九通目 君に送る最後の食レポラブレター

 私は蛍君に謝ろうと決心して学校に投稿してきた。お気に入りのピン留めをして蛍君のくれたレモンラムネを食べて気合は充分ある。しっかり謝っていつも通りに接しよう。そう意気込んで下駄箱に手を入れた。するとカサッと音がして、手紙があることに気が付いた。それを引き出して見るとやっぱり蛍君からで少し安心した。それを持って教室に行った。



『 さくらさんへ


 放課後、屋上に来てください。待ってます。


                  K   』

 の一言だけ。少し心配になった。普段長文書いてくれるのに。まぁ、今更返事したって蛍君が困るだけか。そんな事を思いながらも私は諦められなかった。放課後……長いな…………。



 教室に来てすぐ、琢磨君に呼び止められた。

「どう?大丈夫そう?」

「え!?何が?」

 琢磨君は笑いながら言った。

「蛍永の事。」

「なんで知ってるの?!」

 私、智也にしか相談してないのに。智也まさか言った!?いや、そんな奴じゃないと思うけど。そう、戸惑っていると琢磨君は笑いながらスマホの画面を見せながら言った。

「智也と間違えてたよ。」

「!?ごめん!!」

 そう言うと 「いいよ。」と言ってスマホをポッケにしまった。

「それよりさ、俺、覚える?」

「……?」

「覚えてないよね。」

 そう言って琢磨君は苦笑した。どうして、琢磨君がこんな苦しそうな表情をするのかわからなかった。

「ならいいよ。思い出したら俺の話も聞いてね。桜薇。」

 琢磨君が私の名前を呼び捨てする事に違和感を感じなかった。





 時間が進むのがやけに早く感じた。もう放課後。急いで屋上に向った。すると、誰かにぶつかった。大きな誰かに。尻もちをつくと誰かが綺麗な白い手を差し出してくれた。「ありがとうございます」と言いながら握って上を見て驚いた。

 そこのいたのは無表情であり透き通る純黒の瞳、短い黒い髪。私の“好きだった”人。 

「神原…先輩。」

「なんだ。」

 凛とした低いハスキーボイス。私は立ち上がるとお辞儀した。

「ごめんなさい!」

「そう、謝んなよ。こちらこそごめん。」

 少しばかり笑って見えた。でも、足は屋上に向いていた。

 あぁ…私、本当に蛍君が好きなんだ。

「嬉しそうだね。」

「はい!いいことがありまして。失礼します。」

 そう言いながら私は笑って屋上に向った。蛍君を好きだと知ってから見る世界は今までと全然違っていた。眩しくて苦しくて愛おしい。


「待たせてごめんなさい!」

 そう言って、屋上の扉を開けた。そこにいたのは高身長、かっこいい蛍君だった。目を細めて私を見た。

「呼び出してすみません。直接会いたくて。」

 心臓の音が煩い。私は今にも破裂しそうな体と頭にで一生懸命蛍君の言葉を受け止めた。

「その…。手紙じゃ伝わらなかったけれどこれ、受け取ってもらえませんか?」

 そう言って、私に手紙を渡した。蛍君の赤い顔は今にも破裂しそうで私までも緊張してしまった。 


『 さくらさんへ

 

 俺はさくらさんが好きです。愛してます。きっと、誰よりも。優しくて面白くて可愛くてよく食べるさくらさんが大好きです。


 入学式の時の一目惚れから今があるのが幸せです。何度もご飯行って笑ってくれました。最終的に誘ってくれました。こんなにも幸せになっていいのでしょうか。さくらさんと食べるご飯は美味しくて幸せでした。さくらさんの隣ならずっと笑っていられるようなそんな気がしました。さくらさんは俺から離れないでくれました。手紙だって読んでくれました。こんな恥ずかしいポエムみたいな手紙をさくらさんは読んでくれました。そして、今だって俺のところに来てくれました。

 俺は幸せ者です。


 さくらさんよりも小さくてダサくて情けないけれどさくらさんの思ってるよりも俺はさくらさんを愛してます。



 こんなかっこ悪い俺でよろしければお付き合いしていただけないでしょうか。


                “K”    』

 

 ブワッと大量の涙が溢れた。歪む視界に映る蛍君は顔を真っ赤にしていた。

「…ゔぅ……Kぐぅん…!」

「なんて顔をしてんですかぁ。」

 蛍君もね。すごく赤い。私は、嬉しくて泣いた。

「でも、私蛍君みたいに優しくないしぃ…また蛍君に酷い事をしちゃうかも……。」

 蛍君は泣く私と裏腹に笑って言った。

「その時は俺が受け止めま…すよ。」

 かっこいい事を言おうしていたが恥ずかしかったのか最後の方は声が小さくていた。赤面症は治らないね。私も少し笑って言った。

「私でいいなら。お願いします。」

「手紙の裏見て。」

 蛍君は手紙を指差して言った。私は言われた通り裏を見た。

 驚いた。


「蛍君って案外ロマンチストなんだね。」

 私が笑いながら言うと顔を赤くして両手で覆った。まだ乙女さは抜けていないのね。 

「そういうの言わないでくださいよぉ…。」

 茜色の夕陽が照らす空の下私は人一番幸せに笑っていた。




『君に送る最後の食レポラブレター』






 


  


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恋する食レポラブレター 桐崎 春太郎 @candyfish

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