第23話【王女殿下への料理指導と国王陛下の思惑 その一】

「それではメイシス王女殿下。よろしくお願いします」


 お辞儀した僕にメイシス王女殿下は優しく答えた。


「はい。こちらこそよろしくお願いします。

 今回は私が錬魔士さまの講義を受けるのですから王女殿下は必要ありませんので『メイシス』とお呼びくださいね」


 いきなりの言葉に思わず国王陛下の方を見ると国王陛下も頷いていた。


『ふぅ。仕方ないか・・・』


「分かりました。しかし王女殿下を呼び捨てには出来ませんので『メイシス様』と呼ばせて頂きます」


 僕の言葉に少し嬉しそうな顔をしたメイシスだったが直ぐに真剣な顔になり、王女としての凛とした振るまいになった。


『さすがは王族だ。良い教育を受けているな』


 僕は感心しながらも講義の準備をしていった。


「それではメイシス様。

 まずは貴女に錬金術の素養があるかを確認させて頂きます。

 シールあれを出してくれ」


「マスター。了解なのだ。

 えーとアレは収納のどこにしまってたかな。

 ああ、あったこれなのだ」


 僕はシールに出して貰った真っ白な球体をテーブル上に台座と一緒に置いてからメイシスに説明した。


「この球体は魔力を測定する道具です。

 今は白色をしていますが触った時に色が変化します。

 その色によって魔力の属性が分かるようになっていますので適正の有無が判断出来ます。

 ちょっと試してみましょうか。セジュちょっとこれに手を置いてみてくれないか?」


「了解です。マイマスター」


 僕の指示でセジュが球体に触れると白色が濃い緑色に変化した。


「セジュの魔力属性は複数あるんだけどその中でも特に風属性に特化しているのと、魔力量が多いから濃い緑色になった訳なんだ。

 ちなみにミスドは魔力量が精霊にしては少ないから淡い赤色になるんだ。

 とりあえず危険はないから気楽に計測してみましょうか?

 あ、ちなみに魔力適正がない場合は白色から変わりませんのでそのときは普通の調理コースにしましょう」


 セジュが触った緑の球体は僕がリセットさせて白色にしてある。

 メイシスの魔力を測定で変わる色があるならばそれが適正な属性だと言える。


 メイシスは頷いて右手を球体の上に持っていきソッと触れた。

 皆の視線が球体に注がれ、息を飲んで色の変化を見守った。


「あっ!色がついてきましたわ!」


 メイシスの声に皆が球体に視線を向けると白色の球体がぼんやり紫色に光り始めたのがわかった。


『よりにもよって紫色か。まさかこんな所で見るとは思わなかったな』


「それで、紫色の場合どうなんでしょうか?」


 メイシス王女が期待しながら僕を見てくるので仕方なく色についての説明をすることにした。


「まず、色がついた時点で魔力が一定量体内から放出されていることが分かります。

 色については『赤色』が炎属性。『青色』が水属性。『緑色』が風属性。『茶色』が土属性。

 に強く適応しているのですが、例えば緑色でも風属性しかない訳ではなく実は複数の属性を持つ人も居ますので訓練次第で上達出来る場合もあります」


「それで、私の紫色はどんな属性になるのでしょうか?」


 僕は国王陛下をチラリと見てからメイシス王女に向き直り質問に答えた。


「紫色は『錬金と治癒』の属性ですね。

 普通の人が持つには特殊な複数属性素養になります。

 ちなみに『錬金』だけの属性は黄色になりますのでおそらくスプルスさんは黄色になるかと思われます。

 試してみますか?」


「はい。是非お願いします」


 スプルスは再度リセットされて白色になった球体に手をのせた。

 予想どおり球体は黄色に輝き始めた。


「やはりスプルスさんには錬金術士としての素養がおありですね。

 まあ、王宮付きの錬金術士で素養がないはずがないですけどね」


「ありがとうございます。

 しかし、このような魔道具で確認したことは無かったので少し驚いたのと今の職業に誇りを持ってやってきたのが間違いじゃなかった事嬉しく思います」


 スプルスはお礼を言うとララとの料理錬金の講習に戻っていった。


「さて、メイシス様。あなたの魔力属性は『錬金と治癒』と言いましたが今までに魔法を使った事はありますか?」


「いいえ。ありませんわ。

 私の両親とも魔法を使う者はおりませんし、なぜ私に魔法の素養があるのかが不思議なのですが……」


 普通、魔法の素養は遺伝的なものが多く突然能力開花する事は稀であった。

 今回の場合は考えられる事が3つあり、ひとつは王族であるがために代々魔力の調査をしなかった可能性。

 もうひとつは今の両親は遺伝しなかったがさらに上の代からの隔世遺伝の可能性。

 最後はとても国王には聞けないが腹違いの娘の可能性。

 まあ、とりあえずやんわりと国王陛下に聞くとするか。


「国王陛下。一般的に魔法素養は遺伝によるものが多いのはご存知だと思いますが国王陛下および国王婦人に魔法素養があると聞いた事がありません。

 しかし、メイシス様は明らかに突然能力開花の域を越えた素養をお持ちですので何かご存知ではないでしょうか?」


 僕はなんとなく答えは分かっていたが敢えて国王陛下の言葉を待った。


「隔世遺伝じゃろうな。公にはしていないがメイシスの母エリスの父親は冒険者をやっており、治癒魔法の使い手じゃった。

 しかしエリスには遺伝の兆候が見られなかったので特に訓練もしなかった。

 縁あって私の側室となったが元々それを期待しての婚姻では無かったので失念していたのだがまさかメイシスに隔世遺伝されていて治癒属性だけならまだしも錬金属性まで覚醒していたとは驚きだ」


 国王陛下の推測はおそらくあっているのだろう。

 隔世遺伝はこの世界では珍しい事ではなく、複雑に絡み合った遺伝子が突然開化する時は基より上方修正される場合も多々あるのである。


「お父様。メイシスはそのような話は伺っておりませんでしたわ。

 そうですか、私のお祖父様からの……」


 メイシス王女は胸の前で手をあわせて目を閉じて祈る仕草をした。

 おそらく祖父に感謝しているのだろう。


「背景は分かりました。

 しかしメイシス様は今まで魔力操作の訓練をされてはいませんのでいきなり治癒や錬金魔法を使う事は出来ないでしょう。

 今回は普通の調理で対応して、王宮付きの錬金術士スプルスさんも居る事ですから錬金術の基礎と魔力操作の基礎を教えてもらうと良いでしょう」


 僕がそう答えるとメイシス王女は急に悲しそうな顔になり僕に訴えてきた。


「錬魔士さま。私は錬魔士さまから講義を受けたく思います。

 スプルス殿が悪いではありませんが、今回私の魔法素養が分かったのも錬魔士さまのおかげです。

 この縁を大切にし、人々の上に立つ者の義務として与えれた能力ちからを十分に発揮して民を幸せに導ける者になりたく思います」


「錬魔士殿。メイシスは正しいと思う事は一度言い出したらなかなか意見を取り下げない芯の強い娘じゃ。

 今回の依頼とは別に追加依頼で娘の家庭教師を受けては貰えまいか?」


「家庭教師ですか……。

 一応確認しますが王宮付きの宮廷魔術師や王族や貴族の子息を教える家庭教師は当然おられると思いますがそれでも私に依頼されるのですか?」


 正直あまり乗り気のしない依頼だ。

 魔法の家庭教師は生徒の資質によって結果が大きく変わるので簡単に引き受けると痛い目をみる可能性が高いし、そもそも僕は王族や貴族など特定の権力者とは懇意になりすぎないようにしている。

 僕の知識と精霊達の力が高すぎるし、僕を味方につければ精霊達が付いてくるので他方への抑止力になるからだ。


 だが、今回の依頼者は国王陛下だからあまり波風を立てたく無いのも本音だ。

 まあ、権力で強制してきたりしたらすぐに別の国に移動するだけど。


「私が錬魔士さまに教えて貰いたいと言うだけでは駄目なのですか?」


 メイシス王女が真剣な眼差しで正面から見据えながらお願いしてくる。


『ふぅ。正直弟子はララだけで十分なんだけどな。

 それにしても第三王女とはいえ娘の家庭教師に一介の錬金術士をあてがうなんて普通は許可出来ないと思うんだけど』


 僕は国王陛下を見ると無意識に視線を反らす素振りを見せたので少しカマをかけてみる事にした。


「国王陛下。僕に何か隠していませんか?後で何か発覚したら僕はこの国に対しての支援を全て停止しますよ?」


「なっ。まっ待ってくれ!分かった!分かったから!」


 僕の言葉を聞いた国王陛下は慌てて僕に説明を始めた。


「実はメイシスの魔力属性については私は既に把握しておったのじゃ。

 それで折角の資質を最大限に伸ばしてやりたいと思う親心から出た事なんじゃよ」


『ふむ。一応理屈は合っているようにも思えるが、まだ何か企んでいそうな気もするんだよな』


「本当にそれだけな……」


「でじゃ。そこまで話したならばもうひとつ錬魔士殿にお願いしたい事があるのじゃ」


 僕が念を押そうとしたときに国王陛下が言葉を被せてきた。


「実は娘のメイシスを嫁に貰って欲しいのじゃよ」


「はぁっっ!?嫁!?」

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