第二話 魔女の一族と魔道具

魔女の一族と魔道具 1

 ――今、私は夢を見ているようだ。

 私が箱守家に引き取られたばかりで、家に馴染めず、与えられた部屋に閉じ籠っていた頃の夢。視界は白く霞がかかったように白濁してはっきりとは見えない。

 することも無く、ただダラダラと窓の外を眺めている。


 部屋から見える庭先の奥の方。

 白い小屋があり、そこに意識が吸い寄せられた。

 段々と指先から力が抜けていくような感覚。


 抱きしめていた一番大切なぬいぐるみを落としてしまったことも、ちっぽけで些細なことに感じる。

 身体が言うことを聞かず、足が勝手に動き出す。

 ふらふら、ふらふらと、私の意志とは関係なく、右足、左足、右足、左足。

 勝手に動く不思議な足を、ただ目で追っていた。


 ふと気が付くと、先ほど部屋から見えた白い小屋の扉の前に立っていた。

 ドアノブに手をかけると、ギギっと音を立て扉が開く。


 また勝手に足が進む。薄暗い小屋の中を、右足、左足。

 小屋の一番奥の、モスグリーンの布が垂れ下がった壁の前で立ち止まる。

 右手が勝手に、その布を除ける。


 そこは床の間のように窪んでいて、大きな箱が置かれていた。

 箱には白い梟の絵が描かれており、その目がジッとこちらを見ているようでとても怖くなった。

 だけど私の右手は、その箱の掛け金に触れてしまった。

 箱を開けると、中にはもう一つ、小さな箱が入っていた。

 色とりどりの石で装飾してあって、すごく綺麗だった。


 手に取ってまじまじと箱を見てみると、蓋にローマ字でも日本語でもない文字が刻まれている。

 人差し指でその文字をなぞると、ジリッという音と共に激しい衝撃が体を走った。

 あまりの痛みに、思わず箱を落としてしまった。


 すると、箱が空き、中からカメオが出てきた。

 そのカメオを持ち上げると、青白く光を放ち始める。

 光はどんどん強さを増し、部屋一面を青く照らす。


 その時、カメオがどろっと溶けたように見えた。


 まるで真夏のアイスクリームのように、掌で液状になり、指の間からこぼれそうになる。

 それを掬いとるため反対側の手をかざすと、こぼれかけた液体が跡形もなく消えていた。


「ひばりちゃん! どこに行ったのー!」


 誰かの声が聞こえる。

 誰の声だっけ?

 優しくて、ふんわりしてて、とってもあったかい、声。


 あぁ……眠たい。 今にも寝ちゃいそう……。


 ―クスクス


 誰かが笑ってる。痛い。笑い声が響いて頭が痛い。震える。眠い……。


 ―会えてよかったわ。おやすみ、魔性の子。


 そっと耳に口づけるような、甘く響く声に誘われるように、私は意識を手放した。

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