【2010年 実写化映画】もしも、異世界転生モノを書くなら。

『倉木』


 記号的といえば、最近、転生モノの作品をつまみ食いしてるんやけど。

 ライアーゲームの映画を観たときのように、設定やなんやらが穴だらけのように感じた。人が死ぬような世界観であったら、ベルセルクより面白くはないし、誰も死なないゆっくりとした話の場合、いつになったら悪いやつが出てきて、暗い展開になるんやと期待して、肩透かしをくらってしまう。


 勝手な印象やけど、アニメの放送枠を次の番組改変まで維持するために、とりあえず作品を放送しましたってのが多いように思えた。だから、一年後には、いや半年後にさえ話題にあがらない作品が量産されているのではないかな。

 結局、いまの流行りがわかるだけで、執筆の参考にはならんと感じた。


 それよりも、転生モノを自分が書こうというのならば、映画を観るべきだとやっぱり思うわけで。せっかくなので、異世界ファンタジーの転生モノを執筆する前に、観たほうがいいと思う映画をピックアップしてみます。


『郷倉』


 おぉ、良いですね!

 僕も最近、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」をちらっと見たところでした。

「ソードアート・オンライン」って一時期のライトノベルを先遣した作品で、それこそ僕らが学生の頃からふつふつと人気が出ていったと記憶しています。


 そんな「ソードアート・オンライン」は基本的にVRMMORPGという、バーチャル世界でのゲームがメインなのですが、「アリシゼーション」は主人公の意識が、バーチャル世界に囚われてしまって、それを現実にいる登場人物が助けに行こうとするって話なんですよね。

 で、この主人公が過ごすバーチャル世界は、まさに転生モノの世界なんです。

「ソードアート・オンライン」の設定を使えば、現実で転生モノができる、と示そうとする作品になっているんですよね。


 それが成功しているか、失敗しているか。

 また、「ソードアート・オンライン」の世界観で、それをしなければならなかったのか? という問いはあるにせよ、意欲作であることは間違いありませんでした。

 ラノベ業界にとって、異世界転生モノは絶対に無視できないコンテンツまで膨れ上がってしまったんだなぁ、と最近は思います。


 これまた、それが良いとか悪いとかではなく、ライトノベルを語ったり、分析する上で必須項目までせり上がってきているので、倉木さんから見た異世界転生モノを執筆する前に見ておいた方が良い作品は楽しみです。


『倉木』


 一本目、ロード・オブ・ザ・リング。


 ――『指輪物語』を原作とする実写映画化作品。絶大な力を秘めた「一つの指輪」をめぐり、選ばれし旅の仲間9人と、冥王復活を目論む闇の軍勢との戦いと冒険を描く。(Wikipediaより)


 さらに、Wikipediaでは、あらすじだけでも、プロローグ、旅立ち、集結、試練、一行の離散と分けて説明されていました。

『旅の仲間』『二つの塔』『王の帰還』の三部構成をとりあえず観てもらいたい。前日譚にあたる『ホビットの冒険』の三部作は、元気があれば観る感じでいいんじゃないかな。

 オススメするにあたり、公開年を確認したら、2001年という20年も前の作品だと知った。最近の映画だと思っていたのに、そんなに前だとは思わなかった。どうりで、僕も白髪が増えたわけや。


 さてさて、本作を観てもらいたい層はどんな人だろう。ゲームの世界観が好きでファンタジーを書きたいと思った人。最近の転生モノしか見たことがない人。ここらへんかな。


 鑑賞中に、どこかで見たことがあると感じるシーンや設定が出てくるだろう。それは当たり前。だって、色んなファンタジーの原点に位置する作品の一つが、ロード・オブ・ザ・リングやからね。原点にして頂点という言葉が似合うともいえるでしょう。

 自らがファンタジーを執筆するならば、同じジャンルなので、これと勝負しなければならないってのを忘れないでもらいたい。

 でもまぁ、最近はファンタジーとなにかをプラスしているのが主流だからなぁ。真っ向勝負してないんだよな。

 ファンタジー、転生、プラスアルファ。要は組み合わせで面白さを見出している。

 でも、こういう変化球的な作品が主流になっているとはいえ、あくまで日本でも一部の層での流行りなのかもね。海外の映画で、そういうのをまだお目にかかっていないのも事実なわけで。そもそも、海外の役者が、転生してうだうだやってるのなんか、正直、実写でみたくないなぁ。

 ど真ん中ストレートでないから、細部に誤魔化しの多いファンタジー風のものが増えているのであれば虚しさを覚える。だからこそ、一度は王道作品に触れてもらいたいのかも。


 二本目、キャスト・アウェイ。


 ――フェデックス倉庫の生産性解決に世界中を飛び回るシステムエンジニアの男には、長年付き合っている彼女や、クリスマスを楽しく過ごす親族もいる。仕事ができるので会社内での信頼も高い。

 そんな主人公の乗った貨物機は太平洋に墜落する。彼は沈みゆく機体から一人だけ脱出し、流れ着いた無人島でサバイバル生活をすることとなる。


 シーンのほとんどを主人公のトム・ハンクス1人で演じているのだが、それでも問題なく面白いのは、役者、脚本、演出がどれも一流にほかならないからだろうね。


 本作に転生モノの要素があるとすれば、突然おとずれた新天地での生き残り方に通じるものがあるように感じた。

 しかも、オススメするのだから、物語の説得力は、キャスト・アウェイのほうが量産型の異世界転生モノのそれとは格がちがう。


 そもそも考えてみたら当たり前のことを描いてくれてんよね。転生前の人生が順調だった人間だからこそ、知恵と根性を駆使して生き残れるという至極当然な物語。逆にさ、ぽっと転生した学生や、不満たらたらで現実を生きてきた人間ならば、新天地でも、あっさりと死ぬと思う。

 そして、トム・ハンクス演じる主人公のようにスペック高めな男でも、運がなければどうしようもないというリアルなところまでも描いてくれている。


 主人公が墜落した機体には、フェデックスが運搬途中だったお客様への配達荷物も載っており、その中のいくつかは、主人公のあとを追うように、無人島の海岸に流れ着くのだ。

 この展開は、最近のファンタジー物のゲーム性に通じるとも感じた。というも、これってゲームでいうところの無課金アイテムが最初に与えられるのと形は同じやろ。ただ違うのは、課金ができない。初期アイテムを大事にしないと、追加は配布されないという点だろうか。


 ここで、荷物を回収した主人公の行動で、性格が細部で描かれている。

 本作では、なかなか箱を開けていかないのだ。無茶苦茶好きな演出ですよ。


 あくまで、お客様の荷物だから最初は開けない。いままでの常識と繋がっている感覚では、生き残れないだろうとハラハラして観ていたら、結局は一つの荷物を残すだけで、あとの荷物を取り出してサバイバル生活にいかしていく。


 この、一つだけ残しているという演出が憎いほどミソな映画です。この開けなかった荷物は、主人公が元いた世界との最後の繋がりといっても過言ではない。

 こういうものが転生モノの流行りにもあってほしい。それを思い出さんほど、転生前の現実がいやだったんなら、仕方ないけれども。


 本作は、物語終盤で無人島からの脱出が行われるんやけど、元の場所に戻ろうとする行動であるはずなのに、自らの死に方を選んで動き出したようにも見えてしまう。

 そして、苦労して脱出したところで、主人公が無人島で暮らした四年の間に、元いた暮らしの環境は変わってしまっている。たとえば、無人島で、いつも眺めていた写真の彼女は、新しい人生を歩き始めていたりしてね。


 そうなると、主人公も新しい人生を歩き出さなければならない。そのきっかけを与えるのが、無人島から共に脱出した未開封の荷物というギミック。何年もかかったけど、荷物を配達に訪れるという演出は、言葉では陳腐になりそうなものを最高な形で演出してくれた。


 ストーリーラインは、実にシンプルなのに、長尺の映画でした。別に、テンポが悪くないので、丁寧にやればこんだけ尺が必要になるって当然なことを教えてくれる作品。

 本作を転生モノが好きな人や、執筆したいと思っている人が観たとき、物語のはじまりと終盤の展開で、参考になることが多いと思う。

 つまり①異世界に来た。②そこに馴染むまでの流れ、③脱出までの流れ④戻ってきてからのこれから。

 お手本のような起承転結が、描かれている作品として勉強になる。ようは②の部分で引き伸ばすかどうかの違いやからね。


 三つ目、マイ・インターン。


 転生モノを見はじめて、一作目で思ったのは、職業モノと似ているなぁ、ってことやった。


 異世界という新天地は、新しい職場という新天地と重なる。過去の経験をいかして何かを有利にすすめられる。新しい場所だからこその壁にぶつかる。両方のジャンルで共通していることは他にも多いはずや。

 そう考えると、死んでしまってとか、召喚されてとか、とにかく自分が意図していない形で新天地に行き、なにかを頑張るってのは、キッカケとして卑怯だな、と思えてくる。そんなことで、新天地で頑張れるものかねぇ。


 だって、それって転職したいのに、その度胸がないから、なにかに巻き込まれるのを待っているようなもんやろ。あるいは、いまの現実が苦しいから、別のところならなんとかなると思っている。思っているだけで、自分からはなにもしない。バカかよ。


 さきほど話したキャスト・アウェイの主人公は、バリバリ仕事できたから、なんとか知恵を絞って生き残れた。それだけ大変な世界が新天地ではないのか。

 思っているだけで、自分からはなにもしない奴に、なんとかなるってファンタジー世界を甘くみすぎやろ。というか、ファンタジー世界を見下してるのが、最近の流行りなのか。たとえば、剣と魔法があって、現代日本よりも過ごしやすいって到底思えないのだが。


 異世界で簡単に過ごすために、チート能力を神みたいな奴が与えてくるのも理解ができん。なんで、そいつにだけそんなん与えるねん。だいたい、転生させる基準もわからん。「ドリフターズ」みたいに、歴史上の英雄たちが、死ぬ前に新天地に送られるっていうのでない限り納得できんぞ。


 愚痴が長くなった。

 まとめると、異世界にいったものが、順調に過ごすためには、それなりの人生経験や行動力があってこそだと思うわけで。

 だったら、ハナからチート級の奴が、新しいことに挑戦する映画で職業モノを探したところ「マイ・インターン」をオススメすることにしました。最初は、職業モノってことで「プラダを着た悪魔」を話そうと思ったけど、こっちのほうがよりチートな主人公かと思ったのでね。


 以下、あらすじ。


 ――若き女社長ジュールズのアパレル関係の会社に、シニア・インターン制度で採用された70歳の老人ベンがやってくる。若者ばかりの社内で当然浮いた存在になってしまうベンだったが、いつしか彼はその誠実で穏やかな人柄によって社内の人気者になっていく。やがてジュールズもベンを頼りにし、彼女の抱えている様々な難問に立ち向かっていく。


 70歳で妻に先立たれた老人にとって、それまで経験のなかったアパレル業界で働くのなんて、まさにファンタジー世界となんらかわらない。

 つまり、転生しなくても、それこそ寿命を全うする前でも、新しい世界に飛び込んでいけるやんって感じた。ただ、これを面白いと思う層には、転生モノが刺さらんっていうのも理解できる。たとえ、つくりが似ていても、好みがわかれるだろうね。


 それに、現実世界を描いている分、ファンタジー世界のように誤魔化しがきかなくなっている。アパレル業界の実情、若い女社長ゆえの悩み、再雇用で活躍するための方法、などなど。ラノベなどで見られる転生モノでは、ギャグやルールが曖昧な魔法のようなもので誤魔化すところを真っ向から解決してくれるのが、本作だ。

 そもそも、ここまでクオリティーの高いシナリオが用意できるのならば、わざわざ色々と面倒なファンタジー物を書く必要がないのかもしれんな。


 なんにせよ、リアルを描けないからファンタジーを描くというのは、物書きとしてはあってはならない逃げだと思う。



 さくさくっと、最近流行りの異世界転生モノに通じる映画をオススメするつもりだったのに、熱く語ってしまった。

 2010年の漫画原作実写映画という狭いくくりではなく、面白い作品から選べたので喋りすぎたのかもしね。

 それから、転生モノ=職業モノという僕の持論の場合、これぞ現代の異世界といえそうな「闇金ウシジマくん」を忘れてはいけないでしょう。

 その年がきたら、ウシジマを語りたいなぁ。

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