寄り道~とある峠のバイク乗り外伝~

もてぎ

雨宿り

 いつもの道の駅で、和也はアイスクリームを食べていた。

 もちろんバイクで来たのだが、天気がよろしくない。道の駅に着いたとたんに土砂降りに変わってしまった。天気予報では確かにそのような兆候が見て取れた。和也が住んでいる東京方面はまだ晴れマークが続いていたのだが、今いる道の駅の方面は降水確率がかなり高かった。

 それでも、何とかなるやろ、と軽い気持ちできた結果がこれだ。天気予報はそれなりに信用した方がいいという事だろう。

 バイク乗りの姿はちらほらいるが、みんな合羽を着て帰る支度を始めているようだ。当然、合羽など常に持ち歩いていない和也は雨宿りで時間を潰すしかない。

 そして和也の横では、同じように合羽など持っていない女性が同じ種類のアイスクリームを頬張っていた。

「雨、止まないねぇ・・・」

「そうっすね・・・」

 Tシャツの背中側に『一匹女狼』という文字を背負った女性は、使い込んだのであろうレーシングつなぎを着ている。

 今日は早朝から走りに来ていたという彼女だが、和也と同じように天気予報を甘く見ていたのだろう。アイスクリームを頬張って時間を潰す。

「しりとりでもする?」

 彼女が唐突に提案する。

「いい大人がする話ですかねそれ」

「私まだ学生なんだけどなぁ」

「まぁ、似たようなものじゃないですか」

 二人の目の前を親子が走り抜けていく。傘はさしていないので、店舗に入る前にずぶ濡れになってしまいそうだが、それでも小さい女の子は楽しそうに父親の手を引いていた。

「じゃあ、私からね」

「はい」

「バイク」

 バイク好きな彼女らしい最初のワードだった。

「ク・・・クルミ」

「ミルク」

「またクですか・・・」

 雲の間から時折、細い日の光が差し込んでくるが、それも一瞬だ。すぐに厚い雨雲に覆われる。

「クワガタ」

「タイマン」

「・・・」

「・・・」

 自分から始めて自分で終わらせた。早速飽きたのか、それとも思考停止していたのかは分からないが、しばしの沈黙の後、彼女は残っていたアイスを食べ始めた。

「止まないっすね・・・」

「そうね・・・」

 二人して黙々とアイスを食べ続けた。

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