第21話 ドリューとホーク その1

「そういうことさ。暗くて中はよく分からなかったけどね――小さな岩があったんだよ。

 恐らく、おいらが飛び込んだ山の中の、さらに奥の方へ続いている伸びた岩だと思う。

 この山にとって、噴火っていうのはただの爆発なんだ。溜まりに溜まった空気を圧縮し、外に飛ばして、すっきりさせる。溶岩なんて存在しない。そういう世間一般に浸透している山じゃない――、そういう山は、現在、海の中に沈んでいるわけだし」


 ちなみにこの山は人工的に作られた山である――、だから噴火など、百年単位でしか起こらない。もしかしたら製作された時から後々、手が加えられて、百年単位以上の期間を空けて、噴火するようになっているかもしれないが。


 だとしても噴火をしないという設定にはできないのだ。

 してはいけない――という理由から、できない。不純物を溜まったままにすれば、山はいつか死んでしまう。百年単位で、易々と山を一つ、死なせるわけにはいかないのだ。

 だから、噴火機能はつけておかなくてはいけない。


 だからドリューはそこに目をつけた。

 噴火のスイッチ、とでも表現しようか――。

 そのスイッチの機能を担う、きっかけと言える岩に目をつけた。


「なぜその岩が噴火のスイッチになるのだと気づいたのか、疑問は残るが――、

 それを説明している暇はなさそうだな」


「別に説明できるけどね――おいらの糸は使い勝手が良い。

 縛る掴む引っ張る叩く撃ち抜く以外にも【探索】できる機能があるんだよ。まるで、おいらの手足のように感覚を敏感においらに伝えてくれる。壁や地面を貫き、山の中のさらに奥へ糸を潜らせて、おいらはその岩がスイッチになっていると、感触で気づいた」


「感触で、か――」


「信用できないのなら、それでもいいけど、ここで疑ったところでなにも得はないぞ」


 ドリューに言われて、まさにその通りだと思ったホークは疑うことをやめた。

 ドリューが嘘を言っているようには思えないし、ここで嘘を言って、ドリューに得があるとは思えない。こうして危険を伝えてくれているわけなのだから、彼にホークを騙して、始末してやろうという気はないのだろう。


 このまま一緒に行動して、役に立てるとは内心、自分では思えないが。


 彼なりの、ホークの使い道でもあるのだろうか。


「信用してくれたみたいで安心したよ。……さて、ここで始めに言った結論に戻ってくるわけだが――もう分かったんじゃないかな? おいらはその核となる岩とアメンボを繋げた。

 アメンボの動きによる振動を、きっかけとなる岩に伝えて、そこからさらに山の奥へ伝えて、山にある程度の衝撃を、小刻みに与えている――というわけさ」


「小刻みに衝撃を与えて、本来ならば百年……、さらに数百年とかけて与えていく衝撃をこの短期間で与え、噴火を早まらせる、というわけか」


「そういうこと……そういう、予定だったん、だけどね……。

 さっきのアメンボの固定があんなに早く終わってしまうとは思わなかった。本当なら、もっと足止めしておくつもりだったんだよ。そうすれば、おいら達は安全にこの島を出られて、おいら達が脱出した後、時間差で噴火し、アメンボを破壊することができた。

 でも、固定が早まってしまうということは、その分、アメンボは中途半端に離れたおいら達を追おうと、速度を上げるだろうし、衝撃も増えると思う――。

 となると噴火も早まってしまう。おいら達が脱出する前に、噴火してしまうことになる」


 あくまで仮定だけどね、とドリューは言うが。


 その仮定はあまりにも、現実に起こりそうだった。


 現在、山の揺れ、島の揺れは、さっきよりも激しくなっている。

 ホークは座っているにもかかわらず、上手くバランスが取れていなかった。

 ドリューは自慢の糸でどうにかバランスを取って、戦車の上を立っていられているが、バランスを取ることにいつまでも集中力を使うことはできないだろう。


 今すぐにでも噴火しそうな揺れだった。

 そして、噴火という危険が迫っていながら、アメンボはホーク達を押し潰すことに遠慮をすることはがい。さっきよりもさらに速度を上げて追いかけてくるアメンボは、戦車のもう、すぐ後ろまで来ている。


「拳銃だけじゃどうにもできないよな――この揺れじゃ、照準も合わない……!」


「拳銃での応戦なんて考えなくていいよ。ここからは手を組もうじゃないか、ホーク」


「……なにを考えてやがる……ドリュー。

 言っておくがお前と俺は敵同士だ、それを忘れるな。お前が俺をこの危機に乗じて殺そうとしているのなら、それが分かった時点で、お前の提案した策からは降りるからな」


「それができればいいけどね――おいら達は今のところ、一心同体のように危機を共有してるわけだけど……って、冗談。そんな怖い顔をしなくとも大丈夫だよ。別に、この危機に乗じて殺そうだなんて思ってない。確かに任務を達成させるためには邪魔で仕方ないけど、だからと言って利用しないままに殺すには惜しい――それだけの価値はある」


「まあ、ここをどうにかしない事には、前に進めないのは変わらない――」


 それに姫様を助けるには、ドリューと協力をしてこの危機を抜け出すのが一番安全だ。


 そう考えたホークは、実際に伸ばされたわけではないが、協力するという意思表示として、空想の中でドリューの手を握っておいた。


「安心しなよ――君にも役目はある。それはわりと重要なものだ」

「……それは?」


「おいらを支えてろ。それに失敗すればおいらは死ぬし、同時に君もお姫様も、死ぬ」

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