第22話【王宮での料理錬金指導 そのニ】

「ではスプルスさんとララには同じ物を作ってもらいましょうか」


 僕はにこやかに二人を見ると予備の錬金釜をシールに出して貰い、チョコレートを錬金してみるように促した。


「分かりました」


「はーい任せてよ」


 二人はそれぞれの錬金釜に向き合うと素材の分量を計り次々と錬金釜の中に入れていった。


「出来ました」


「こっちも出来たわよ」


 料理錬金はレシピ通りに作れば失敗はしないと言われているだけあって二人とも見た目はチョコレートの形を取っていた。


「よし、それじゃあ味見をしてみますね。

 先ずはララの分から……うん。いいんじゃないかな。

 これなら及第点をやれるぞ」


「えへへ。私頑張っちゃいましたよ」


 誉められたララはちょっと照れ臭そうに髪をいじっていた。


「それでは次にスプルスさんの分を……うーん。一応チョコレートの味にはなっていますが味の深みが足りませんね。

 ノッペリした感じと言うかざらついていると言うか、ああキメの細やかさが足りないと言ったほうが分かりやすいですかね。

 ご自分で味見をされたら分かるかと思いますよ」


「……確かに自分の作った物は舌にザラつきが残りますね。何故でしょうか?」


「キメの細やかさの違いは錬金中の魔力操作にあるかと思います。素材と魔力液の撹拌かくはん作業をする時に流し込む魔力量が不安定だと出来上がりに差がでるものなんですよ。

 これは日頃から訓練してもらうしか無いので今はこれで良いですよ。

 後で訓練のやり方もレクチャーしますので」


「分かりました。ありがとうございます」


「とりあえずチョコレートは用意出来ましたので次はスポンジ部分を加えた完成形を作りたいと思います」


 僕はそう言うとララと交代して錬金釜の前に立ってレクチャーを始めた。


「スポンジ部分もチョコレートを作った時と同じでキメの細かい物を作るには魔力操作が大切になります。

 完璧は無理でも意識をして錬金をするだけでも結構違うものですから頑張りましょう」


 僕はレクチャーしながらもさっさと素材を錬金釜に入れてケーキを完成させていた。


「まあ、こんな感じになります。今回はザッハートールテと言うケーキを作ってみましたがレシピの一部を変える事で普通のスポンジケーキも出来ますので後でレシピの追加をしておきますね。

 それじゃあまた二人とも作ってみましょうか」


   *   *   *


 僕達が錬金術でケーキを作っている横の厨房ではミルフィによる通常調理によるチョコレートケーキの講習が行われていた。


「それではナリフさんチョコレート用の素材をこのすり鉢に入れて粉々に砕いて欲しいですの。

 それが終わったら調味料とこの蒸留水を加えて強火で液状になるまで撹拌します。

 ここをサボると舌ざわりが荒くなってしまいますので手を抜かないようにお願いしますの」


「わっわかりました。こんな感じで良いでしょうか?」


 ナリフはミルフィに説明されたように素材を調理していくが初めて扱う素材も多く、異様に固い実や手際の悪さで成分が分離してしまうなど悪戦苦闘していた。


「違いますよ。こうですよこう!あーそれだと風味が全部飛んじゃいますよ!」


『ミルフィは料理の事になると本気で容赦ない教え方をするからナリフさんも大変だろうな。

 まあ自分から教えて欲しいと言い出した訳だしあれだけしっかり教えれば大丈夫だろう』


 僕は自分のレクチャーをしながら横目にミルフィ達の講習も観察していた。

 ミルフィが暴走したら止めないといけないと思っていたが思ったよりもナリフさんが必死で食らいついているので任せることにした。さすがは王宮付きの総料理長だけあるな。


『さてと、こっちの二人は完成したかな?』


 僕は仕上げにかかっている二人のほうを確認して声をかけていった。


「どうだい?上手く出来たかい?」


「すみません。思うようにチョコレートの部分が固まらなくてスポンジ部分がチョコレートを全て吸ってしまいました」


「私は何とか出来たわよ。ちょっと形は変形してしまったけれど……」


 大体予想通りの結果になったな。ララも工房で特訓したんだから出来て当たり前なんだけどやっぱり緊張したのかな。


「まあ、とりあえず出来たようなので次のプリン・アラ・モードを作ってみましょう」


 後のサプライズをする時間がなくなりそうだったのでとりあえず次のお菓子を作ろうと素材を準備してるとそこへ。


「娘が参加している講習はこっちか?どんな調子だ?」


 突然入り口の方から数人の人影が現れたので皆が一斉に注目した。


「こっ国王様!なぜこちらに?」


「お父様どうなされたのですか?」


「いやな、錬魔士殿とその弟子が来城されているのとメイシスが講習に参加してると聞いてどうしてるかと思ってな」


「これは国王様。錬魔士のタクミでございます。

 この度は王宮からの依頼を頂きましてありがとうございます。

 こちらは弟子のララでございます。

 まだまだ錬金術士としては未熟ですが光るものを持っておりますゆえ、鍛えている所でございます」


「これは可愛いお嬢さんだ。こんなお嬢さんが弟子なら教えがいもあるんじゃないか?」


「ははは。まあ本人を前に言う事ではないかも知れませんが確かにそうかもしれませんね」


 僕は立場上国王とも面識がある。それは世の中に画期的な商品を数多く生み出したとして何度か褒賞を頂いたり、新しいアイデアに必要な許可を貰うために面会を申し出たりしたからである。


 基本的に僕の立場は何処にも属さない中立の位置付けにしている。

 国王でも僕を強制的に従える事はしない。

 どうしてかと言うと僕の傍には精霊達が控えているからに他ならない。

 無理を通せば壊滅的な被害を出した上に拠点を他国に移動されてしまうからである。


 そういう理由で表向きには国王に対して敬意を示す言動を心がけているが実の所取り立ててへつらう事はしないのである。


「ところで錬魔士殿。娘のメイシスにも作り方を指導して欲しいんじゃが。どうかのう?」


「お父様。先程から私も見学をさせて頂いておりますが初めて見る物ばかりでとてもとても私が出来るレベルではありませんわ」


「ふーむ。それは残念だ。確かに王族の娘が厨房に立って料理をするなど殆んど機会がないに等しいからのう。

 しかし、だからこそ錬魔士殿から教えて貰う料理やお菓子を修得できれば三月後に控えているメイシスの成人お披露目パーティーでの目玉の一つになるかと思ったんじゃがのう」


「メイシス王女様にケーキ作りの指導ですか……。

 それは隣でナリフさんが受けている普通の調理方法ですか?

 それとも僕が教えている料理錬金ですか?」


「メイシスに錬金術の素養があれば錬魔士殿の無ければ普通の調理となるかのう。

 どうじゃ追加報酬を出すから受けてはくれんか?」


 国王から直々の依頼となると普通なら断れるはずがないが僕には関係ない。

 だけど先程から目を輝かせて講習を見ているメイシス王女殿下が望むならば受けてもいいかと考えた僕は王女殿下に聞いてみた。


「メイシス王女殿下。あなたは国王陛下の依頼についてどうお考えでしょうか?僕はあなたの意見が聞きたいです」


「私は是非教えて欲しいです。私に錬金術の素養があるかは分かりませんが錬魔士さまの講習を受けたいと思います」


『やはりそう言うよな。王族だからと贔屓するつもりはないけど真剣に向き合ってひたむきに努力する人は僕は好きだ。

 まあ、もうすぐ成人を迎える王女殿下にサプライズプレゼントの前倒しだ』


「わかりました。上手くいくかは王女殿下の努力次第かと思われますが力になれるようにいたしましょう」


「ララ。悪いけどプリン・アラ・モードの料理錬金の講習は任せたからスプルスさんに指導を頼むよ。

 一応工房で特訓したから出来るだろ?スプルスさんも申し訳ないですけどそう言う事でお願いします。もちろんララの説明で分からないところがあれば対処しますので」


「わかったけど『貸しひとつ』よ。まあ、チョコレートケーキよりは簡単だから大丈夫だと思うけどね」


「わかりました。国王陛下様と王女殿下様の依頼に私が意見する事はありませんのでララさんよろしくお願いします」


 お互いの行動が確認できたところでララはスプルスに作り方のレクチャーを始めた。

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