第19話 宴の時のリュース公

ふと エリンシア姫は リュース公での宴を思い出す


リュース公の城は 湖畔に浮かぶ美しい城・・


水竜が大きな水音を立てて泳いでいるのが バルコニーからもよく見える


宴は多くのリュース公の縁りの者達や友人の貴族などが集まり

エリンシアが思っていた以上に 華やかで賑やかであった


一人娘・・未来の女侯爵は 利発で活発

多くの大人相手に 物おじもせずに会話を楽しんでいる


宴のご馳走は 湖畔でとれた魚やこの地 地元の果実に 鴨などの肉料理

それに白の国の食材を使った白の国の料理・・。


リュース公が少し離れた場所に一人立っていたエリンシアに近づき話しかけてきた


「どうぞ 楽しんで下さい エリンシア姫

ちょっとした昔話などでもよいですか?」


「はい・・」エリンシアは 美丈夫で金の髪のリュース公に答える


「実のところ 私は白の国の血が濃くでて、子供の頃は両生体だったのですよ・・。」


「そうなんですの?リュース公様」驚くエリンシア


確かに 白の国の者は 2人に1人が両生体で生まれる・・この方も・・とは


「20歳上の兄がいたので、私は女性になるように勧められて よくドレスも纏ったものです・・」


この美しい顔立ち 美しい金の髪に青の瞳、すらっとした身体・・

さぞや 美しい少女の姿だったのだろう・・。


「一時は 当時まだ王子だった 黒の王に乞われて 側室候補にもなった事もありましたね」


「彼とは 一時 恋人同士だったことも・・」


含み笑い・・それから

肩をすくめて 続けて話を続ける


「なにせ 大貴族とはいえ 多くの白の国の血を引くリュース家・・

この黒の国では 微妙な立場でね・流石に黒の王妃候補にはなれませんでした・・・」


「残念ながら10歳年上の兄が先の戦いで死んでしまったので 

私は男性の性を選び、このリュース家を継ぎました。」。


戦の間も白の国と親交もある 

間を取り持ち 最初の使節の役目はリュース家の者が

選ばれるが


よくよく 黒の国には使い捨てにされて 

その上 時の白の宗主が気の荒い者だった時に 使節の者が処刑された事も」


「・・初代の頃の御話 

数百年前のヴァルーダ王と

ヴァルジニテ女王の頃の話も有名ですね


ヴァルーダ王と当時のリュース公、双子の兄弟が最初の平和条約を結びましたが

条約は破れ 白の国に人質としていた弟のワイア伯爵は処刑されました」


「第二回目の条約は300年前 水の女王エルテアと火焔の王アジェンダ王の時代

あれも悲劇に終わりましたね」


「・・・・・」

「当時の白の宗主シューツオンは人質の姫を惨殺

黒の国だけでなく 自国の白の国も大変な被害を与えました

無数のケンタウロスや貴族達の処刑 街の幾つかが滅び去りました


白の国の始まりの地

美しい始まりの地は灰燼に還りました とても悲しい出来事です」


「その後 幾たびも条約は結ばれ また破られて

ようやく こうして長きに渡る結びつきが出来ました


ずっと平和が続く事 先達たちの努力の為にも 未来の為にもと思いますわ」

しばしの沈黙の跡 思い切っての発言をするエリンシア



「そうですね・・ですが 私は 今は別の事を心配してますよ」


「エリンシア姫・・貴方も よく気をつけられる事です

貴方は優しい大変良い方だ


黒の王にも黒の王妃達にも 彼らは貴方を気にいっている

黒の王女テインタル姫も貴方を慕ってると聞いてます

ですが・・」


エリンシアの瞳をじっと見つめて

声をひそめて話をする


「エリンシア姫・・黒の王と深い関係を持ちましたね・・

黒の王 本人から聞きました 何かあれば 昔のよしみで 庇って欲しいと頼まれました・・。」


「本来は優しい気性の黒の王妃アリアン様・・だが・・しかし

事が 黒の王との事になると また別だ・・


あの方は 黒の王を愛しすぎている・・そう狂った程にね

そう・・狂ってる・・」


「あの御方が アーシュラン王子に 

どうような態度で接していたかなどご存じない


花瓶をぶつけて 

軽いケガを負わせたり テインタル王女がアーシュラン王子を慕っていたので

よく遊んだり話しかけていたりしたのだが


ある時に我慢出来ずに 突然 王子の頬をぶったり

背中を押して階段からから突き落としたりした


何故か王子アーシュラン殿は 

それでも黒の王妃を慕っていたようだが

寂しげな表情で よく黒の王妃を見つめていたものです


以前少し前の事ですが 黒の王子アーシュラン殿が 滞在先の白の国の城で

何者かに襲撃されて 危うく殺されそうになった御話はご存知ですか?」


「はい 義兄からの便りで 存じあげております


人質として 滞在しているのは 私の義兄の城で 腕を折られて、危うく首を切り落とされそうに

なったところを 護衛の兵士が発見して 事なきを得たのですが

ちょうど 義兄の子供のエイル、エルトニアも傍にいて 軽いケガをしたとか・・」


「真犯人・・黒幕は誰だと思いますか?」とリュース公


「え? 黒の国の反乱分子ではないのですか?」


「いいえ 真犯人 黒幕は 黒の王妃アリアン様です」


「なん・・」

となんですってと叫びかけたのを見て サッとエリンシアの口元に

手をやり 黙らせる


「お静かに」微笑むリュース公


「あの御方は 嫉妬深い・・そして黒の王の事となると見境もなくなる

先程も申し上げましたが 愛しすぎて・・少々狂っている


残念ながらね」


「・・・何故?何故そんな話をされるのですリュース公」エリンシアは問いかけた


「貴方の為ですよエリンシア姫 

 お気をつけなさい・・


黒の王の情人となった事を黒の王妃が知れば 

貴方の身にどんな事が起こるか」


「それから 覚えておいて下さい 黒の国やって来た白の国の者を庇うのは

代々の先代から続くもの もはや使命・・宿命 運命なのです


私は 貴方の味方です そう・・そして、もし・・?」


「もし?」エリンシア


含み笑いをするリュース公


「私も貴方の事を 大変良く美しい方だと 本当に思っておりますよ

いざとなった その時には・・きっと」


「そうですね

娘のアルテイシアも貴方なら 受け入れて気にいるでしょう」


「え?」エリンシア


「ふふ その時には貴方にもわかりますよ」意味ありげな笑み


「・・それから ヴァン伯爵には 会われましたか?」

微妙に硬い表情でリュース公は問う


「あ、はい 先月の宴でお会いしました 

広大な領地をお持ちで 影響力の強い黒の大貴族の御方」


「黒の王妃アリアン様とは従兄同士ですし・・ね」リュース公


「はい その事も聞き及んでおります」


「あの御方には くれぐれもお気をつけて

王妃とは違った意味で 危険な方です」


「・・・・」


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