第14話 僅かな期待感

俺は

さくらに極力、冷静に普通を装ってメールした

そうしなければ

格好悪く取り乱して

さくらを一方的に責めてしまいそうで・・・


”会いたいんだけど”


返信はいつも通り

夜遅かった


”最近、忙しくて会えてなかったね

ごめんね”


何が忙しかったんだよ・・・不信感で一杯だよ

突っ込みたくなる文面を睨む


”今日、会える?”


”今日は無理

どうしたの?”


”大切な話がある

会いたい

いつなら最短?”


”今週、行くね

健太郎が好きなチーズハンバーグ作るね”


”いや、明日にでも

時間作って”


リズムよく着ていた返信が止まる

数分後


”何の話し?

メールか電話じゃダメ?”


”ダメ”


”気になる”


”じゃ、明日

仕事終わったら

来てほしい

何時でもいい”


”いま、忙しくて・・・無理かも

今週行くから待っててほしいな

でも気にもなるから

少しだけ教えて

気になるよ~”


”ダメ

明日来てね

おやすみ”


”ケチ

おやすみ”


そこで

メールは終わった


さくらはどう感じただろう?


後ろめたいことがあるのなら

もしかしたら

気が付いたかもしれない

俺が”会いたい”だなんて口にしたことは

この関係が始まって

一度も無かったから


翌日

さくらは思ったより早く来た


多分

仕事を定時で切り上げて

急いで来たんだろう


「平日は忙しいの

残業ばかりでもうクタクタ~

定時で帰るなんて無理なのよね~

最近は週末も仕事を持って帰るから

なかなか健太郎に会えないのが辛いよ~」


これは

前回、前々回、そしてその前、泊まらないで帰っていくさくらの言葉


さくらは

以前とは違って

夕方、いや、夜にかかる時間に来ることが多くなっていた

買い物に行く時間がないからと言う事で

料理はしないでデリバリーをとった

片付けを簡単に済ませ

ベッドを背もたれに座った桜の後ろに入り込むように座り

俺は、さくらと甘い時間を過ごしたくて

その空気を作るために

彼女の肩をマッサージした

その空気をかき消すように気怠く言った言葉だった


”疲れているから

そんな気になれない”


その言葉には

それが含まれている様だった

俺も俺で

それなのに

自分の欲を強引に押し通すなんて

出来なくて


「そっか

さくらは最近、忙しそうだもんね

肩ガチガチだよ」


そう言って

下心なんてしまい込んで

彼女を労った


そして

21時を過ぎたころ


「最近、睡眠不足でね

疲れが取れないから」


そういって帰っていった


帰り際

あっさり「じゃあね」と背を向けるさくらの手を掴み

キスをした

行ってらっしゃいのキス

少しの離れ離れのキス

だけど

最近、欲求不満だった俺は

長めに

濃厚にしたから

さくらは仰け反りながら

両手で俺の体を抑えて


「寂しい想いさせてる?

ごめんね

時間ができたら泊まりに来るね」


俺の頭を優しく撫でて

帰って行った

そうやって俺は

適当にあしらわれて

キスすら蔑ろにされていた


鈍感で馬鹿な俺だって

最近のさくらの異変を感じていた


不満だったよ


だけど

俺は学生で

まだまだ社会人の大変さは

想像する事くらいしかできないから

せめて

彼女の大変さを

理解しようと思うようにしていた

子供じみたワガママを言って

さくらを困らせるような

格好悪い事は出来なかったんだ


だけど

それが

そんな事ではなかった


俺には会えなくても

兄さんとは会っていた

理由は知らない

何か理由が

俺が”そっか、それは仕方ないよ”と思えるような言い訳を

拗ねてしまった俺が

想像できなかった

ちゃんとした言い訳を期待して

俺は今から

さくらと対峙する


僅かな期待を抱きながら



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る