじゃなくて、芭乃はのの方ね」

 女の子を、名前で呼ぶのか。

「じゃあ…芭乃はの

「なぁに?」

「何でもないよ」

 恥ずかしいな。

「で、今日は描くの?」

「え。いや、しばらくは描かないかも」

「どうして?」

「ちょっと。周りの目lookoutが増えてきてさ」

 デタラメにならない程度に、適当な言い訳を言った。

「そっか。ちょっと残念…」

 女の子にがっかりされるのは正直心が痛んだ。でも、それ目的で問いかけgraffitiが浮かぶほど僕は器用geniusじゃない。


 ∧


「じゃあ、巡礼pilgrimageしよう」

「は?」

「ほら。映画とかの撮影で使われた場所に行くの。あれって巡礼pilgrimageっていうんでしょ?」

 聖地巡礼の事か?

「まぁ、言うかな」

「それやろう」

「やろうって。どこ巡るの?」

「君が問いかけgraffitiを描いた場所」

「え?」

 あそこは、聖地じゃなくて犯罪現場なんだけど…。

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