第13話 週末婚の恋人

一人暮らしを始めて

毎週、さくらは土曜の夕方から泊まりに来て

日曜の昼頃、帰っていった


週末婚のように

俺たちは

どこかデートへ行く事も無く


食材を買いに行き

一緒に料理して

一緒のベッドで抱き合って眠る

只それだけ

次の朝

昼近くに

遅く起きて

朝食のような昼食のような食事を

部屋着のまま食べた後

彼女は帰っていく

只それだけ


毎週毎週

変わらない生活だった

はじめは

何もかもが新しいから

何もかもが嬉しくて

どんな事にも笑顔でいれた


だけど

時が過ぎていく

嬉しかったことが当たり前になると

面倒くさかったり嫌気がさしたりもする

当たり前にある幸福に

単調な幸せは

気付きにくいもので

俺のような子供は・・・特にそうあって

もしかしたら

さくらと一緒にいれることを

当たり前に思いすぎていたのかもしれない


彼女が俺の部屋に来る回数が減り

週一から

月一となっていって

泊まることなく帰っていく日も増えていた


4年生の後半になると

就職も内定し

ほとんどの単位も取れていたので

俺だけ暇になっていた


たまには実家に帰ろうかな・・・


就職先が決まった事を電話で報告しただけで

帰っていなかったので

週末

さくらとの約束もない事だし

帰ることにした


正月にも帰らなかったから

だいぶん久しぶりだな・・・


家に帰ると

両親が俺の好物を用意していてくれた

こんなにもてなされるなら

たまに帰ってくるのもいいな


そう思い

俺は実家を満喫していた


「就職したら

帰ってくるの?」


と、母親


「いや、今の部屋の方が近いから

そこから通うよ」


そう言うと

父親は


「ちゃんと自分の給料から

家賃払えよ!

3月までしか家賃も小遣いも払わんからな」


そう言って笑った


「兄さんは最近、どうしてる?」


両親は顔を見合わせて

ニコニコして


「もしかしたら

結婚するかもね」


母は嬉しそうに言った

結婚か…

俺も嬉しくて

身を乗り出す


「マジで?そうなの?」


「どうなるかと思ったけど

よかったね

さくらちゃんと最近

またお付き合いしているみたい」


意味が理解できなかった

さくらってさくらの事?


「さくらちゃんとなら

結婚してもここに住んでくれそうだね」


「だめよ

お父さん

そんなこと言ったら

さくらちゃんが同居しなきゃって

プレッシャーになる

最初は二人で新婚生活するのもいいでしょ」


両親の妄想的想像はふくらみ

俺は誰の話を聞いているのか分からないまま

取り残され

固まっていた


「どうしたの?健太郎」


母が青ざめる俺に気が付く


「いや・・・そうなんだって・・・驚いて

さくらさんここにも来るの?」


「最近、何回か遊びに来てくれてね

仲がよさそうだから

きっとそうだって思うのよ」


嬉しそうな両親に

今の俺の心境なんて言えない

言えるわけがない

兄には会えなかった

会うと

俺とさくらとの関係をぶちまけてしまいそうだったから

俺は

急用だと嘘をついて

自分の家に帰った

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