第31話 久我山茜 その7

『おいおい、主様。オレを都合の良い乗り物かなにかと勘違いしてやいないかい?』


「いちいち絡んでこないでくれるかな。そりゃ、呼んだのはわたしだけどさ――。今は一刻も早く『ドロップ・カンパニー』に行きたいのよ。

 喋っている暇があるなら、もっと速度を上げてほしいんだけど」


『それはできない相談だな。速度はこれ以上は上げられない。最高速度でこれだ。そして、オレは運転に気を遣うことがない――つまりは、暇だ。

 着くまでの間、色々と話をしようじゃねえか、主様。聞きたいことは色々とあるんだぜ――。

 まあ、ともかく、まずはおめでとうと言っておくよ。

 ようやく呼び出すことができたじゃねえか、式神をよ』


「式神のくせに、偉そうに……」


 思わず、怒りを含んだ声になってしまった。

 相手は式神だ、抑えろ抑えろ、と自分に言い聞かせる。


 目の前にいるのは、赤い――小鬼。

 丸い玉の形に手と足と羽がついている――、

 誰も彼もが抱いている鬼のイメージとはかけ離れたデザインをしていた。


 小鬼――赤鬼は、お母さんがわたしにくれたお札、その中に入っていた式神である。

 さっき、お札を抱きながら念じてみたところ、いきなり、お札が光り始めた。

 そして、お札の中から、こうして赤鬼が出てきたというわけだった。


 今は、赤鬼自身が持っている術によって出てきた、凸凹な道でも問題なく進めるような大きな車に乗って、ドロップ・カンパニーに向かっているわけである。


 ちなみに、お札からはもう一体の小鬼が出てきた。――青鬼である。

 彼には、倒れている和実の保護を頼んでおいた。

 性格的に、この赤鬼よりは生意気ではないので、信用はできるだろう。


 しかし――赤鬼がいきなり、言う。


『あ――主様。青鬼の奴、和実嬢ちゃんを見失ったらしいぜ』


「唐突! ちょっと待って、どういうことなの!?」


『あー、理由がしょうもねえなあ……』


 言いにくそうにする赤鬼。いいから、早く。


『まあ、一応、言っておくと――ちょっとぼーっとしている間に、スーツを着た怪しい男たちに、あのお嬢ちゃんが攫われたらしい』


「――あいつ、本当になにしてるのよ!」


『まったくだな』


 赤鬼に同意された。赤鬼と青鬼は、双子みたいなものだ。

 だから似ているところが多い。なので、青鬼がそんな失態をした、と知ってしまったら、赤鬼もなにかしでかすのではないか、と思ってしまうのだけど……。

 というかお母さん、もっとマシな式神を渡してよ!


『けど、その攫った男たちの車に、あいつは引っ付いているらしい。そんで、行先はオレたちと同じ、ドロップ・カンパニーなんだとよ。どうやら、ただ単に回収しただけ、らしいな。

 動けなくなったものでも、ロボットだ。

 相手側の技術力が詰まりに詰まっている。そう簡単に、野放しにはできねえだろ』


「まあ――そうだけど」


 和実の中にある支配権は、今はドロップ・カンパニーの社長が握っている。

 その権利を和実に戻そうと今、本社に向かっているのだった。


「――その男たちと、わたしたち、どっちが早い?」


『まあ、オレたちだとは思うがな――』


 ただ、と赤鬼は付け加える。


『このまま、本当に本社に行ってくれればいいんだが――』


 可能性を示す。確かに、それもある。

 まったく別のところに行かれたら、たとえ権利が和実に戻ったとしても、わたしは和実と会えなくなってしまうかもしれない。

 でも、最悪、それでもいいと思っている。

 まずは、和実が自分の意思で動けること――これが重要だった。


 和実が生きていることができれば、いつでも会えるだろう。


 だから、今は――。


「……このまま、ドロップ・カンパニーに、真っ直ぐ進む。分かった?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る